31.驚異の戦術
---------------------《2ターン目》---------------------
〈レイミ〉● 〈カーティス〉
ヴァナ Lv0 理想に殉じる者 Lv0
Lp 1000 Lp 1000
手札 5→6 手札 5
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〈レイミ〉魔力 0→5
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「1ターンの思考時間は2分。カードをプレイせずにそれを超えれば強制的に敗北となりますからね」
「そうかい、なるほどね」
1ターンの時間制限。
急に話を切ってきたと思えば、そんなルールがあったのか。
俺は1枚のカードをドローして自分のターンを始める。
質問の答えは途切れてしまった。
だが、カーティスは自身のターンを会話のみに費やし、何もしなかった。
『これはチャンスだよ』
「ああ」
ヴァナの言う通りだ。
魔力5がそのまま残されてるとはいえ、この隙は逃せない。
「俺は《スカウト・ドッグ》を召喚!!」
俺の宣言と共に機械犬がフィールドに現われる。
「さあ、パートナーに直接攻撃だっ!!」
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《スカウト・ドッグ》
攻撃力200
VS
《理想に殉じる者》
防御力0
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〈カーティス〉Lp1000→800
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機械犬が6本腕のサイボーグに噛みつき、200のダメージを与える。
だが、これだけじゃない。
『さらに私、《ヴァナ》でも攻撃。くらえぇっ!!』
ヴァナが飛び掛かり、その小さな拳を力いっぱい振り下ろす。
その攻撃がさらにダメージとなってカーティスを襲う。
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〈カーティス〉Lp800→750
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その攻撃力は僅か50。
だがヴァナの、いやレイミの怒りのこもった攻撃は、そのダメージの数値以上にカーティスの身体を吹き飛ばした。
『……博士たちの痛みを何万分の1でも味わうといいわ』
「ターンエンドだ」
特に妨害を受けることもなく、それなりのダメージを与えることに成功した。
そんな幸先のいい1ターン目の終了を、俺は宣言した。
---------------------《3ターン目》---------------------
〈レイミ〉 〈カーティス〉●
ヴァナ Lv0 理想に殉じる者 Lv0
Lp 1000 Lp 750
手札 5 手札 5→6
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「ふぅ、……なかなか
倒れていたカーティスは、そう言いながら立ち上がる。
だが足取りもしっかりしており、その言葉の割には大して効いてるようにも見えない。
「先ほどの質問は『シティの体制がなぜ大切か』でしたか……?では、その理由をこのターンにお見せしましょう」
「……?」
どういう意味だ?
俺にはその言葉の意図が分からなかった。
だが、ヤツがこのターンに何かをしようとしていることだけは分かった。
「レベル0アイテム《新たな図面》。これでデッキから《
カーティスが使用したのは、タイプに建造物を持つカード1枚をデッキから手札に加えるカード。
そしてその効果で手札に加えられたのは、パートナーに続いて俺の知らないカードだった。
しかも開示されたそのカードは―――
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《論理の箱》
Lv9 永続アイテム
タイプ:機械,建造物,神話
●:???
●:???
●:???
●:???
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「レベル9、……だと!?」
それは余りにも高すぎるレベル。
魔力9は簡単には貯まらない量だ。
しかも、こんなバトルの序盤に使うことは通常では不可能。
だが、……例外はある。
嫌な予感に、俺の背中に冷たいものが流れる。
やはりと言うべきか、カーティスは続けて更なるカードを手札から出す。
「私は続けて《奇跡の図面》 を使用します」
「……くっ」
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《奇跡の図面》
Lv0 通常アイテム
●:手札1枚を捨て札にし、Lpを半分払って使用する。
1度だけ、「建造物」カードに魔力を払わなくてもよい。
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〈カーティス〉Lp750→375
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それは、手札1枚とライフ半分をコストにアイテム使用の魔力を踏み倒すカード。
これにより、レベル9のカードすら魔力なしでの使用が可能になった。
「さあ展開せよ、完全なる世界。レベル9《論理の箱》!!」
カーティスがそのカードをフィールドに出すと、それは起こった。
振動と共に、周囲の床から金属の壁が四方に生える。
俺とヴァナ、そしてカーティスをも囲むように出現したそれらは数メートルの高さで横に広がって天井を作る。
最終的に、正方形の箱状の金属壁が俺たちを囲むことになった。
その壁には電子回路を思わせる
『な、なんなのコレ?』
「…………」
ヴァナの問いに俺は答えることができなかった。
これも500年前にはなかったカード。
どんな能力を持ったカードなのか、まるで想像もつかない。
「《論理の箱》は
カーティスは語る。
「そしてシティと同じく、ここにも絶対的な管理者が、神がいる」
彼の言葉に合わせ、パートナーである6本腕のサイボーグがその手を広げる。
そして、次の瞬間、その変化は訪れた。
そのサイボーグの身体が震えたかと思うと、一気に弾けた。
いや、まるで弾けたかのようにその形を崩してグネグネと変形を始めたのだ。
関節だったところからは無数のコードが伸び、まるで生き物のように絡まりながら新たな姿を形づくる。
周囲の壁からもどこからか無数のコードが伸び、その身体に合体する。
いつの間にか、その姿は見上げるように大きな巨体となっていた。
「こ、こいつはまたスゴイな」
『……う、うそでしょ?』
カーティスのパートナーだったはずのユニットは、全く別の姿に変わってしまった。
その姿は、まるで巨大なロボットだった。
そう表現する以外の言葉を俺は持たない。
無機質なその巨大な胴体の下からは脚の代わりに無数のコードが伸びて、その巨体を支える。
伸びたコードは周囲の壁、《論理の箱》の壁面に接続されている。
そして6つあった腕は2つとなった後に本体から切り離され、淡い光を発しながら不思議な力で宙に浮く。
巨大な本体の後ろには1対の光の翼が広がっている。
その姿からは無機質さ、不気味さ、そして同時に神々しさすらも感じられた。
おそらくは、これがヤツのパートナーの真の姿。
「これが《理想に殉じる者》 の能力。《論理の箱》がある時、手札2枚をコストに真の姿へと変わるのですよ」
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《理想に殉じる者》
Lv0/攻撃力0/防御力0
タイプ:幻想,魔術師,機械
●:『論理の箱』が存在する場合、手札2枚を捨てて発動。
デッキの『完全なる世界の絶対神』と自身を交換する。
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《完全なる世界の絶対神》
Lv10/攻撃力0/防御力0
タイプ:幻想,機械,神話
●:???
●:???
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まさか、パートナーがレベル10のユニットに変化するだと?
そんな特殊な戦術が存在するなんて!!
俺は戦慄していた。
ルールによりフィールドを離れないパートナーを、強力な高レベルユニットに変える。
それができるなら、どれだけ恐ろしい戦術だろうか。
だが、俺が知っている時代にはこんな戦術はなかった。
少なくても、実用的な範囲では。
なぜなら、ルール上こんな戦術は成立しえないのだ。
クロスユニバースでは""パートナーの維持にそのレベル分の魔力を払う必要がある""。
そして毎ターン補充される魔力は5。
レベル10のパートナーの維持に必要な魔力10には全く足りない。
予め貯めていた魔力を払うにしても、すぐにそんなものは枯渇する。
つまり、1~2ターン粘られただけで敗北することになる。
そんな戦術が可能ということは、つまり―――
「疑問に思っているでしょうからお答えしましょう。《論理の箱》が存在する限り、私は維持の魔力を払う必要がなくなるのですよ」
『……なに、それ』
「まあ、そんなとこだろうと思ったよ」
つまり、この俺たちを取り囲む《論理の箱》を崩さない限り、破壊不能なレベル10ユニットと戦い続ける必要があるってことだ。
……
『で、でも攻撃も防御も0だし、レベル10って言っても大したことないんじゃ』
「だと、いいがな」
まあ、そのこわばった表情を見るにヴァナも本気では言ってなさそうだ。
レベル10なのに、攻防が0。
それはつまり、それだけ能力が強力だってことなんだから。
そして、カーティスは動いた。
「手札1枚をコストに、《完全なる世界の絶対神》の能力発動!!」
彼の最後の手札が捨てられ、《絶対神》の能力が発動する。
その巨体が輝いたかと思うと、その手から放たれた光が俺の身体をつつむ。
「【ラプラス・スキャン】。貴方のデッキを全て確認します」
カーティスの手元にカードを表示したウィンドウが現れる。
つまり、そこに出ているのは俺のデッキだ。
デッキを全て確認する。それだけでも恐ろしい能力には違いない。
だが、当然これだけなハズはない。
この能力には続きがあった。
「そして【マインド・ハック】。その中のユニット1体を私のフィールドに半分の魔力で召喚できる!!」
カーティスが1枚のカードを選ぶと同時に、彼のフィールドに巨大な鬼が出現した。
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《ダークネス・オーガ》
Lv7/攻撃850/防御500
タイプ:闇,悪鬼
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〈カーティス〉魔力5→2
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アガレスから貰い、トゥエルブ戦では俺たちを助けてくれた強力なカード。
それが俺たちの前に立ちふさがるように現れた。
毎ターン、デッキからのユニット
それが《絶対神》の能力のようだった。
……やべーな。
俺の額を冷や汗が流れる。
俺のデッキでこの戦術を突破できる手段は極わずか。
勝ち目の無さは、これまでの戦いの比ではない。
ヴァナもそれを感じたのだろう、
「さあ、貴方の《ダークネス・オーガ》 で攻撃です」
巨大な鬼の一撃が振り下ろされ、俺のフィールドの機械犬を襲う。
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《ダークネス・オーガ》
攻撃力850
VS
《スカウト・ドッグ》
防御力100
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その攻撃と防御の数値の差は
機械犬はその身を吹き飛ばされ、金属壁にぶつかり砕ける。
「《論理の箱》のさらなる能力です。ユニットを戦闘破壊した時に200ダメージを与えます」
周囲の電子回路に光が走ったかと思うと、次の瞬間には電流が俺とヴァナを襲う。
「くぅぉ!!」
『きゃぁぅ!!』
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〈レイミ〉Lp1000→800
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放心状態で不意打ちを喰らったヴァナは地面に落ち、俺も痛みに膝をつく。
ダメージ効果まであるとなると、ユニットを壁にして時間を稼ぐにも限界がある。
つまり、逆転の1手をドローするまで粘るにしても、そう猶予はないということだ。
俺はふらつきながらも膝に力を込めて立ち上がった。
たしかに、戦況は悪い。
だが、あのカードさえ引ければ、まだ勝ち目はある。
希望を信じて立ち上がる、そんな俺を見てカーティスは言った。
「なるほど、貴方が希望を託しているカード。それは《アシッド・ストーム》、違いますか?」
見透かしたようなその言葉に、俺はドキリとした。
その見立ては、正解だった。
まあ、《絶対神》の能力でこちらのデッキを確認しているのだ。
それくらいは予想可能だろう。
そうだ。
《アシッド・ストーム》はフィールドにある全てのアイテムを破壊する能力を持つ。
これで永続アイテムである《論理の箱》を破壊してしまえば、パートナーの維持に魔力を払う必要が出てくる。
そうなれば、カーティスは魔力不足で破産する。
それこそが、俺たちの勝機だ。
だが、続くカーティスの言葉は、俺たちを絶望させるに十分なモノだった。
「残念ですが、《論理の箱》はその能力により他のカード効果を受けつけず、破壊はできません」
……なん……だと。
カーティスはターン終了を宣言し、俺のターンに移る。
だが、俺の手の中に残されていた光明は
次回「
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