第14話 臣籍降下
太政官に参議以上の公卿が集められた。
議会の議題は財政難に関する提案だ。
議長から議題の詳細が伝えられる。
「平城京の造設が一段落した昨今ではありますが、未だ財政が逼迫している状況が続いております。皆様のご意見をお聞かせ願いたく参集頂いた次第です」
「租税を改正して各地からの収入を増やすことが望ましいが、今の状況からすると厳しいと言える」
「確かな成果が得られる確信がない。しからば、東国の支配地をさらに拡張することはできないだろうか。文室殿のご意見を伺いたい」
田村麻呂亡き後、征夷大将軍となった文室綿麻呂は先年、陸奥南部、出羽の国を平定している。その功績により従三位に叙位され、公卿となっている。
「支配地を更に北に進めるためには、派兵も視野に入れねばなりますまい。軍役の費えも大層ものになるかと。仮に陸奥国の北部を平定したとしても、人も少ない場所ゆえ、開発には
支配地など全く知らぬ公卿らには、異を唱えることなどできない。
「収入が増やせないのであれば、支出を減らすより致し方ありますまい」
「大蔵卿、近年支出が多いものの中で、改正の余地があるものは無いか?」
「軍役にかかる費えは年々抑えてきていますが、やはり皇室にかかる費えは大きいものかと存じます」
「ここ数年は大きな館などの増改築は無かったと思われるが」
「はい。大きな費えはありません」
「では、いかなるところの負担が多いのか?」
「申し上げにくいのですが、皇室の費えにかかるものが相応にあります。ここに手を入れることが必要に思われます」
「なれど皇室には古来からの格式と言うものがある。年次の行事や内容を簡素化することはいかがなものかと存ずる」
「先帝同様、今上帝にも多くのご夫人、皇子、皇女が居られます。日々かかる費えも少ないはありません。ここに手を入れることが肝要ではないかと」
「確かに。お子が多いことに越したことはありませぬが、五十はゆうに超えておられる。些か多過ぎる」
皆、一族の繁栄のために帝に娘を入内させている。冬嗣始め、ここに居るものの中にも幾人かいる。制度化すれば良い筈だが、表向きにそれを口にできるものなど居ない。皆生き残るため、必死なのである。
「では此度、幾人かの皇子、皇女の方々に皇室を離れて頂くことにしましょう」
大蔵卿はこのことを帝に奏上することを
「これには帝より裁可を頂かなければなりません。大臣からこの旨を上表願いたい」
国費を圧迫しているのであれば、帝も否やは言えない。責任の一旦は自身にもあるのだから。
嵯峨天皇より詔が発布され、皇子の
皇女の
食い扶持を減らすための人員のため、母の身分が低い子が対象になる。のちに嵯峨源氏と言われ、源氏の発祥と言われる。
後世で活躍する源姓の人物は、このあとの物語で登場する文徳天皇、清和天皇の子らが同じく臣籍降下して、源氏姓を与えられたものたちの末裔にあたる。
これだけの削減くらいで国費の圧迫を食い止められるとは思えないが、世に対策をしていることを知らしめるためのものであったと考えられる。
その後、彼らの弟、妹たちも続々臣籍降下されることになる。
この『源』姓が使われたのは、中国の魏で臣下に名乗らせられたことに由来する。
さらに十年後の天長二年(八二五年)にも、嵯峨天皇、大伴親王の弟にあたる
こちらは後に、平清盛を輩出する平家の祖となるものたちだ。
降下した中で、話に登場しない皇女についての、その後について記したい。
貞姫:承和八年(八四一年)に従四位上に叙された。それ以降の記録は無い。
全姫:後の清和天皇の代に
善姫:降下以降の記録は無い。
翌年の弘仁七年(八一六年)
嵯峨天皇は自身のために尽くしてくれた二人に恩賜を与えた。
冬嗣は権中納言の職に任命された。臨時的に任命される官職であるがゆえ、中納言の方が上席である。
空海は平城上皇の事変以来、都に留まり国家の安寧のために長い間、加持祈祷を行なった。
立教のために最良の場所を高野山に見つけた。帝は空海のために高野山を下賜した。
そしてこの地に、
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