第九百十八話 激昂ジーヴァを退けて

 怒りに震えるフェルドジーヴァだが、冷静に身だしなみを整え終えたようだ。

 あれは何かの能力で張り付けていたらしい。

 既に風が靡いてもびくともしなくなった。

 そしてそれが返ってベルベディシアの意表をついてしまい、再び笑いのツボへとはまる。


「おいルイン。さっき奪った奴の炎、使ってみるか」

「んなこと出来るのか? ラモトとはまた違った炎だよな。この場所でギルアテをぶっ放

すと車両ごと吹き飛びかねない。試してみたいが……あの天秤、一体何なんだよ」

「俺の能力の一部って前に言っただろ。対象が望んだものと引き換えに、そいつの能力を奪う。

最悪の交渉……そんな能力だ」

「じゃあ俺もお前に何か差し出す必要があるのか?」

「おめえは俺だろ? 俺が能力を使うのに代償なんざいらねえ。まぁ見てな」


 と話していたところで激昂したジーヴァが炎の鎖を更に数を増やして攻撃してくる。

 どちらかというと笑い転げているベルベディシアへ多めにだ。

 しかしベルベディシアは炎の鎖をまさかの雷撃で打ち崩していく。

 ……爆笑しながらどんな能力行使してんだよ! 

 ベルベディシアだけは敵に回らなくて良かったと思う。

 一瞬で消炭に出来る力を如何様にもコントロールしてみせるんだからな。


「ちっ……この女。こんな能力を……父上は何故!」

「あら。過信しているんじゃなくて? 殿方というのは女を見下している輩が多いんです

のよ。わたくしのこともきっと見下していた。そんな眼をする殿方は好みじゃありません

わね。強者でも常に上を目指し、わたくしの力を恐れながらも対等を目指す。殿方ならそ

の程度の気概がありませんと……それと、あなたのように偽りの外見を維持しようとする

……そんな殿方も苦手ですわ。わたくし、あまりに可笑しくて笑ってしまいましたもの」

「ええい! 私の秘密を知ったからには容赦はせんぞ!」

「炎天……成程こいつはいい能力だ」

「何っ!?」

 

 ベルベディシアへ炎の鎖を大量に向けていた奴の上部……列車の上方から炎が水をこぼし

たかのように降り注いだ。

 俺の右目は今炎が渦巻いている。

 この能力……あの炎天からベリアルが奪ったものだ。

 それをベリアルに一時的に付与してもらった。

 

「これは炎天の力か! 貴様一体どうやって」

「濁流渦巻く炎よ……降りてこい、炎天!」


 更に追随して上部から炎の塊が落ちていき、列車内部を焦がしていく。

 咄嗟に回避するも驚きは隠せないようだ。

 その焦りは命取りだ。

 

「いい感じに逃げるじゃないかフェルドジーヴァ。確かお前には殴られた借りがあったか」

「くっ……こうなれば……真化だ!」

「おいおい。こっちは絶魔中だぜ。真化で追いつけるかよ!」

「ぐ、はっ……炎天は上部から炎の濁流を降らせる技……なぜ貴様に、扱える……」


 炎天を改造したのだろう……俺は今ホースから水を噴き出すように炎天の炎を真正面のジーヴァ

に放出して、奴の真化途中を狙い、一気に燃やしつつ吹き飛ばした。


「クックック。このベリアル様がただで能力をそのまま付与するだけの無能だと思ったか!?」


 炎天をただ渡しただけ……とは違うのだろう。

 フェルドジーヴァが想定していた能力以上により、奴の真化は完全に阻止される。


「ぐぐ……おのれぇ! まだだ、まだ敗北したわけでは!」

「雷閃! ……やっぱりこの殿方も同じ鎧を着てますわね」

「今度はもっと上等な鎧みたいだぜ。炎も殆ど効いて無ぇとは。だが衝撃や風圧は効果がある

みてえだ。おい、ルイン!」

「ああ。パモ、やるか」

「ぱーみゅーー!」

「風臥斗!」


 俺とパモの突風を受け、後方に更に大きく吹き飛ぼうとするジーヴァ。

 奴が抑えているのは……頭だ。

 どうやら張り付けた力が弱まったらしい。

 ……散々吹き飛ばしたんだ。お前の位置は最悪だよ。


「流星! アニヒレーションズ! ……もどき」

「ぐ、うおおおおおおお!」


 俺の斬撃群を浴びせられ、後方へ大きく弾き飛ばされるフェルドジーヴァ。

 勝負、あった。


「おーーーのーーーれーーーーー!」


 窓際に追い込んでいた俺は周囲を斬り刻みつつ、奴を外へと追い出した。

 そして……「カツラ、一緒に吹き飛ばせなかった。ちょっと可哀そうだな」

「そのまま外に放っておけば、運が良けりゃあ見つかるだろ。捨てちまいな」

「ここに置いておいてもしょうがないか。ほい」

「ぼふっ……」


 俺が奴のカツラを投げる光景が再びベルベディシアのツボをとらえたようだ……。

 案外、良く笑うんだな雷帝も。

 しかしこれで一番厄介と思われる奴を退けたわけだ。

 後はこの車両を支配しに……「ねぇーー。僕がー、操縦してるレイスをー、説得してき

たよー」

「何っ? 本当かレイビー。そういや列車の速度戻ってるな」

「そうですわね。戦ってる最中、停車しなかったですわ」

「つまり……このままベレッタに到着出来そうか」

「少しー、手前で降りた方がー、良いよねー?」

「ああ。その方が残りの邪念衆に捕まる可能性は低い」

「もう少ししたらー。速度を落としてー、もらうねー」

「つまり私たちはこの車両で待機して、他の兵士が来たら随時縛ってしまえばいいのです

わね」

「そうなるな……ベオルブイーターの領域じゃなけりゃ、後は俺が安全そうなとこまで運ん

でやるか」

「ああ……気掛かりなのはメルザが我慢出来てるかってことと、フェルス皇国に向かった仲

間が無事なのかってとこだな……」

「なぁに心配いらねえだろ。あっちにはギオマがいやがるからな。手出しした野郎は今頃あ

の世逝きだぜ」

「……なるべく大人しくしててもらいたいんだけどな」

「こちらもあの殿方が戻らなければ心配して直ぐに兵士が集まるのではなくて?」

「それは無いな。何せあいつの……があれだったから。絶対に来るなって命令を破るとは思え

ない。不幸中の幸い……ってとこだろう」

「どうせなら全部そっちまやいいのにな。その方が男らしいぜ」

「その通りですわ。女にとって髪は命ですけれど。殿方はもっと別の良いところがあります

もの」

「……そうは言ってもなぁ。男としては心情が分からないでもない」


 髪は大事だ。

 それは男女問わず世界共通事項なのだから。


「にしても炎天……良い能力だが何で本人は使わなかったんだ?」

「さぁな。もしかしたらフェルドジーヴァに禁止されてたんじゃねえのか」

「なんで?」

「炎を上空から降らすときによ。火の粉が散るだろ」

「そういえば……」

「それにあの攻撃は狭い場所だと見辛ぇ。周りにいる兵士が避けれず燃えちまうってのも

あるのかもしれねえな」

「そんなもんか。どちらにしろ炎系の攻撃方法が増えたのは有難いことだ。どうにかラモ

トと組み合わせられたらいいんだが、一時的何だよな、この力。星の力が奪われてか

ら、海の力もいまいち上手く使えないんだ」

「それは困りましたわね……」

「今のうち二おめえのやれることを整理しておくこった。そうしねえとこっちも補助をし

辛ぇからな」

「到着まで少し時間が掛かる。そうするか」


 今の俺はかなり弱体化してるといってもいい。

 だが、出来ることか。

 そろそろ絶魔も使いこなせて来た頃だ。

 しっかり検討してみるか。

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