第96話紀子と圭太の昼食

昼食の時間になった。

私、河合紀子は、圭太を誘った。(少し心配だった)(食べない場合がある、と噂で聞いていたから)

ところが、圭太は、スンナリと私の誘いに乗ってくれた。

「いいよ、紀子さん、たまには」(・・・さっきまでの能面は何?責めたくなる)


「圭太さん、何か食べたいものある?」(ここは慎重、小食と聞いていたから)

困った返事が返って来た。

「普通の食事でいい」(その普通とは何ぞや?)(蹴飛ばしたくなった)


結局、東銀座の和食店になった。(高級店であるけれど、昼はサラリーマン向けにリーズナブルな値段のランチを出している)

圭太が「焼き魚定食(ほっけ)」を頼んだので、私は「刺身定食」。


で・・・悔しいことに、焼き魚定食のほうが、美味しそう。

ホッケの香りがプンプンと・・・湯気が・・・やばいほどに。


圭太は、すぐに気がついた。

「食べたそうだね、半分取っていいよ」

私は、胸がドキン。

「私の刺身もあげる」(間接キスそのものだ)


圭太は、上手に焼き魚を半分に。

取り皿も頼んでくれて、私の皿に。


私も、ためらってはいられない。

マグロとサーモン、イカを圭太の皿に。

(ここで間接キスのドキドキ感は消滅、不思議に当たり前感がある)


圭太は、やさしい顔。(お・・・ようやく昔の圭太顏だ・・・可愛いかも)

「あのさ、刺身って、何から食べる?」(変な質問・・・意味不明)


「サーモンから食べるかな、好きだし」(本音を言った・・・他に浮かばなかった)


圭太は、「へえ・・・」と、イカを食べる。(焼き魚は口にしていない)


「何かあるの?それ」(聞きたくなった)


圭太は、珍しく丸い目。

「普通は・・・」(その丸い目、可愛いけど・・・何を言うの?)


「うん」


圭太は。ニヤッと笑う。

「味が薄くて、脂が少ないものから食べるほうが美味しいかと」


「う・・・」(私は、またやられた、マウントを取られた)(和食の基本を知らない日本人女子をさらけ出してしまった)(あのニヤッと笑った顔が、憎らしいぞ!)


圭太は、私を見透かしたようなフォロー。

「まあ、食べ方は自由さ」(それが、小憎らしい・・・)


だから、やりこめたくなった。

「何よ、そんなにヤセて!」

「そんなヤセ男でなかった、食べないと怒るよ」(ハツラツ健康な圭太が好きだった)


圭太は、少し引いた。

「まあ・・・事情はあるよ、ごめん」


私は、引かれると、追いかけたくなる性格。

「私に任せて、圭太」(時々、舌足らずだ・・・意味わかるかな)


案の定、圭太は「え?」と、ますます丸い目だ。(可愛いな、よく見ると美形だ)


「だから、食生活の管理」(私の母は、管理栄養士だ、知識も伝授されている)


圭太は、「はぁ・・・」と首を横に振った。(何よ!私ではダメなの?佐藤由紀は問題外なんでしょ?)


圭太からは、基本的な質問だった。

「由紀さん、何で、そんなことしたいの?」

「俺が頼んだなら、わかる」

「でも、そうではないでしょ?」


私は、声が震えた。

「それ・・・二人きりの時に言いたいの」


圭太は、それに答えなかった。

スッと立ちあがって、会計を済ませている。


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