第34話圭太の朝食 山本美紀の突進
翌朝7時、圭太は目覚めた。
「日曜日なのに」
定時に目覚めてしまうのが、サラリーマンのサガなので、悔しく思う。
水を飲んだら、久しぶりに空腹感。
エネルギーゼリーも嫌なので、月島商店街に出た。
洋食の朝食を出している店もある。
しかし、食べたいのは和食、脂が強いのは、今は無理。
ハンバーガーショップも見えた。
しかし、子供が多く入っていて、その元気には抗せない
結局、コンビニで「あんぱんと牛乳」を買い、佃島まで歩いた。
ベンチが空いていたので、牛乳であんぱんを身体に流し込む。
「和食が食べたかったのに」
「コンビニにも、おにぎりくらいはあった」
食への短慮を嘆いても、今さら仕方がない。
とにかく、腹に入れば、何でもよかった。
天気は、春爛漫。
風も気持ちがいい。
振り返ると、佃煮屋が3軒、少し先に佃住吉が見える。
佃煮を買おうと思ったが、迷った。
米を買わなければならない、といで炊かなければならないと思うと面倒。
そこまでの気力はない。
佃住吉には、参拝をした。
信心深いタイプではないが、暇だっただけ。
「でも、久々の休日のようだ」
佃住吉を出て、圭太は、少し機嫌を直した。
母の葬儀やら退職、転職で、緊張が続いた。
その前は、母の病気(いつ死ぬのかで、気が気ではなかった)で、土曜も日曜も不安で仕方なかった。
昨日のように、遠くまで散歩する気はない。
「部屋の整理でもするかな」
「母さんの遺品は、少しずつ・・・まだ手を付けたくない」
そう思って、また月島のマンションに戻ろうと歩き出して、数分後だった。
池田商事の山本美紀の顔が、信号の向こうに見えた。
圭太は、「偶然か、俺には関係ない」と思った。
だから、信号が変わり、すれ違っても会釈だけ。
声は出さないですれ違う・・・予定だった。
そうは進まなかった。
「圭太さん!ちょっと!」
山本美紀は、立ち止まった。
圭太は、困惑した。
何も、そんなに大声を出さなくても、と思う。
まるで、何か悪いことでもしたか、そんな響きも感じる「呼び止め」だった。
「はい、何でしょうか」
圭太は、冷静に返した。
それ以外に、何も言うことはない。
山本美紀は、涙顔。
「どこに行っていたの?」
「マンションまで行きました」
「でも、いないから」
圭太は「相変わらず、感情だけの女」と思った。
そんなことをされる理由もない、そもそも今朝来る連絡も受けていないのだから。
「だから、何でしょうか?」
「何のために、来たの?」
「どこに行こうと、あなたに答える必要が?」
「それと、通行人もいます」
「大声も出さないで、泣き顔も迷惑です」
圭太は、これで、山本美紀は帰ると思った。(冷たいかもしれないとは、思った)
しかし、そうではなかった。
山本美紀は、圭太に突進、むしゃぶりついて来たのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます