第167話圭太は、母の生まれのことで、芳香に申し訳ないと思う。

平野家と圭太は、佃住吉神社で別れた。

芳香は、今日の夜からと迫ったけれど、圭太は冷静に諭した。

「受け入れるにも、準備がある」

「気持ちが変わるわけではないので、焦る必要は何もない」


芳香の母和美も、圭太の言葉を是とした。

「やはり、しっかり準備をしてでないと、圭太さんにも迷惑」

芳香は、「圭太に迷惑」が重かったようだ。

「後で連絡します」と、築地の家に帰って行った。


佃住吉から、数分歩き、圭太は月島駅からメトロに乗った。

目的地は、池田家の墓。(池田華代の墓参をするため)

途中のコンビニで線香とライターを買った。

墓地に歩きながら、「へその緒」を池田光子が「届けたい」と言ったことを思い出した。

その時に、芳香がいると、説明が必要になると、思う。

そして、強い不安を覚えた。


「母は池田華代の娘で、池田家から金のために捨てられた」

「今更、里子のように池田家が言ったとしても、それは嘘」

「当時の池田家からすれば、不倫の子とされていた」

「そして、俺は、そんな娘の子」


その説明を考えた時点で、実に、苦々しい。

「芳香は呆れて、家を出ていくかもしれない」

そんな思いも強い。(それが当然と思う)


また少し歩いて、不安になった。

「芳香に、平野家に事実を言えば、即離婚だって、考えられる」

「そうなると、結婚は、待った方が安全」

「俺は、芳香に恥をかかせるわけにはいかない」

「もちろん、平野家にも」

「そうなると、実に申し訳ないことを、しでかしてしまった」

「俺は、何と馬鹿な人間なのか、万死に値する」

「あんなに慕って来る芳香に傷をつけてしまった」


しかし、こうも思う。

「俺の力で、どうともできないこと」

「しかし、母と池田華代、池田家の関係は、あえて言うべきことだろうか」

「そんな恥さらしのことを」

「そもそも、生まれて来た母さんが悪いのか」

「そんな母さんと結婚した親父も悪いのか」

「俺も、生まれないほうがよかったのか」

「しかし、胃が痛い・・・切れるような」


圭太は、考えがまとまらないまま、霊園に着き、池田家の墓に着いた。

(池田商事の総務部の時に、墓掃除をさせられ、場所は知っていた)


ここでも、申し訳ない気持ちで線香をあげ、手を合わせた。

「不倫の娘の子」それを思うと、墓そのものを直視できなかった。

かろうじて、「池田華代からの手紙、見舞いに行ったこと」それだけが、圭太が池田家の墓前に立てる理由だった。

(とても池田家の血を引く、そんな思いは、持つべきではないと思った)


霊園を出て、月島のマンションに直帰した。

(浮かれて歩く気分でも、身分でもないと思った)

気持ちが落ち込んでいるので、口に何も入る気がしない。

胃もかなり痛くなって来たので、胃薬を2倍に飲んだ。


しばらくして、胃薬の効果(副作用)が、強く出た。

圭太は、眩暈とともに、ベッドに倒れ込んでしまった。







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