第三十五話 ライラロとメルザ

 メルザはセサミの宿に戻る俺たちとは別行動で、再び快鉄屋に来ていた。


「おーいライラロ師匠ー、いるかー?」


 部屋の中に入ると、そこには檻の中で地面をいじっている師匠がいる。


「はぁ、檻の中って退屈ね。このまま私、風景と同化していくんだわ。

そしたらベルディスにも気づかれずベルディスに甘え放題……けど

それでも気付いてもらえないのは困るしぃー……うーん、まいっちゃうわね」

「おーい、ライラロ師匠! ししょー!」

「ん? 何よ今いいとこなのに……あらあなただったのね。何かしら?」

「いや、ライラロ師匠が俺様に用事があるって……で何で師匠服着てないの?」

「既成事実作りのためよ」

「きせーじじつ? それって喰えるのか?」

「相変わらずね。それよりあなた、服持ってない? ちょっと寒くなってきたわ」

「そりゃその恰好じゃ寒いに決まってるじゃねーか。持ってるけどよ……これ」


 メルザはライラロの檻に純白のドレスを入れる。


「こ、これは! あなた……いえメルザちゃん! でかしたわ! はいこれ

お金よ! ちょっと私、いってくる!」

「えっ、あの用事は……」

「じゃあね! お釣りはいらないわ! ベルディスぅー! どこー!」


 ライラロは走り去っていった。

 残された袋には金貨がざっと百枚ほど。


「俺様、お金のことよくわからねーんだよな。

ルインに後で渡すか……はぁ」



 メルザは渋々セサミの宿に戻り、ルインに事情を説明する。


「なんというか、凄いなメルザの師匠は……その……行動的というか

直線的というか、暴走列車というか」

「あぁ、特訓中も手加減ほとんどしねーから何度も死にかけたぞ。

いい特訓になったが思い返したくねぇんだ……」

「まぁそれに関しては俺もだ」


 二人でふぅーっとでっかくため息をつく。


「仕方ない、また明日にしよう」


 俺たちはせっちゃんの宿に泊まり、明日、再び師匠の許を訪れることにした。

 ファナとニーメは先にメルザの領域へ戻るらしい。

 もう荷物もまとめたようだ。


「あら、あなた達また来たの?」


 快鉄屋に行くと、ライラロさんが一人いるだけだった。


「あれ、師匠は?」

「いないわよ。きっと指輪でも買いに行ったのよ」


 誰の? とは怖くて聞けない。


「そうそうメルザ、あんたに渡すものがあるんだった。はいこれ」

「あれ、これは義手? 付けちゃダメなんじゃ?」

「あのままならね。それ私が改造したやつだから。

かなりいいものに仕上げておいてやったわよ。

闘技大会でもし負けたら破壊するけど」

「ありがとうし……えっ?」

「当たり前でしょ、勝つために与えたんだから。

そもそも元々はベルディスのなんだから。そのままだったらベルディスからあんた

への贈り物になるじゃない。そんなのダメに決まってるわ!」


 あ……原因は絶対そこだ! 


「さて、渡すものは渡したし

私はちょっとお菓子を買いに行ってくるわね。

限定お菓子を山盛り用意しないと!」


 そう言い残すと、ライラロさんはとんでもない速度で出て行った。

 アグレッシブ過ぎて誰もついていけないだろうな。


「……行ったか」

「あ、師匠お帰りなさい」

「ったく何で俺が自分の店にびくびくしながら戻らなきゃならねーんだ」

「同感です……」

「さて、嬢ちゃんの用は済んだみてぇだが、昨日見せれなかったって

いうものを裏手で見せてもらうか」

「はい!」


 俺たちは以前特訓で使っていた店の裏手に回る。

 そこでメルザに渡していた神の空間を使ってもらう。


「っ! こいつぁ驚いた。アーティファクトかこりゃあ。

しかもこれは持ち運び可能な専用領域じゃねえか」

「やっぱりかなりの代物ですか?」

「こいつがあれば外洋に出ても安心して寝てられる代物だぜ。

安全に旅が出来る。金じゃ取引できねえな」

「それほどまでの物か……後はこのラーンの捕縛網ってやつです」


 そう言うと俺は暗器入れからラーンの捕縛網を取り出す。


「こいつも相当なもんだろう。凄すぎて価値がよくわからねぇ。

規定に引っかかるから大会には使えねぇが、実践においては無類の強さを

発揮するだろうよ。

いいもの手に入れたじゃねえか。俺も行ってみてぇな」

「師匠なら大歓迎です。な? メルザ」

「おう! いつでもきてくれよ!」

「装備の事はとりあえず以上か? したら技を教えるから

準備しな」

「はい!」


 こうして俺は、大会用に師匠が考案した技を教わるのであった。

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