間話 メルザの苦悩

 ……これはルインがマッハ村を出てすぐの事。


「俺様、やっぱりルインの後を追いたい。頼むよ、誰か連れてってくれよ」

「メルザさん。お気持ちはわかりますがそれは難しいですわ」

「るぴぃー?」

「けど! ルインに何かあったら俺様はもう……」

「あなたは、彼の主としては分不相応のようですね」


 フェドラートが言い放つ。


「な!? 俺様はルインが心配で……一緒に行った方が安全だって。そう思って」

「あなたは足手まといですよ。お話を聞いた限りでは幻魔術士……いえ幻魔を具現化

させる幻魔招来術士でしょうか。しかし戦法はほぼ幻術中心でしょう。

我々妖魔は対象を取り込み力を発揮するのに対し

幻魔は幻術や幻魔を放出して戦います。その初歩しかつかんでいない。

その上彼……ルインさんと違って精神的に未成熟です」


 これ以上突き刺さる隙間がないほど、的確に自分の弱さを刺されたメルザ。

 思わず下を向いてしまう。


「あの場所へは彼が単独で向かうのが適任です。絶対無事という保証はありませんけどね。

あなたは彼を行かせたんです。それならば後は待つしか出来ない。もし自分の未熟さが

悔しいならば、あなたに術の手ほどきをしてあげましょう。それが私たちのために、死地へ

赴いた彼が望む事でしょう。あなた自身を強くして、彼がよりあなたを守りやすくする。

それが今、私が行える彼への最大の敬意でしょう」


 メルザはがばっと上を向いた。溜まっていた涙をごしごしと拭き頭を下げる。


「お願いだ。じゃなかったお願いします! もっと強くならないといけない

んだ。守られるんじゃない。ルインたちみんな守れるように!」


 フェドラートはゆっくり微笑むと、頷いて歩き出す。


「私は幻術士ではありません。ですが幻術招来に関して

知識を持っています。それを帰りの道すがら、あなたに伝授しましょう」


 そういうと、彼は兵士と思わしき妖魔に指示を出して補給物資を指定の場所に手配す

るよう伝えた。


「さぁ我々は一度フェルス皇国に戻りましょう」

「またあのでっけー船で行くのか? どうやってあそこまで行くんだ?」

「いえ、カモフラージュして見えなくさせてありますが、ブルースネークレクイエム

という砂上船で戻ります」


 フェドラートがカモフラージュを解いたのか、目の前に美しい青銀の蛇を描いた

船が現れた。

 全員船に乗り込むと、フェルス皇国へ向けて動き出す。


「こんなでっけー船がいくつもあるのか。やっぱりフェルドナージュ様はすっげーな!」

「すごいですわね。地上ではあまり移動船は見かけませんのに」

「なにせフェルス皇国にはアルカーンがいますからね。妖魔でも彼を凌ぐ技師は

そうはいません。気難しいのであまり頼み事はできませんけどね」

「確かリルさんと言う方のお兄さんでしたわね。一度お会いしてみたいですわ」

「あなたは竜騎士でしたね。彼も少し興味を持つかもしれません。

主に空中にどの程度飛翔していられるかの時間……でですが。

さて、そろそろ無駄話をおしまいにして、メルザさんの修行を始めましょう」


 ライラロが直接幻術を使用して教える教師とするならば、フェドラートはメルザの

幻術に対する考え方を指導する先生。

 メルザを見ていく上で、フェドラートはしょっちゅう天を仰ぎ、この子は

よくここまでやってこれたな……と密かに思う事になるのであった。


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