第百二十九話 拷問部屋潜入

「ちっ、なんでこんなに見張りつけてやがるんだ。あの無駄野郎は」

「静かにしろ、腹心に聞かれたら告げ口されるぞ」

「やってらんねえよな、まったく」

「ああ、酒が飲みてぇ」

「ん? お前なんか酒臭くないか?」

「おお、ばれちゃ仕方ねえ……実は」

『おお!』

「いいな、絶対言うなよ?」

「わりぃな! もらうぜ」

「ああ。気にすんなって。同じくそやろうの下で働くつれぇ仲だ。それよりめんどくせぇ

事態を引き起こしたまぬけはどの部屋にいるんだったか。酒の勢いで忘れちまってよ」

「ここから突き当りの奥の部屋だろ。しっかりしろ。後は俺たちで飲んでおくから

おめえは休んでていいぞ」

「いや、全員で飲んでさぼってたらあいつにばれるといけねえ。

ちょっと見てくるからここで酒盛りしててくれ。つまみも置いとくからよ」

『おお!』

「んじゃちょっくらいってくるからお前らばれないように見張ってろよ」

「任せろ。なんかあっても上手いことごまかしておくからよ」


 そう言って兵士の一人が拷問部屋のある建物に入っていく。

 ……当然それは俺だ。


「やれやれ。ただの兵士は案外ちょろいな。末端の兵士なんて基本そんなもんか」


 兵士の一匹をのして着替え、その兵士に成りすまして無事潜入に成功した。

 こんな簡単にいくとは思っていなかったので他にいくつか手は考えていたのだが。

 ここは金属で出来ている建物だ。

 急ぎ足で、抜け出すのに苦労しそうな最奥の部屋へ向かう。


 ――妖魔ラビットの、耳を澄ますを使用したが、、最奥の部屋の中から音は聞こえない。

 鍵がかかっているか確かめるが、掛かってはいないようだ。

 外であれだけ見回りさせてれば、そうそう中には入れないか。

 ゆっくり扉を開けて少し中を確認する。

 薄暗い部屋で、拷問道具がたっぷりおいてある。

 地面には血がしたたり落ちている。

 そこには見るも無残なほど痛めつけられた二人がいた。

 言葉にしがたいほど残虐な仕打ちだ。

 どれほどの苦痛を味あわされたのか。

 

 残虐のベルータス。許せない。

 怒りに震えが止まらないが、今はとにかく二人を助けたい。

 こういう時こそ冷静になれ。どんな罠があるかもわからない。

 二人を助けるためにきた。時間もそうないだろう。

 安全を確かめながら拷問部屋に入り、扉にファナとレウスさんを配置。

 罠がないか確認して二人の鉄格子を外した。よかった……命はある。

 幻薬を二人に使用した。だがあちこち酷い。幻薬では到底治らない程に。


「だ……だ」

「リル。喋らなくていい。迎えに来た」

「……うっ」


 ここに来る前に、ある仮説を立てていた。

 その仮説が上手くいかなければ二人を助けるために、メルザやミリルに来て

もらっていたかもしれない。この作戦は出来なかっただろう。


 封印する場所を決め、リルをつつく。すると封印指定した場所に一と出た。

 俺の仮説は正しかった。

 仮説はこうだ。レウスさんも封印出来たし、ファナを封印出来た。

 それならリルやサラも封印出来るのでは? と思った。

 そして、俺の封印は他の妖魔と違い、いつでも取り外せる。

 二人を封印して安全に連れ帰れると。

 勿論全ての人が対象に出来るわけではないだろうし、多用は出来ない。 

 ただ、やってみる価値はあると思った。

 

 その仮説が確信に変わり、急いで二人を封印した。 

 レウスさんとファナも封印し、そのまま拷問部屋を出て、外に出る。

 兵士たちはファナに盛ってもらった毒で眠りこけている。

 全員で酒宴を始めたのか、外の兵士はほぼ寝てしまったようだ。

 これなら逃げれる! と思った瞬間だった。


「おい貴様。これはどういうことだ」

「はて、私にはわかりかねます。全員酒で酔いつぶれてますな」

「貴様何者だ? ここの兵士ではなかろう」


 くそ、ここまできてばれるのかよ。

 こいつが多分ビノータスとかいう奴だ。

 まだシラを切ってはいるが、奴は明らかに疑いをかけている。

 二人を助け出すためには、どうにか切り抜けるしかない! 

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