第八十四話 新たな命

「もうじき生まれそうだ。急ぐとしよう」


 竜の卵を託されたミリルの父、ミディは娘から連絡を受けて

急遽トリノポート国のベッツェンを目指している。


 卵をふ化させるための儀式を済ませたばかりだが、肝心の竜騎士

がいなければ、主のいない竜となり危険な存在となってしまう。


「我が娘ながらお人好しだ。だが母親譲りかもしれんな」


 遠い目をするミディは、自らの乗るカーディナルドラゴンに

速度を上げさせる。

 ――――竜は勢いよく飛翔して目的地を目指す。


 ベッツェンの宿に到着したミディは、直ぐに娘の待つ場所へと急いだ。


「お父様!」

「ミリル。久しいな。話は聞いているよ」

「申し訳ありませんお父様……わたくしはどうしても友人を助けたくて」

「よい。それよりもう時間がない。まもなく竜が生まれる」


 カーディナルドラゴンから大きな卵を降ろした。

 それは大きく左右に揺れている。


「さぁミリル」


 ミリルは受け取り、抱きしめて祈る。

 失われた多くの命の中で、生き残ったこの命。

 大切に育てようと決めて。


「るぴぃー?」


 そこには一匹の、青と黒の模様をしたプチドラゴンがいた。


「ああ、よかった。生まれてきてくれて、ありがとう」

「るぴ、るぴー」

「ああ、可愛いな。本当に可愛いな」


 メルザも少しだけ笑顔を見せてくれた。


「さぁその子に名前をつけてあげるがよい」

「わかりましたわ」


 ミリルは少し思案する。そしてメルザを見た。


「メルザさん、お願いがあるのですが」

「なんだ? ミリルの頼みなら何でもきくぞ」

「メルザさんとルインさんの名前から付けてもよいですか?」

「え?」

「この子の名前はルー。ルーにしたいんです」

「……わかった。そいつは今日からルーだ」

「るぴー、るぴー?」

「きっとこの子も。それからルインさんも喜んでくれるでしょう」

「ああ、そうだな。早くルインにも見せてやりたいな」


 こうして新たなドラゴンを手に入れたミリルは、晴れて竜騎士として

の資格を取り戻した。


「幼竜は竜騎士とともに成長する。ミリルよ。友と共に成長したいという意志は聞いた。

好きにして構わない。だが、もし疲れたときはいつでも帰ってくるのだぞ」

「はい、お父様」

「では山脈を超えた所まで送ればいいのだったな」

「お願いします」


 情報を調べるというライラロを残し、メルザとミリルはルーを連れて三夜の町方面の

ガルドラ山脈入口へと送ってもらった。


「ベッツェンへ行くときは色々あって大変だったけど、竜に乗るとやっぱりはえーな」

「お父様の竜は特に速いですわね。もう殆ど見えなくなってしまいましたわ」


 そう言うと、ミリルは上空を指さすが、もうカーディナルドラゴンの影は見えなくなっていた。

 二人は歩いて三夜の町を目指す。


 メルザはあまり体力がないので、休み休み歩き、ようやく三夜の町へ辿り着く。

 せっちゃんの店で一休みする予定だ。


「あら、久しぶりね。今日はいい男、一緒じゃないのかしら?」


 メルザの表情が急に暗くなる。それをせっちゃんが見てかなり慌てる。


「あ、あらあたしったら何かまずいことをきいちゃったわね。

泊まっていくんでしょ。元気だして。一品つけるから」


 そう言われてもメルザは元気がでない。

 せっちゃんは割引までしてくれた。

 その夜メルザはゴサクがさらわれた時のことを思い出していた。

 あの時も不安になって悲しかった。ルインに手を握ってもらったなと。

 自分の手を見る。手をぎゅっと握り、思いをかみしめていた。


 ――翌日。手早く朝食をすませ、早々に三夜の町を出る。

 ルーは好奇心旺盛で、周りの見る景色全てが楽しそうだった。

 パモもこんな表情をしていた。パモとルー。きっと仲良くなれるだろう。

 ミリルに跳躍してもらって場所などを確認。途中何度もミリルに

近道となる跳躍移動をしてもらった。

 ――三夜の町を出て、四時間ほど経過し、ようやく泉に到着。

 ミリルと共に泉へ飛び込み、メルザは自分の領域へと戻ることが出来たのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る