異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー

紫電のチュウニー

第一部 主と紡ぐ道

第一章 出会い編

プロローグ

 俺はずっと役立たずだった。 幼少から病で入院生活。


 そのせいで視力の大半を失い生きてきた。

 そんな俺に社会は厳しく世間は冷たかった。



 この豊かな日本でも、一見すると弱者に優しく見えるのだが、本質的にそんなことはない。

 それでも人並みに生きようと努力し、誰にも迷惑をかけないように細々と生活していた。



 ある日、わずかに見える目で横断歩道の音声ボタンを押して信号待ちをしていた。

 すぐ隣には小さな子供がいる。



 子供は音を出しながらスマホゲームで遊んでいた。

 前は見ていないのだろう。

 カタカタとスマホをいじる音が聞こえる。


 危ないとは思うが日常で見かける光景。誰も注意する人はいない。

 子供は信号が変わる前にそのまま歩き出す。

 俺はとっさに「危ないよ!」と手をだしたが、子供は俺の手を振りほどいた。

 

 その勢いで躓いて転んだ。そしてそのまま車に引かれた。


 周りから叫び声や悲鳴が聞こえる。

 意識が遠のきながら、こんな時代に生まれた事を呪った。

 子供が悪い気はしない。社会がそうさせているのだと。

 ……次に生まれ変わるなら、平穏でまともに生まれたい。




 そう願いながら俺の意識は無くなった。




 気付くと俺は生まれ変わっていた。死ぬ所までの記憶を持ちながら。 

 赤ん坊なのだろう。目が開けられない。



 生まれ変わりなど信じてはいなかったが、確かに俺は生きている。

 今度こそまともな人生を……そう願った。




 だが俺の目が開くことはなかった。

 生まれながらの全盲。俺は絶望した。




 なぜ俺ばかりこんな辛い状況なのか。

 なぜ世界はこんなにも厳しいのか。





 それから何年経っただろう。

 ある程度大きく育ってから、親は俺を捨てた。


「ごめんなさい、本当にごめんなさい。もう私には無理よ……」


 そう言って親は去っていったようだ。この目では確認する事も出来ない。



 俺はまたきっと死ぬ。 

 そして死んでも苦しい人生を再び歩ませられるのだと。


 雨が降ってきた。これは死の雨か。寒くて辛い。悲しい……そして何より寂しい。




「お前、そんなとこで寝てたら死んじまうぞ。こっちへ来いよ」


 お前と言うのが俺のことかはわからない。

 誰かいるようだが、俺にとってはどうでもよかった。

 だがそいつの足音が聞こえる。

 どうやら手をかけて担ごうとしているようだ。


「よいしょ……っと、軽いなーお前。飯ちゃんと

食ってるのか? おい、意識あるか?」


「あぅ……がっ」


 しばらく喋っていないから声が出ない。


「意識はあるみてーだな。とりあえず家連れてくか。

このままじゃ死んじまいそうだし」




 何者かに連れていかれるのか。

 どうせ俺なんか連れてっても奴隷にすらなれないだろう。


 ろくに目も見えないんだ。すぐに元の場所に捨てられるだけだろう。

 そう考えている間にも、意識は途切れた。



 ――――しばらくして目を覚ますと、どこかへ移動したのか、雨は感じられなくなっていた。


「ただいまっと。 俺様の部屋に人を招待するのはお前が初めてだな! 

おっと、火つけるから待ってろよ」


 そういうとそいつは何処かに行ってしまった。俺の意識はまた途絶えた。






 ――――しばらくして再び目覚めると、俺は柔らかい上で寝かされていた。

 冷えていた体は暖かくなり、身体も動く。途端に腹が減ってきた。




「誰か、いるのか……おい」


 俺はここに連れてきた奴がいるか呼んでみる。

 どうせまた捨てられるなら早く捨ててほしい。

 俺なんて生きていてもしょうがないだろう。




「おー、起きやがったか。お前をここに連れて来たのは

この俺様、メルザ・ラインバウト様だ。

感謝しろよ! ところでお前、目開けられないのか?」

「誰だか知らないが、俺を元の場所に帰してくれ。

俺に構わないでくれ。俺は役立たずなんだ」




「……帰せってあの場所にか? あんなとこにいても死んじまうだけだぞ」

「だから、俺は死にたいんだ! 目も見えない俺なんかが一人で

生きていけるはずないじゃないか!」


 気付いたら怒鳴っていた。ずっと叫びたかった。

 前世からずっと苦しかった。誰かに聞いてもらいたかったんだ。

 

 前世でも、現世でも俺は一人だ。 

 誰も助けてなどくれない。常に厄介者だ。親にも捨てられた。


「まぁ落ち着けって。腹減ってるだろ? スープ作ったの持ってきたからよ。飲ませてやるよ」



そう告げると、そいつは俺の口に熱々のスープのサジをあててきた。


「熱っ!」

「あ、わりーわりー、こういうのやったことなくてよ……ふーっ、ふーっ……これでどうだ?」


 薄いスープだった。ほとんど味なんかしない。だが……うまかった。

 今までのどんな飯よりうまく感じた。涙が止まらなくなるほどに。


「うぐっ、なんで俺なんかにやさしくずる」

「は? 何いってるかわからねえよ! とりあえずそいつ食えよ。皿とさじ渡せば一人で食えるか?」

 

 黙ってうなずくと俺は薄いスープを平らげた。




「お前を助けたのは放っておけないと思った。そして俺様にはやぼーがあるのだ! 

お前は俺様に助けられた。だから恩を返さないといけないだろ? 

お前は……今日から俺様の子分だ! ……あーっとお前名前は?」


「一宮水花……いや、ここでの名前はよくわからない」


「は? 一宮水花? 女みたいな名前だな。おまえどうみても男だけど」


「さっきのは忘れてくれ 俺は男だ。好きなように呼んでいいよ。名前なんてない」



「じゃあお前の名前は……そうだな。俺様から一文字とってルイン・ラインバウトだ! お前は今日から俺様の子分で、弟分だ!」


「ルイン・ラインバウト? ルイン……ルインか。いい名前だ。けど俺は目も見えないし、なんの役にもたたないぞ?」


「ああ、安心しろ。今からお前の目、見えるようにしてやるよ」


「は……?」

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