第九百十九話 弱化した能力の確認と列車からの脱出

 ベリアルに指摘された通り、待機している間に己の能力の再確認をすることにした。

 とはいっても主格は何でもかんでも取り込んでしまう妖魔としての能力なのだろう。

 この体は不思議だと強く感じ始めている。

 元は目も見えずただの人間程度の能力しかなかった。

 モンスターが馴染む程自身が強化されるプログレスウェポンとまではいかないが、多少の

力の還元影響はあるのだろう。

 使い勝手の良し悪しはあるものの、幾つかのモンスター能力は妖魔としての力、妖力として行使出来る。

 この妖力は妖魔としての術である妖術と同意着で、肉体的、精神的疲労を伴う。

 俺の使える妖術は妖楼の術、それからアネスタさんから教わった妖氷造形術、妖雪造形術の

三つだけだ。

 しかし星の力を奪われてから、氷、雪の造形術を行使出来ない。

 そればかりか妖赤海星などの技も使用出来ない。

 ジオは簡単に消えるものじゃないと言っていたが……封印されているような状態だろうか? 


 俺にはそれ以外にも取り込んだモンスターを放出して一緒に戦ったりも出来る。

 そして真化。これは妖魔に秘められた力を感情を魔寄りにして戦う形態だ。

 恐ろしい程の能力アップを誇るが、現在は更にその上をいく異種形態、絶魔という形態を短い

時間取れるようになった。

 絶魔形態は能力の向上だけでなく、特殊な技も使用可能……だったがこちらも星依存の技が多かった。


 ここまでが妖魔としての力だ。つまり現状は真化、絶魔形態とモンスター能力行使で戦えるわけだ。

 ……ただの妖魔の術だけだったらここまでだ。

 これ以外にも神魔解放……第七感の解放形態、そして紫電清霜……体の中を巡る電気信号が外に具現化

したような感覚となるこの二つがあるが、俺にはどちらも神髄を発揮出来ていない気がする。

 俺の先生であるベルローゼさんが更なる飛躍を遂げていそうだ。


 そして更に……伝書の力、ラモト。炎による攻撃手段だ。

 ギルアテは広範囲攻撃が可能な必殺技に近いが、狙いを定め辛く、打ち終わりの隙がでかい。

 いや、ラモトの攻撃全てがそうだといえる。

 扱いが難しく、限られた場面でしか使えない実験中といった戦闘手段だ。

 更には獣戦車化という獣落ちした形態があったが……こちらは確実にベリアルの能力だった。

 もしかしたら再度ベリアルと一つになれば、カタストロフィも再度行使出来るのかもしれな

いが……。


 武器は二振りの剣、ティソーナ、コラーダと、自立型戦闘武器で夢幻級でも最上位といえる

ルーニー。

 こいつは元々プログレスウェポンだったが、改良に改良を重ねて恐ろしいまでの能力を持つ

武器と化した。

 無論所持する武器としても扱うことが出来、ルーニー……鳥の形態へと変貌する前はシールド

ガントレットの内側にカットラスがしまわれた状態となる。

 このカットラスが嘴となり戦う……いわゆる変幻武具となるわけだ。

 防具はというと、現状の装備は列車で拾った謎の黒い妖魔防具一式だが、絶魔状態では

防御力の高い黒衣を身に纏い戦闘する。

 最も不安なのが防具だが、今は状況に合わせて着衣を変える必要があるだろう。


 ……こんなところだな。他にも幻術の力を状況によって多少使えるのと、自傷する目の

力があるが、こちらは余り使用する機会が無い。

 ここからは剣技で戦うことが多いだろう。


「どうだ。まとまったか?」

「少しはな。相変わらず遠距離攻撃に向いてない」

「取ってつけたような遠距離攻撃など、必要ないですわね。何せわたくしがいるのですから」

「雷帝の前じゃ鉄砲玉を用意したところで豆鉄砲だろ。おめえの前世じゃどうだったんだ?」

「俺の前世は圧倒的な銃社会……遠距離攻撃社会だったな。お前、そういや銃出してたよな」

「ああ、ゴーストイーターだろ。ありゃあおめえの前世でいう銃じゃねえな」

「そうなのか? まぁ俺の前世にゴーストなんておっかない存在いなかったけど」

「そりゃおめえ。ゴーストが生まれる条件が整ってねえと生まれねえからな。レイス

と一緒だぜ。まぁよ。列車から降りりゃあ俺のエゴイストテュポーンもある」

「あの術はどうやって身に着けたのかしらね。あなたの技に大変興味があるのだけれど」

「ふん。おめえに教えてもしょうがねえだろ。互いに幻魔寄りの存在なんだからな」

「……そもそも魔人ベリアルってのは何なんだ?」

「おめえが気にする必要は無ぇ。俺たちは転生してベルアーリになったわけだ。おめえは

おめえの前世から引き継いだ力。俺は俺の前世から引き継いだ力。互いに説明つかなくて

もよ。そりゃしょうがねえってことさ」

「面白いですわね。一つの器に二つの魂。そしてどちらも遠い前世の力を引き継いでいるな

んて。わたくしが好きなお話ですわね……いえ、お話に違いないのだわ!」

「結局、良く分からないってことか……さて、そろそろ目的地付近……レイビー。運転側には

何て伝えたんだ?」

「ええっとぉ。近づいたら雷を切ってー、速度を落としてーって」

「外の電撃、かなり弱くなっていますわね」

「速度も落ちてきやがった。そろそろだな」

「落としたジーヴァとか、大丈夫だったのか?」

「問題ねえだろ。あの鎧は反則だぜ」

「どういった仕組みか分かりませんが、わたくしもそういったときのための攻撃手段をそ

ろそろお見せした方が良いのかしらね……」

「ベルベディシア、お前まだ何かあるのか?」

「そうですわね。実はわたくし、一人でならフェルドナーガの下から離脱することが

出来たのですわ。ただ……」

「ただ?」

「殿方が迎えに来てくれるなんてまたと無い機会ですわ! 必ず助けに来る……いいえ

助けに来なかったら消炭にする! これこそわたくしの浪漫ですわ!」


 ……うーん。

 乙女の考えることは分からないが、その恐ろしそうな能力を使う機会が今じゃ無くて

本当に良かったです。

 さて……「ベリアル、封印に戻れ。行くぞベルベディシア!」


 列車から飛び降りて着地する。

 確かに雷撃の影響が極めて弱くなっているが……それでも迸る雷撃があるんですけど!? 


「痛っ……本当に平気かよこれ!」

「何を仰ってますの。この程度の雷撃で。さぁ大人しくなさい!」


 ベルベディシアが地面へ手をつけると……迸っていた雷撃が静まり返る。

 いやいや。全然大丈夫じゃないから! どんな体質してんだよ。

 ここは広いトンネル部分で電撃が収まるとかなり暗い。

 列車はそのままベレッタへ向けて走っていったようだ。

 ひとまずこの壁を破壊するか……「フンッ! ……硬っ。嘘だろ」

「ふう。無事降りれたみてえだな。少し下がってな……形態を戻すからよ」

「えらく硬い壁だが、大丈夫かベリアル?」

「クックック。壊れねえ道理はねえだろ! ようやくだ、ようやく戻れるぜえ!」

 

 そう言いながらベリアルは鳥の姿から徐々にドラゴントウマの姿へと変貌していく。

 しかし……「……くそったれがあーーー!」

「……おい、無理やり瓶に詰めたオモチャみたいになってるが大丈夫かそれ……」


 壁に身をよじってもがき苦しむベリアルが完成された。

 ベリアルのイメージだと壁が四方に砕け散る感じだったんだろう。

 壁の方が勝ったようで、体積が溢れたベリアルは慌てて姿を鳥へと戻した。


 ……それを見ていたベルベディシアが再び笑い転げるのは言うまでもないことだ。

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