第三話 『鬼神の怒りと一人の剣士』


 ジークがノア達とニ階に上がった少し後に、鬼神の酒場ジークハウスに大勢の冒険者が来客する。


 「いらっしゃいませ! お好きな席にどうぞ!」


 アリサは元気な声で客を持て成す。


 「あれれ〜? もぅ忘れたの〜アリサちゃ〜ん?」

 「え?……あ! 昨日の!」


 来客した大勢の冒険者の中に昨日ジークに返り討ちにされた眼帯の男がいた。


 「え、あの、今日はお仲間さんと一緒に食事に来られたんですよね」

 「そうだよ! だってここ酒場じゃん! 早く酒持ってきてよ!」

 「あ、はい!」


 アリサは一安心して厨房に酒を取りに向かう。

 厨房に入った後、眼帯の男は店内を見渡す。


 「全員Bランクシルバーか……よし。おい、お前ら金やるからこっから出てってくれないか?」


 眼帯の男は首に掛けている金のプレート冒険者身分証明書を見せる。

 すると、言葉に従い大勢の客が店から逃げるように出て行く。

 そして、残った二人組に近づく。


 「あっれー? 聞こえなかったー? 出てけって言ったんだけど?」

 「なんでテメェらの命令に従わないとダメなんだ? あぁ?」


 二人組の片方が眼帯の男を睨みつける。


 「ウッ——」


 睨みつけた男は顔面を殴られて椅子ごと転倒する。


 「BランクシルバーAランクゴールドの俺に歯向かってんじゃねーよ、なぁ?」


 眼帯の男は倒れた相手に馬乗りになり、顔が潰れるまで殴り続ける。


 「おい! やめろよ! 何してんだ!」


 二人組のもう片方が止めに入ろうと席を立つと、他の冒険者がそれを阻止する。


 「離せ! お前ら!」

 「うるせーよ!」


 男は大勢の冒険者に袋叩きにされる。

 そこに、厨房から両手一杯に樽ジョッキを持ったアリサが出てくる。


 「お待たせしましたー、え、……何してるんですか?」


 アリサの声で殴るのをやめて眼帯の男が立ち上がり、アリサに近づく。


 「なーに、ちょっとした揉め事だよ。冒険者同士でよくある事だ。でさー? あのクソ野郎はどこ?」

 「ちょっとしたって明らかにやり過ぎですよ! この事はギルドに通報しますからね!」


 アリサの前に袋叩きにされた男が倒れる。


 「だ、大丈夫ですか?」

 「あ、アリサちゃん……早く逃げろ」

 「おい、この店潰せ、俺に恥かかせたアイツだけは許さねぇ!」


 眼帯の男がそう言うと、他の冒険者たちが一斉に店内の机や椅子の破壊し暴れ出す。


 「――やめて下さいッ!」

 「ハッ! 止めるわけねぇ〜だ――」


 眼帯の男は突如、目の前に現れたバカでかい剣に横薙ぎに吹き飛ばされ、壁に激突する。


 「貴様ら……覚悟しろッ!」


 憤怒の形相のジークは龍滅剣を肩に担ぎ、他の冒険者を睥睨する。

 冒険者達はジークに気圧され立ちすくむが、ジークは止まる事なく冒険者達に剣を振る。


 「アイリス! 怪我人を頼む!」

 「え……あ、はい!」


 ノアは怒りで我を忘れているジークを止める為に間に入り、剣で攻撃を受け流す。


 「――!」


 しかし、ジークの攻撃を完全に受け流す事が出来ず、体勢を大きく崩す。

 ジークは止まる事なく再び剣を振り下ろす。


 【光球ディア・ポース


 アイリスが放った光の球はジークの手に当たり、僅かに軌道が逸れ冒険者の右腕を斬り落とし、そのまま床に刺さる。


 「ゔぁあ!!!」

 「アイリス! 全力で撃て! 手加減してどうにかなる相手じゃ無い!」

 「分かりました!」


 右腕を斬られた冒険者は傷口を押さえて蹲った。

 ジークが剣を引き抜く前にノアはジークの巨大な腕に斬りかかる。


 「――邪魔ダ!」


 ジークは斬りかかるノアを右腕で殴り飛ばし、剣を引き抜き蹲る冒険者にトドメの一撃を振り下ろす。

 ノアは受け身を取り、直ぐに体勢を立て直して腰を落として深く構える。


 アリサが涙を流しながら叫ぶ。


 「やめて! お父さんッ!」


 ジークの剣が蹲る冒険者に迫る――


 「――!」


 振り下ろされた剣は剣心が根元から真っ二つに折れ、床に突き刺さる。

 ノアはジークのに着地した。


 「……何をした? ノア」


 思いがけ無い出来事により、少し落ち着きを取り戻したジークがノアに問いかける。


 「この一件が落ち着いたら話すよ」

 「……そうか」


 ジークは身体から力を抜き、柄だけになった龍滅剣愛剣を手放した。

 それにより、ノア達は一安心し緊張を解く。


 「ふぅ〜! ひやひやしたぞ! 全く!」

 「早く、治療しないと」

 

 アルバートはジークに近寄り、頭の上に乗っかり、アイリスは右腕を斬られた冒険者に治癒魔術を施す。

 酒場の外には野次馬が集まって騒いでいた。


 「ジーク! アリサに心配かけやがって! このこの」

 「あぁ、そうだな。アリサ、悪かったな」


 ジークは振り返り、アリサに謝罪をするが、そこにアリサの姿は無かった……。


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