初めての買い物
「よし、約束通り今日は街に出掛けるぞウルちゃん」
昨夜、少しずつ魔法を教えると決めたエリーシャだったが、それは別に急ぐことでもないので、今日はウルティナの喜ぶ顔を優先して街に行くことに。
昨日恐い思いをさせてしまったという、引け目もあったのだろう。
「わぁい! またあまいのたべれるかなぁ?」
「ああ、きっと食べれるさ。今日はこの前とは違う街に行ってみよう」
「たのしみだねぇ、メリィ」
「メェ~!」
この前と同じく、エリーシャがウルティナを抱きかかえて飛び、街を目指す。
今回選んだ街は『ソラリス』。
セルムスフィアの隣にある街だった。
街並みや住む人種にそこまでの違いはないが、少しでもいろいろな所を見せてあげたいというエリーシャの親心だった。
「やっぱりまちはひとがいっぱいだね~」
「メェ!」
人混みをメリィの背中に乗って移動するウルティナ。
その後ろ姿を、エリーシャは優しく見守りながらついていく。
「お、あれはどうだウルちゃん。甘そうだぞ?」
街に入ってすぐ、エリーシャはウルティナが好きそうな食べ物を売ってる屋台を見つけた。
「わぁ、あれはなぁに? すごくいいにおい!」
「どれ、妾が一つ買ってこよう」
「まってママ、ウルがかうの!」
この前の街でお金を払うことによって食べ物が手に入ると学んだウルティナは、自分でお金を払って買いたいようだ。
「そうか、じゃあこれで買ってくるといい」
エリーシャは銅貨を一枚渡して、ウルティナの小さな手に握らせた。
「これでみっつかえる?」
渡された銅貨を見て、ウルティナは指を三本立てて、エリーシャに見せる。
リンゴ飴の時は一枚しか渡してなかったので、一枚で一つ、といった認識だったようだ。
「ウルちゃんは三つ食べたいのか?」
「ん~ん、メリィとママのぶんだよ」
「はは、妾はお腹が空いてないから大丈夫だ。メリィはどうだ?」
クンクンと、匂いを嗅ぐメリィ。
「メメェ~!!」
どうやら食べられるものと判断したようだ。
「ではもう一枚渡すから、ウルちゃんとメリィとで二つ買ってくるといい」
「ありがと~」
追加の銅貨を渡したあと、エリーシャは屋台横のベンチで娘の初めての買い物を見守ることに。
◆
「おじさん、これなぁに?」
屋台前まできたウルティナは、まずは買う前に、何という食べ物なのかを尋ねる。
「お、一人でおつかいかな? これはチョコバナナっていってな、バナナって甘い果物に、甘いチョコレートをかけた、甘さの暴力ってなもんさぁ! 旨いぞぉ」
するとタオルを頭に巻いた気のいい屋台のおじさんが、親切に教えてくれる。
「ウルあまいのすきなの! ふたつください!」
銅貨を二枚差し出す。
「はいよ! じゃあチョコバナナを渡す前に、おじさんとジャンケン勝負だ。勝ったらもう一つおまけだよ」
「じゃんけん? それなぁに?」
聞いたこともない言葉に、小首を傾げる。
「ジャンケンってのはな、グーとチョキとパーの手で勝負する遊びさ」
屋台のおじさんは、ウルティナにもわかるように、丁寧に説明していく。
「グーはチョキより強くて、チョキはパーより強い、そしてパーはグーよりも強いんだ。お互いが同じ手だったらやり直しだ」
最初は訳がわからなかったウルティナだが、何回もおじさんと練習してるうちに理解したようだった。
「よし、じゃあ本番だ。ジャンケン――――」
「――――ぽん!!」
おじさんが出したのはグーで、ウルティナが出したのはパーだった。
「やったぁ、ウルのかち?」
「くはぁ、嬢ちゃんの勝ちだ。ほれ、おまけにもう一本だ!」
「ありがと~」
「また来てくれよ!」
ウルティナはチョコバナナを手に、満足気にややかけ足で母の元に戻った。
「みて、ママ。あのね、じゃんけんでかったの! そしたらもうひとつくれたの! だからママにあげるね!」
「一人で買い物もできるとは、偉いぞウルちゃん!!」
エリーシャはチョコバナナを受け取ると、反対の手で娘の頭をいつもしてるように撫で回す。
「えへへ。はい、メリィも!」
「メェ!」
エリーシャに一つ手渡したあと、メリィの口元にチョコバナナを運び食べさせる。
パクンと、メリィは一口で食べてしまった。
「どう? おいしい?」
「メ!」
短く鳴いたメリィは満足気に頷いた。
「じゃあウルも」
そしていよいよ自分が食べる番。
「はわゎぁ~、あまぁい!」
ベンチにちょこんと座ってチョコバナナを食べたウルティナは、足をバタバタさせながら喜んでいた。
「おいしぃね!」
「ああ、そうだな」
口の周りにベットリとチョコをつけながら幸せそうに笑いかけてくる娘に、甘いものがあまり好きではないエリーシャもパクりと一口食べ、目尻を下げて笑い返すのだった。
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