第43話圭太は、由紀には氷対応を続ける 相続税申告のために税理士事務所へ
ほぼデタラメに近かった築地商会の在庫管理は、圭太の指摘で改善がなされた。
大幅な修正等があったものの、決算に悪影響を与えるまでには至らなかった。
業務上横領の問題は、築地商会の判断に任せた。(大きな問題にしたくない、という岡田社長の判断となった)
監査チームは、現地での監査を終了し、銀座監査法人ビルでの監査文書の取りまとめ作業に入った。
圭太は、その取りまとめ作業でも、能力の高さを発揮した。
指摘事項の分類と、評価(表現)の統一に、全くブレがなく速い。
これは先輩監査士たちから、高評価を受けた。
「圭太君が入ると、作業が楽だ」
「監査に向いていると思うよ」
「指摘事項の文も読みやすい、わかりやすい言葉で書いてある」
そんな評価を受けても、圭太は表情を変えない。
「監査なので、合っているか、間違っているか」
「判断が分かれる場合は、保守的な安全な指摘をしているだけ、褒められる話とか、そんな要素はありません」
隣に座る佐藤由紀は、圭太の仕事より、表情の青さのほうが心配。
「朝ごはん食べました?肌の艶もありません」
圭太からは、いつもの「氷」の返し。
「どうなろうと、貴方に何の影響が?」
「お昼も夜も、今後は誘う必要はありません」
「どうか、気の合うお方と」
佐藤由紀は、顔を赤くするほど、気に入らないけれど、どうにもならなかった。
圭太は今日の昼も、いつものように食べず、業務終了後は、スタスタと姿を消してしまったのだから。
その圭太が向かった先は、母が勤めていた税理士事務所だった。
母の友人の西田と、税理士事務所長高橋(銀座監査法人専務高橋美津子の実弟)が笑顔で迎えてくれた。
西田
「どう?少しは落ち着いた?」
圭太は深く頭を下げる。
「はい、おかげさまで、ありがとうございました」
税理士事務所長高橋は満面の笑み。
「姉貴も圭太君の仕事には、驚いているよ」
「すごいねえ、最初から、出来る子とはわかっていたけれど」
圭太は、新しい仕事の紹介先でもあるので、ここでも深謝。
「ありがとうございます、紹介していただいて」
「迷惑をかけないように、ついて行くだけです」
そして、用件を述べた。
「そろそろ、相続税の申告作業をはじめようかと」
「役所、銀行、保険会社の書類を集めたいので、教えて欲しいのですが」
税理士事務所長の高橋は、笑顔。
「仕事も忙しいだろうから、委任状もらえば、我々がやる」
「料金も、心配いらないかな」
圭太は、ホッとしたけれど、どうしても先に見たい資料があった。
「あの・・・母の改製原戸籍を早く見たくて」
母の元同僚西田の表情が変わった。
「何か気になることが?」
圭太は、慎重。
「あまり、祖父母のことに詳しくなくて」
「どんな人だったのかなと」
西田は、深く頷いた。
「わかりました、では、そのように」
圭太は、早くその改製原戸籍を見たいので、珍しくドキドキしている。
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