第五十話 二日目の遠距離戦とミリルとの出会い

 予選の組み合わせメンバーの試合が一通り終わり、個人戦近接戦の

本選メンバーが出そろう。 

 四日後の本選チケットがそれぞれに渡された。

 明日は遠距離戦の試合が行われるので、メルザの試合を見に行く予定だ。

 

 ――宿まで戻るとメルザがぷーっと顔を膨らませて待っていた。


「ど、どうしたメルザ」

「ふーんだ、あのアイドルとかいうのに握手されて嬉しかったんだろーよ!」

「いや、全然嬉しくないというか試合の邪魔だったと

いうか握手はしてないぞ」

「ふーんだ」


 あれ、機嫌を直してもらえないな……そうだ。


「それよりメルザ、絶解呪の書は後五百ポイントで取れるみたいだぞ」

「ほんとか! じゃあもうちょっとじゃねーかよ。よかったー……あっ」


 直ぐ普通に戻るあたり、怒ってはいないな。

 構って欲しかったのか。

 我が主ながら可愛いやつめ。

 メルザはぷいっと横を向くと「もうじき飯だぞ」と走っていった。


 それから直ぐ、俺たちは就寝した。


 そして――――翌朝の試合会場。

 同様に司会が挨拶をする。


 第一回線のDブロックで、メルザの一回戦が始まる……が、相手が

強いのか、かなり苦戦しているようだ。

 どうにか燃出流乃のエレメンタルまで展開して、相手を場外に

落としたが、ギリギリの戦いにみえた。

 初戦でそこまでの戦いだと、次の二回戦目が心配だ。

 ライラロさんが隣にいつの間にかいたので、聞いてみる。


「あれは相手が悪いわね。メディルの次男でビスタよ。

むしろビスタによく勝てたわねあの子。満身創痍だけど。

今大会遠距離部門での優勝候補だったのよ、彼」


 そんな相手に一回戦目からあたるとは、メルザも俺に負けず劣らず運がない。

 俺たちは不運同士が引き合わさってる気もするしな。

 後で頭をじっくり撫でてやろう。


 ――昼が回り次のメルザの戦う番になった。

 明らかに疲労を残している動きだ。


「ねぇあの子、呪いか何かにかかってるのかしら?」

「いや、そんなことはないと思うけど」

「次の相手、またメディルの子よ? ブルネイ。ビスタと

ブルネイはどっちも優勝候補よ。あれじゃ幾ら何でも勝てないわ……」


 メルザは必死に応戦したが、最後は膝をついて降参した。

 俺は控室に戻ったメルザのところへいく。


「メルザ、大丈夫か?」

「あら、あなたはこの子のお友達でしょうか?」


 そこには知らない美しい女性が一人いた。

 カチューシャのようなものを頭につけていて、長い槍をたずさえている。


「おう、ルイン。聞いてくれよ。こいつは前に話してた

俺様を助けてくれた竜騎士団のミリルっていうんだ」


 誰だったかを思い返す。

 確かメルザを巨大なサイクロプスから逃がしてくれた

竜騎士団の人だったか? 

 あまりはっきりしないが、ちゃんと挨拶しておこう。


「メルザがお世話になったようで、ありがとうございます」

「いえ、二回戦目でしたが、あなたの試合拝見いたしました。

お強いですわね。わたくしではかなわないでしょう」

「そんなことは。やってみなければわかりませんよ」

「その……恥を忍んでお願いがあるのですが聞いてもらえませんか?」

「なんでしょう? 我が主の恩人の頼みでしたら、出来る限り聞いて

あげたいんですが」


 そういうと、腰を下ろして話を聞く。


「今大会、上位の景品に竜の卵があるのです。わたくしはそれを手に入れる

ために大会に参加しました。ですが皆さん強すぎて到底わたくしでは

勝ちあがれません。どうか協力していただけないでしょうか……?」

「そういうことなら俺はもちろん。メルザもいいよな?」

「あぁ。俺様、今負けちまったけどな。団体戦できっと勝つ!」

「そういえば団体戦はメンバー不祥事に代わりが利くとのことです。もしお怪我

などした場合はわたくしが出ますので! 宿はどちらにお泊りでしょうか?」


「インフィニティって宿ですよ。この闘技場の近くの」

「まぁ、それでは同じ宿だったのですね。後ほどお伺いしますわ。それでは」


 ふわりと挨拶をしてミリルは去っていった。

 メルザがじとーっとした目で見ている。

 メルザの頭を撫でてやった。


「メルザ、相手強かっただろ。しかも二回連続で」

「あぁ、一回戦の奴がやばくてよ。負けるかと思ったけど、あいつも

俺様に『まさかこんな奴がいるとは……』とかいいながら倒れてった。

二回戦目のやつの実力はよくわからなかったからよ」

「ライラロさんに聞いたらどっちも優勝候補だそうだ。心配してたぞ」

「師匠が……へへっ。それならお仕置きは軽くですみそうだ」


 少しほっとした表情で「にはは」と笑うメルザ。無理してんな。


「ほら、おぶってやるから宿に帰るぞ」

「うん……なぁルイン。ポイント足りるとこまでいけなくてごめん」

「絶対言うと思ったよ。全く気にすることない。

俺は負けないからな。相手がサイクロプスだとしてもだ」


 そう言うと、軽いメルザを背負い上げて、宿まで戻っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る