異世界召喚編

1章 モブオタクの異世界召喚

第1話 異世界召喚

 彼の名前は月城真耶つきしろまや。そして、こっちの女の子が夜桜奏よざくらかなで。高校2年で漫画研究部でオタクをやっていた。そのせいか、彼らは陰キャでクラスからハブられていた。別にいてもいなくても変わらない。だから、彼らは自信を持ってモブだと言える。


 そもそも、クラスに2つ勢力があるのがおかしい。しかも、その内の1つは真耶と奏の2人だけ。あとはクラスの陽キャ達だ。皆仲がいい。それに、アイツらが……いや、これはいいだろう。まぁ、強いて言うならアイドルみたいに追っかけがいると言うだけだ。しかもクラスのほとんどが追っかけ。だから仲がいいのだ。


 いや、今はそんなことはどうでもいい。それより、今真耶の目の前ではありえないことが起こっている。この状況を早く理解しないといけない。


「一体何が起こってるんだ!?」


「わかる人はいないのか!?」


 突如、そう言った声が聞こえてきた。どうやらクラスの陽キャ達が騒いでいるらしい。そんな慌てる必要も無いというのに……


「皆さん落ち着いて!今の状況を確認しないと!」


 いや、しなくてもわかるだろーが!とか言いたいけど、どうせ言っても気づかれないなら言わなくてもいいや。


 そもそも、教室にいたのに急にこんな神殿みたいなところに来たら誰でもすぐにわかるだろ。


「ね、ねぇ……まーくん、これって……」


 奏が不審な動きをしながら話しかけてきた。だが、だいたい気持ちはわかる。こんな状況なんだ、オタクからしてみれば夢のような状況だろう。


「慌てるな。君もオタクならこういう時にどうするべきかは分かるだろう」


 そう言うと奏は不審な動きをとめ落ち着きを取り戻した。


「だいたい状況は理解出来た。テンプレだからこのあとすぐに誰か来るはずだ。それまで慌てずに……お前なんで怒ってんだよ」


「む〜!もう学校じゃないよ!」


「は?あぁ、そう言えばもう学校じゃねぇな。制服着てるから忘れてたよ」


 真耶達はそんな会話をする。これには理由がある。2人が初めて出会ったのが高校1年の時で、たまたま漫画研究部に入ろうとした時に一緒になった。その時に君と呼んでいた癖が抜けずに学校では君と呼んでいる。しかし、プライベートは名前で呼んで欲しいというお願いから学校外では名前で呼ぶようにしているのだ。


 ちなみに、奏は真耶の事を何故かまーくんと呼ぶ。会った時からフレンドリーに話してくれていたが、今でも仲良しだ。


「奏、これは転機だ。僕達が力を発揮するチャンスなんだ」


 真耶は奏にそう言う。奏は少し微笑むと言ってきた。


「ついでに、いつも通りじゃなくなるね」


「ハハハハハ!そうだな!」


 真耶はそうやって笑った。


「てか、まーくんって今考えると異常だね。こんな状況になっても冷静すぎるし、昔から感情の起伏は少ないというか無いと思っていたけど、もうここまで来ると人間じゃないんじゃないかなって思えてくるよ」


「ハハハ……いきなりとんでもない悪口をぶち込んできたな……」


 真耶は苦笑いしか出来なかった。


「では皆さん!ついて行きますよ!」


 突如先生の声が聞こえた。どうやら2人が話している間に先生達も話が進んでいたようだ。


「僕達もついて行くよ」


「ん!」


 真耶達は、置いていかれないように小走りで皆を追いかけた。


 少し宮殿の廊下のような所を歩くと闘技場に出た。そこには、兵士のような人達が沢山いる。


「では、先程説明した通りにお願いします」


 そんな聞き慣れない声が聞こえた。気づいたらよく知らないおじいさんがいた。その人は先生と何かを話していた。そして、話が終わったのか先生が皆に話しかけてきた。


「皆さん!話があります!聞いてください!」


 先生がそう言うとクラスの人々はざわめき始めた。


「先生!一体何が起こってるんですか!?」


 クラスの1人が聞いた。


(普通分かるだろ……)


 真耶はそう思いながらも先生の話を聞く。


「皆さんは信じきれないかもしれませんが……どうやら私達は、異世界に召喚されたようです!」


 その言葉にクラスの皆が絶句した。信じきれていないと言った様子だ。2人はそんな皆をよそ目に闘技場のような建物に目をやった。


「それでは皆さん!突然の事で混乱してるかもしれませんが、下の建物まで来て下さいとの事なので行きましょう!」


 先生がそう言うと、皆は嫌々ながらもついて行った。中には、楽しんでいる者もいたが恐らく事実を知った途端絶望するだろう。何故僕がこんなこと言うかって?それは簡単な話だ。だいたいこういう時は決まって……


「あの……先生!私達って帰れるんですか!?」


 クラスの1人が聞いた。ナイス質問だ。恐らく先生も言われたのだろう。そう、こういう時は決まって……


「あの、その、それが……うぅぅ……すみません!先程聞いたのですが……皆さんは……」


 帰れないんだよな。


「帰れないんです!」


 その場にざわめきが広がった。さっきまで楽しそうにしていた人、不安がっていた人、全ての人が恐怖のあまり足が震える。変えられないという絶望は皆を恐怖に陥れた。


(だが、こういう状況になれば帰れないのは当たり前だろ。バカなのか?いや、もしかしたら誰か時空間転移魔法が使えるやつがいるかもしれないな。ま、使えたところで、今の状態じゃ帰ることは無理だがな)


「皆さん!辛いのは分かります!でも、ここは先に進みましょう!」


 先生の言葉で皆の不安は少し止んだ。しかし、皆は怖がりながら歩いていく。闘技場にはすぐに着いた。闘技場に着くと、兵士のような男が喋りだした。


「お前ら!突然だがお前らには今から自分のステータスを確認してもらう!今から全員にこのステータスプレートを配る!これに自分の指紋と血を流せ!そしたら今のお前らのステータスが分かる!」


 皆は嫌々ながらも言われた通りにした。すると、ステータスプレートと言われたものに文字が浮かぶ。そこにはこう書かれていた。


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

〈職業〉オタク

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

〈筋力〉???

〈魔力〉???

〈防御〉???

〈敏捷〉???

〈知力〉???

〈耐性〉???

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

〈魔法・スキル〉

 ・物理変化

 ・言語理解

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

特殊エクストラ魔法・スキル〉

 ・魔眼まがん 未開放

 ・聖眼せいがん 未開放

 ・邪眼じゃがん 未開放

 ・心眼しんがん 未開放

 ・神眼しんがん 未開放

 ・星眼スターアイ 未開放

 ・ ・

 ・ ・

 ・ ・

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━「……」


 真耶は絶句した。ステータスプレートにはよく分からないものしか書かれていなかったからだ。


(物理変化ってなんだよ。もしかしてあれか?物質の質量は変わらないが形だけ変わるというあれか?てか、もしかしたらこれはモブ卒業なんじゃないか?)


 そんなことを思っていると、突然大きな声が聞こえた。


「凄いな!まさか勇者ゆうしゃが現れるとは!それに、治癒師ちゆし魔道士まどうし……珍しい職業ばっかりだ!」


 ……どうやら勇者が出たらしい。まぁ、だいたい予想はしていたがやはりアイツか。その勇者の名前は煌希望きらめききぼう。まんま勇者っぽい名前だ。


「すげー!ステータス全部100越えじゃねぇか!」


「スキルも7個!?やっぱ、勇者は違ぇな!」


「キャー!希望様こっちを向いてー♡」


 そんな声が聞こえる。真耶は自分の方が強そうなのになぁ、とか思いながら影の存在となった。


「まーくん!どう?ステータスはどんなだった?」


「ん?まあまあだな。そう言う奏はどうなんだ?」


「私凄いよ!スキルが10個もあるんだよ!それに、魔力だけは勇者より多いよ!」


 え?10個?10個で凄いのか?いや、実際僕は2個……いや、言語理解は抜いて1個しかないが特殊エクストラスキルがある。


特殊エクストラ魔法やスキルは何個あるんだ?」


「え?特殊エクストラ魔法?なにそれ?私無いよ。そんなの」


「は?そうなのか?」


「もしかしてあるの!?」


「い、いや、ねぇよ!勇者が持ってるって聞こえたからさ!」


 そう言うと、奏はあからさまに落胆した。実際のところ、勇者も持ってはいないらしいがそこはどうでもいいだろう。どうせいつか手にいれるんだ。真耶は絶対にバレないようにステータスプレートを隠した。


「そう言えば確認はされたの?」


「確認?されてないよ。皆されてるのか?」


「うん。やってないならしてこないと」


「フッ、そう言うお前もしてないんだろ」


 そう言うと、そっぽを向いた。やはりしてなかったようだ。だが、まぁいい。このステータスは見せる訳にはいかない。そんな気がするのだ。


(俺がクラスのモブで良かったよ)


 真耶は心の中からそう思った。


「それでは!明日から早速訓練に入る!今日は体を休めて明日に備えろ!以上!解散!」


 そして、兵士の人達は帰っていく。どうやらこれで終わりらしい。皆は戸惑いながらも帰っていく。しかし、希望だけは残っていた。さっきから話していた兵士の人と話している。どうやら今から訓練をしたいらしい。兵士の男は少し笑うと、承諾したのだろう。希望に木刀を渡して何かを話し始めた。


「……」


 真耶も残ることに決めた。今日中に少しでも慣れないと、そう思って残った。そして、少し自主練して部屋へと戻る。それで、1日目が終わりを告げる。こうして、真耶の異世界ライフが始まった。

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