第二十三話 特訓!vsシーザー

 快鉄屋の外に出ると、俺たちは店の裏側に回る。

 戦闘とは関りが無いので、ニーメは店の中に残してきた。

 先ほどの装備を手に、シーザーと正面から向き合う。


 シーザーの指示通りに位置をとるため、俺はやや右手の一番前に。

 ファナはやや左手中央、メルザは二人に守られるような後方の中ほどに移動する。


「いいかお前ら。相手と対峙した場合いつでもその陣形を

とれるようにしろ。三人であれば三人の陣形。四人なら四人の陣形での戦い方が

基本だ。闇雲に突っ込めば互いの足を引っ張るだけだ」


 両手斧を軽々と振り回しながらシーザーは話を続ける。


「まず前衛である小僧は相手の注意を引くことに専念しろ。

それから直線的に突っ込むなよ。時と場合によっちゃありだが、そうする

ためにはスピードがいる。今の小僧にはそれがない」


 俺は黙って頷く。自分の現状を受け入れずして、強くなどなれない。


「それからおさげの嬢ちゃんはその位置から左右どちらにも

展開できるようにしろ。中衛はこと戦闘において最も難しい位置だ。

頭の回る器用な奴にしか務まらん。この意味がわかるな」


 ファナも黙って頷いた。


「そして最後に義手の嬢ちゃん。嬢ちゃんは攻撃の要と防御の要だ。

こいつらが死なないようサポートしつつ攻撃しな。

本当はもう一役欲しい所だが、いねぇもんはしょうがねぇ。

仲間が増えたらうまく連携しな」


 メルザも黙って頷いていた。


「んじゃ、一割位でいくかね。死ぬんじゃねえぞ」


 そういうとシーザーは飛び跳ねて俺の方へ飛んでくる。


 なんて跳躍力にスピードだよ。これでたった一割だってのか。

 だが、シーザーを目で追えない速度じゃない。

 集中するんだ……そうじゃないと、俺はここで死ぬ! 


 右に素早く飛んでシーザーの攻撃を躱す。

 斧はそのまま地面に突き刺さり、めりめりと音を立てて地面へ沈みこんだ。

 こんなのくらったら死ぬって! 

 けれどその状態なら動けないだろう。


 手にした新しい武器、スクラマサクスを横薙ぎで振るう……が斧の束を

片手で掴んだシーザーは、空中で勢いをつけ、こちらへ蹴りを入れてきた。


 盾で受け止めたが、俺は大きく吹き飛ばされた。

 なんて身体能力だよ。

 こんなの見たことない。


「ぐっ……くそっ!」

「甘ぇ! 斧がめり込んだから動けないってのは武器だけだ! うかつに格上相手に

飛び込むんじゃねぇ! それに盾の使い方がなってねえ。その盾は剣先などをいなす盾だ。

まともに受けるために使うんじゃねえ!」


 斧を引っこ抜き追撃しようとするシーザーの正面の道に、防御壁が

出来上がり、俺への行く道を塞ぐ。メルザの術だ。

 

 ……すると、シーザーは斧を逆方向に振るった。苦無がカランと地面へ落ちる。


「そうだ、そのまま何もせず防御壁だけ張ってたら今頃こいつは真っ二つだ。

相手を左右からかく乱しろ。格上なら迷う事なく相手を一閃するが、こういった

飛び道具は毒を使う事が多い。鎧を着てるやつだとしても、反応しなきゃならねぇからな!」


 シーザーは斧を強めに振るうと、強い突風が遠くにいるファナを襲った。


「っきゃあーー!」

「だが、距離があると思って油断するんじゃねえぞ。

こんな風に特別な武器で遠距離攻撃する奴もいる。

自分がどこにいても常に攻撃されると思え! いいな!」


 起き上がろうとするファナに向かうシーザーの後ろに回り、俺は距離を少し詰める。

 後方ではメルザが燃斗を杖から放っている。


 杖有りと無しでここまで変わるのか。かなりでかい火球だ。


 火球があたる直前くらいに俺もシーザーへ斬りかかるが、シーザーは

斧を地面に突き刺し、その上に飛び乗りジャンプして避ける。

 俺はメルザの火球を盾でいなすようにして躱す。危ない! 


「挟み撃ちってのは悪くないが、腕の立つ奴はわざと隙を作って利用してくる。

今のはさらに追い打ちをかけれるおさげの嬢ちゃんが動けるときがベストだ。

空中じゃそう身動きはとれないからな」


 ファナはようやく立ち上がり、悔しそうにしている。

 たった一割の力でこんな強いのか。しかも三対一でかすりもしない。


「ところで小僧。お前幻術は使えないのか? さっきから使ってこないが」

「シミターに付与されてれば使えたんだが、あれがないと無理だ。

あとはメルザと一緒なら使える」

「なら適性はあるようだな。幻術は意思の力だ。

発動できねぇなら小僧はちょっと特殊だ。

ただ剣闘士ってのは動きが単調になりやすい。

パターンが決まってるんだよ攻撃の。

幻術の才能があるなら自分の可能性をイメージしてみろ!」


 可能性のイメージか。燃斗や氷斗以外にもあるのか? 剣闘士として

剣で戦うものに幻術としてのイメージを重ねるか……そういえば

前世では剣を振るうと衝撃破みたいなのを出してるシーンとかあったな。

 俺は少し眼をとじて集中する。


 ウェアウルフ(シーザー)


 元戦闘員で死流七支の一角

 現在は武具店を営んでいる

 非常に好戦的だが引退してからは本気で戦う事はない

 別名  ベルディスの悪夢



 ……集中しようとしてたら目の前のシーザーをアナライズしていた。

 なんていう恐ろしい情報だ。死流七支ってなんだろう。

 俺たちはとんでもない人物に教わってるのかもしれないな。


 気を取り直してイメージする。

 スクラマサクスに斬撃を飛ばすイメージを重ねて振ってみる……眼玉の奥が

やたらと熱く感じた。

 目を開くとシーザーが驚いていた。


「こいつは驚いた。見せたじゃねえか、才能の片鱗をよ。赤い斬撃を飛ばすとはな。

ただその技、連発はできねぇだろ。小僧! こいつで目ぇふけ」


 受け取った布で顔をふくと血だらけだった。


「ばかやろう、戦闘中に油断しすぎだ」

「ぐふっ」


 シーザーの拳が俺の腹に深々とめりこむ。

 メルザが青い顔をして俺の方に近づいて来ようとしているのが見える。

 シーザーが斧を一振りしてメルザを吹き飛ばす。


「がはっ……」

「戦闘中に陣形を崩すなっていったろうが! 例えこいつが斬り刻まれて

倒れそうになっても、敵から目を反らさず隙をつけ! 本当に仲間を助けたいならな!」


 メルザは立ち上がろうとしているが、立てずにいた。

 俺も俺自身が不甲斐ない。

 ファナも悔しがり、ヨロヨロと立ち上がる。


「おまえらは弱い! 今その現状を受け入れろ」


 ……俺たちは弱い……その通りだ。

 たった一年半でもっと強くならなければパモを助けられない。

 メルザを守っていくことも出来ないだろう。


「お願いします。シーザー……さん。俺たち強くならなければいけないんです。

どうか俺たちを鍛え上げてください。お願いします!」

「……いいだろう。だが一年だ。その間お前らには俺の仕事を手伝ってもらう。

びしばししごくから覚悟しとけ! いいな!」


 こうして俺たちは、シーザーの下で修行を積む事になった。

 パモを救うために。

 仲間の命を落とさないために。

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