第二十二話 レジンの快鉄屋 シーザーの装備選び

 せっちゃんの宿を出ると、俺たちは急ぎ足で、レジンの快鉄屋まで来た。

 店内に入ると……名前からは想像できないような、多くの装備が置いてある。


 地図で確認した時は、鉱石屋かと思っていたんだが、ここは正真正銘武器と防具の店だな。


「……みねぇ顔だ。誰かに聞いてきたのか? うちはあんまり素人には売らない主義なんだが」

「幻魔神殿長のバウザーさんに聞いてきたんだが。ここに来たら名前を出せばいいと言われて」

「ちっ。神殿長様のお使いかよ。じゃあ無碍にはできねえなめんどくせえ。んで、何が

欲しいんだ? 見たとこ嬢ちゃんと小僧とガキじゃねえか」


 その男は面倒くさそうに両手を後ろにやる。見たところ種族はウェアウルフだろうか? 

 男は俺の腰に差しているシミターをみた。


「へぇ、小僧の割にはいい物使ってるじゃねえか。見せてみな」


 俺は腰にかけているシミターキャット製シミターを渡す。こいつ一本で

頑張って戦ってはきたが、さすがに草臥れてきた。


「……こいつぁもう燃斗の効果がほぼ切れてるな。入れ直す事もできねぇ

訳じゃねぇが、新しいのを買った方がいいぜ。

嬢ちゃんたちのほうは手ぶらで戦ってんのか? 危ねぇなおい」


 男はやれやれといった感じで手を振る。


「いいか小僧、武器ってのは装備しねえと意味はねえ。それはわかるな? 

加えて、武器を妥協してもいけねえ。てめぇの命に係わる。大切にすることだ。

仲間を思うんならな」


 確かにそう言われればその通りだ。メルザはずっと素手のままだが

そもそも片腕しかない。いざという時に俺が頑張ればなどと

思っていたが、メルザを本当に守れるのか? 


「すまない。あんたの言う通りだ。ちゃんとした武器と防具を選ばせてもらうよ」

「……シーザーだ。素直な奴は嫌いじゃねえよ。俺が選んでやる」


 そういうとシーザーは一人一人手や身体つきなどを見てくれる。


「いいか、小僧。こと戦いにおいて自分の力を発揮するには己を知ることだ。

自分に何ができてどんな役割を担うのか。

みたとこ戦法も素人だろうからこの際俺が叩き込んでやろう。

小僧はシミター一本とそれに付与された幻魔術で戦っていたんだろうが、そんなもの

通用するのは雑魚だけだ」


 そういうとヒュンっと俺のシミターキャットを縦に振る。

 俺の剣速など比べ物にならないほど速い。


「小僧のパーティーはこれで全部か?」

「いや、あとはカカシっていう地面につきささったのと、パモ……いやパルームがいる。

けど今は動けなくて……」

「ほーう、パルーム族がいるのか。そいつは珍しいな。カカシ

というのはよくわからないがマジックアイテムか何かか?」


 カカシの説明は上手くできない。どう説明すればいいんだ? 

 それとパモの名前を出すと、自然と辛い顔になってしまう。

 シーザーは一瞬考えるような表情を浮かべたが、首を横に振る。


「……まぁいい。それでそっちのガキも闘いに出るつもりか?」

「僕も戦う! 戦いたいよ!」

「ダメよ。だってあんた、闘いより鍛冶がしたいんでしょ?」

「けど、装備用の道具とか使えそうなものの判断なんてできないでしょ? 僕なら

わかるよ!」

「それはそうだけど……」

「わかったわかった。どのみち戦場に行くかどうかが聞きたかっただけだ。

あんなガキに戦いはさせられない。そうだろ小僧」

「あぁ。ニーメにに戦闘はさせたくない。その代わり採取は依頼したい」

「採取要因てのは重要な役割だ。戦闘員を支援する役割もある。かといって

絶対狙われちゃいけねぇ立場だ。覚えときなガキ」

「う、うんわかった。僕に手伝える事があるだけでも嬉しい!」


 そういうとニーメはガッツポーズを決める。真面目でいい子だ。


「それで……そのガキがどうこうならないようにするのがお前らの重要な役割だ。

敵を自分の方に引き付けつつ戦う。それがベストだろう」


 思い返してみれば、メルザにその役を任せていた。

 かなり危ない橋だった気がする。背筋に嫌な汗をかいてしまった。


「小僧、お前にはそれ用の装備を見繕ってやる。

嬢ちゃんたちは後方、中距離支援用の装備だ。持ってる金貨を

全部出せ。それで装備を用意してやる」


 俺は皮袋の中を確認する。残りの金貨は十二枚か。


「今はこれだけしかないが、足りるか?」

「ぎりぎり足りる装備までで見繕ってやる。

この金額ならギリギリセミユニークも混ぜれる程度だがな。

戦い方も少し教えてやるから自分たちの力で頑張って稼いで来い。

金が出来たらもっといい装備を見繕ってやる」


 そういうとシーザーは剣と盾、軽装の鎧に杖と吹き矢と投擲用ナイフ、義手の

ようなものを出した。

 

それとは別に、つるはしのような物と背負いかごを一つ用意する。


「本来ならこいつ全部で金貨二十五枚は取るんだが

バウザーの使いじゃしょうがねえ。

それに折角気合の入った目をした小僧が死ぬのも寝ざめがわりぃからな。もってけ」


 そう言うと、フンと鼻を鳴らし指でトントンとカウンターを叩く。


「まず剣と盾、鎧の一つは小僧のだ。小僧は剣闘士だろう? 

盾をうまく使わずして片手剣の意味はねぇ」


 シーザーは盾で構えるような形と剣を振る動作をとる。


「次に吹き矢と苦無、そして軽装鎧はそっちのおさげの嬢ちゃんだ。

身軽そうなお前さんは中距離から相手をかき回せ。

吹き矢にはいろいろ仕込めるが、毒などを用意すれば使い道は多様だ」


 筒からふっと息をとばす仕草をとってみせる。

 ファナにはぴったりかもしれない。


「そして赤い服の嬢ちゃんは幻魔士だろ。杖を使いな。

それと片腕がないと不便だろうが、こいつを腕にはめてみな。

こいつは値が張る特注品だが、サービスだ。動かすイメージが大事だぜ。

ただ、ずっと使ってるとばてるから注意しな」


 シーザーは丁寧に説明してくれる。


「最後にガキ。おめえは採取に専念しろ。

まずは鉱石採取からだ。そのかごに放り込めば重さは

感じないはずだ。容量はそのかごまでだがな」


 そういうとシーザーは立ち上がり、でかい斧を担いでこちらを見る。


「全員表に出な。俺がお前らを少し鍛えてやる」

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