第百二十七話 ブレイウルフとトレント

「やだ、一緒に行く!」

「メルザ、ここからは俺一人じゃないと難しいんだ。わかってくれ」

「やだ、嫌だよ。もうあんなのは嫌なんだよ……」

「メルザさん……」


 やはりというか……俺一人でベレッタへ向かうのに納得がいかない我が主。

 その気持ちは嬉しいが、身を隠す術がない以上俺一人で行く方が安全だ。

 ここまでスムーズに事が運んでいない以上、臨機応変な対応もいる。


「なぁメルザ。俺は絶対無事に戻る自信があるんだ。それに領域に戻ってやらないといけない

事もある。リルとサラも加えて、ガーランド傭兵団の、俺たちだけのチームも作りたい。

メルザが主だ。そのために領域で準備をして欲しいんだ」

「俺様一人じゃ出来ないよ。ルインが一緒に戻ってやってくれよ」

「それじゃリルとサラをメンバーに入れるのは難しいだろ? 常闇のカイナ

とも何れはケリをつけたいからな。あいつらだけは許せない」

「けど……」

「それにいざとなったらレウスさんやファナもいるしな!」


 そういうとファナとレウスさんは封印の中でサムズアップする。


「二人ともずるい。俺様だって行きたいのに」

「ムーラさんまで危険な目に合わせたくないし。新しい住民を迎えるのも主の仕事だぞ?」

「むー……わかったよ。じゃあぜってー生きて帰ってくるんだぞ。その……ちょっとだけ

ぎゅっとさせてくれ」


 メルザは俺を抱きしめると、心配そうに小さな手でぎゅっとつかむ。

 メルザの頭を優しく撫でてやり、なるべく早めに戻ると告げた。

 本当はパモを連れて行きたかったが、パモはマッハ村に着いた後、一足先にモラコ族たちと

案内を兼ねて帰した。ニーメに連絡をするためだ。



「フェドラートさん。メルザたちをよろしくお願いします」

「無事フェルス皇国までお連れします。あなたも気を付けて」


 こうして俺は一人でリルとサラの許へ向かう事になった。

 ここマッハ村より南西方面にあるベレッタへは、トカタウロスのブラザー、ソンが連れて

行ってくれる。 

 マッハで走る彼らなら、確かにすぐ辿り着けそうだ。


「ヨウブラザー! お前を無事に届け、前途多難な戦場の先に平和世届け」

「ヘイブラザー。こんな困難な道を前進全身で感謝!」


 俺たちは拳を合わせると、ソンの背に乗ってマッハ村を後にした。


「いっきに行くぜブラザー。ベレッタの手前までだ。

それより先は送っていけねぇ。すまねぇ!」

「十分だ。頼んだぜ!」


 ソンに捕まり、とてつもない速さの移動を開始する。

 帰りどうすっかな、これ……と考えながら景色を見ると

砂漠っぽさが無くなり、赤土の大地になる。


 残虐のベルータスの名にふさわしい大地のようだ。

 途中大型のモンスターも複数見たが、ソンはとても早く全てを避けていった。

 やっぱ素早さって大事だ! 

 

 ――数十分程走っただろうか。

 赤土の大地の窪みのところに穴が開いていた。

 ソンがそこに入る。


「届けられるのはここまでだ。ここから真っすぐ南下しろ。しばらくしたら城塞が見えるはずだ。

そこがベレッタ。町と呼ぶには危険な場所だ。十分気を付けて情報を探ってくれ」

「ああ。何から何まで感謝してるよブラザー」


 俺たちは再度拳を合わせて別れを告げた。

 さて……ここからだとまだ、ベレッタは見えないな。

 この穴倉で少し休憩しつつ作戦などをファナに伝えておこう。


「ファナ、出れるか?」

「ええ、もちろんよ。一人じゃ寂しいでしょ?」

「今後の予定だが……」


 ファナに今後の詳細を話しておいた。

 持ってきた食料を食べて少し寝た後、ベレッタへ向けて動き出す。


「おっと、早速腕慣らしだな」

「おお、ブレイウルフ君だ。あいつら友達ー『じゃないだろ!』」


 名前がわかるのはいいけど友達じゃないと思うので突っ込んどいた。

 レウスさんが出てきてしょげる。いやそこまで落ち込まなくても。

 相手は一匹だし都合がいい。

 アドレスからカットラスを引き抜き練習がてら戦いを挑む。

 ブレイウルフもこちらに気づき低くうなる。


「剣展開」


 バレバレの剣展開をブレイウルフに放つ。当然回避されるが

回避方向に蛇籠手から蛇を放つ。

 更にブレイウルフは跳躍で回避した。跳躍が高い! 


 だが、更に上を跳躍する俺。そのままアドレスを叩き込んだ。

 当然封印指定はしてある。封印値八十二! 足りない! 

 だが、大ダメージを受けたブレイウルフは及び腰だ。


「泥槍」


 マッドサハギンの泥槍で少し加減して攻撃した。

 封印値は百になり、無事封印できた。

 この辺りでもう少し狩りたい所だが……おっ。


 動く木で有名なトレントを見つけた。 

 トレントに擬態するウルフは倒したことがあるが、本物のトレントは初めてだ。

 封印指定して戦おうとするが……木が切れない。

 アドレスがまだ火力不足なのはわかるが、これは剣で

ぶった切る代物じゃない気がする。

 トレントは枝を伸ばして攻撃してくるし。嫌な相手だ。


「アイアンクラッシャー」


 デュラハン後輩のアイアンクラッシャーを炸裂させてなぎ倒す方針にした。

 封印値四十八。かなり効果的だ。打撃に弱いのだろう。

 小枝のようなものはアドレスで斬れるので回避しやすい。


「っ! 丸くなる!」

 

 急に変な物体を飛ばしてきたので、アリマジロの技まるくなるを使った。

 かなり防御力が上がる。変な物体はまつぼっくりのような奴だった。

 なんか……ちかちか点滅しているのが気になったので

跳躍で思い切り飛んだ。

 下で爆発が起こる……爆弾かよ! 厄介だな。

 早めに倒さないと。


 一気にアイアンクラッシャーを叩き込みトレントの封印に成功した。

 これで無事、二匹封印したモンスターが増えた。

 今日一日でピーグシャーク、ロックスネーク、ブレイウルフ、トレント

と、かなり数を増やす事ができた。

 トレントの正式名は不明だが……まだアクリル板化させていない奴がいたら、狩りながら

ベレッタまで進もう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る