24.フラッシュバック






中央官邸ちゅうおうかんてい、正面玄関前。


そこで、猟犬部隊りょうけんぶたいの少女たちとの戦いは続いていた。


ジュンは、その内の1人と対峙しながら額の汗をぬぐった。




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〈ジュン〉 〈猟犬部隊A〉● 

ボール Lv0  スカウト Lv2    


 Lp 400   Lp 300     

 手札 2   手札 2


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---------------------《フィールド》-------------------

〈ジュン〉 

ボール Lv0/0/0

《セキュリティ・ガード》Lv3/300/200


〈猟犬部隊A〉

スカウト・ドッグ Lv2/200/100

《スカウト・ドッグ》Lv2/200/100 ×2

《ハウリング・ヘルハウンド》Lv6/600/400

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戦いは終盤を迎え、相手のフィールドにはパートナーを含めた3体の機械犬スカウト・ドッグと1体の巨大な黒犬ハウリング・ヘルハウンド


僕のフィールドには、パートナー以外には《セキュリティ・ガード》1体のみ。


その能力によりレベル2以下である《スカウト・ドッグ》の攻撃は封じてはいるが、気休めにもならない。


なぜなら、より高いレベルのユニットの攻撃は防げないからだ。


「……では、レベル6《ハウリング・ヘルハウンド》で攻撃」


予想通り行われる、高レベルのユニットからの攻撃。


「そうはさせない!!レベル0スペル《キープアウト》だ」


僕が詠唱した《キープアウト》は攻撃封じのスペル。


100のライフを払うことで、自分のライフより高い攻撃力のユニットによる攻撃を封じるカードだ。



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《キープアウト》

Lv0 通常スペル

タイプ:結界

●:Lpを100払って詠唱する。

このターン、自分のLp以上の攻撃力を持つ相手ユニットは攻撃できない。

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〈ジュン〉Lp400→300

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相手の攻撃を阻むように、僕たちのフィールドの間に光のロープが出現する。


これにより僕のライフ300を上回る600の攻撃力を持つ《ハウリング・ヘルハウンド》は攻撃不能となった。


「……ターンエンド」


《セキュリティ・ガード》の能力で他のユニットの攻撃を封じている現状、もう相手の少女に手はなかった。


そして僕のターン。


ドローと共に、僕は手札から1枚を選ぶとそれを使用する。


「ここで僕が使うのはレベル0アイテム《強制捜査令状きょうせいそうされいじょう》だ」


その効果により、僕の《セキュリティ・ガード》は他のユニットを無視して相手パートナーへの直接攻撃が可能になる。


パートナーへの攻撃は、つまりは相手プレイヤーへの攻撃でもある。


「《セキュリティ・ガード》で《スカウト・ドッグ》に攻撃だ!!」


パトカー型のロボが撃った銃弾が機械犬に直撃し、その金属の身体の一部を破壊する。


そして、砕け飛んだ金属片の1つは相手の少女を襲う。


「……っ!?」



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《セキュリティ・ガード》

攻撃力300


VS 


《スカウト・ドッグ》

防御力100

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〈猟犬部隊A〉Lp300→100

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さあ、これでチェックメイトだ。


最後に、僕はパートナーである《パトロール・ボール》の能力を発動する。


それは手札1枚をコストに100ダメージを相手に与える能力。


つまり、――


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〈猟犬部隊A〉Lp100→0

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機械球から放たれた電撃が相手の少女を襲い、その最後のライフを奪う。


僕の勝利だ。



――――――― 〈クロス・ユニバース〉「決着」 ―――――――


―――――――― 勝者 「ジュン・ケイラ」――――――――



メッセージが流れ、戦いが終わる。


最後の電撃が効いたのか、対峙していた猟犬部隊の少女は膝をつく。


これで彼女は、僕の出した条件である【僕たちの邪魔をしない】によってもう何もできないはずだ。


…………さあ、あっちはどうなったかな?


僕は同時に行われていたアガレスたちの戦いへと目を向ける。


すると、


「はっはっは。それで攻撃は終わりかな?」


そう言って笑うアガレスの姿が目に入った。


そこではアガレスと少女3人の戦いが続いていた。


1対3。


それは少数側にとって、とてつもなく不利な戦いだ。


だが、追いつめられているはずのアガレスの表情は、そんな様子をみじんも感じさせないものだった。


彼のフィールドには、先ほど僕も使ったスペル《キープアウト》が見える。


なるほど、どうやらその効果でこのターンの攻撃はしのいだらしい。


「……ターン終了」


猟犬部隊の少女の1人が、ターンの終わりを宣言する。


これにより、アガレスのターンとなる。


「さあ、キミたちに見せてあげよう。このオレの実力を!!」


アガレスはその言葉と共にカードをドローした。



---------------------《フィールド》-------------------

〈アガレス〉 Lp300

召喚導師 Lv1/100/100

《虚無の巨人》Lv7/700/600


〈猟犬部隊B〉 Lp600

スカウト・ドッグ Lv2/200/100

《スカウト・ドッグ》Lv2/200/100

《ハウリング・ヘルハウンド》Lv6/600/400


〈猟犬部隊C〉 Lp500

スカウト・ドッグ Lv2/200/100

《サイボーグ・ケルベロス》Lv6/600/400

《獣の咆哮》 永続アイテム


〈猟犬部隊D〉 Lp400

スカウト・ドッグ Lv2/200/100

《スカウト・ドッグ》Lv2/200/100

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アガレスの手札はたった今ドローした1枚のみ。


彼のフィールドにいるのは、装飾のないノッペリとした白く背の高い魔人が1体のみ。


それなりのステータスを備えたレベル7のユニットだが、その見た目もあってやや頼りない。


ライフの総量そうりょうもフィールドの物量ぶつりょうも相手側の方が多く、アガレスが圧倒的に不利だ。


にもかかわらず、彼は可笑おかしそうに笑う。


「オレが不利だと思ってるかい?……違うね、この状況は勝利への布石さ」


アガレスはそう宣言すると、唯一ある手札を掴む。


「さあ、レベル3スペル《妨害禁止ぼうがいきんし》を詠唱だ」



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《妨害禁止》

Lv3 通常スペル

タイプ:

●:このターンのバトル中、相手はスペルを詠唱できない。

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これによりこのターンの間、アガレスは安全に攻撃が可能となる。


「さあ、《虚無の巨人》の攻撃。【空の拳撃ヴォイド・ブロウ】」


ノッペリとした魔人がその拳を振るい、《ハウリング・ヘルハウンド》を破壊する。


だがそれは、並べられたユニットの1体を倒したに過ぎない。


それだけでは、この状況は変わらない。


だが、僕のそんな考えは間違っていた。


次の瞬間、アガレスは宣言した。


「そしてこの瞬間、《虚無の巨人》の能力が発動する。【無の連鎖リフレイン・ヌル】!!」


それにより魔人の恐るべきチカラが発揮される。



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《虚無の巨人》

Lv7/攻撃700/防御600

タイプ:闇,悪鬼

●:自分の手札・フィールドにパートナー以外の他のカードが存在しない場合、戦闘でユニットを破壊した時に発動できる。

自身は続けてもう1度攻撃できる。

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それより《虚無の巨人》は再びその攻撃を行い、《サイボーグ・ケルベロス》を破壊する。


「そしてこの瞬間。再び、《虚無の巨人》の能力発動する。【無の連鎖リフレイン・ヌル】!!」


《虚無の巨人》は再び攻撃を行い、今度は《スカウト・ドッグ》を破壊する。


――――ああっ。


ここにきてようやく、僕は状況を理解した。


そう、この攻撃によってユニットを破壊したことで再び《虚無の巨人》の能力が発動することになる。


追加攻撃をしてユニットを破壊し、それをトリガーにまた追加攻撃をする。


これはつまり、ループ攻撃。


相手フィールドのユニットを全て破壊するまで、この連続攻撃は止まらない。


《虚無の巨人》はつぎつぎとその拳を振るい、全てのユニットたちを破壊していく。


そして、最後の機械犬スカウト・ドッグもまた破壊される。


「さあ、これでお前たちを守るユニットはいなくなった。さあ、直接攻撃だ!!」


《虚無の巨人》が猟犬部隊の少女たちの1人に狙いを定め、その攻撃でかたわらの機械犬ごと吹き飛ばす。


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〈猟犬部隊B〉Lp600→0

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攻撃を受けた少女は倒れ、戦いから離脱する。


だがこれで、ユニットの破壊の連鎖は途絶えた。


攻撃は、ここで終わりとなる。


「……いや、オレの攻撃はまだ続く!!」


「「!?」」


残された2人の少女、そして僕はアガレスの言葉に驚く。


「この《虚無の巨人》は前のターン、パートナーの《魔界の召喚導師》で召喚したユニットだ。……《召喚導師》の能力を忘れたか?」


そうだ。


僕は彼とレイミの戦いを思い出す。


アガレスのパートナー、その能力によって召喚されユニットはある能力を追加される。


それは2回の攻撃権を得る能力。


このターンの《虚無の巨人》の連続攻撃は、全て元々持つ能力によるものだ。


使用した攻撃権は、最初の1回のみ。


つまり、――――


「さあ、《虚無の巨人》の最後の攻撃。【最後の拳撃ファイナル・ブロウ】!!」


魔人の最後の一撃が、もう1人の少女と機械犬を吹き飛ばした。


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〈猟犬部隊C〉Lp500→0

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「……あ、あぁ」


倒れた2人の仲間を見て、少女は目に見えて動揺を見せた。


終始しゅうし無感情に見えた彼女たち。


その能面のうめんを崩せたことに、アガレスは満足そうな顔をしてターンを終える。


先ほどまでのアガレスが不利な状況は、もう一変していた。


最後に1人残された少女は、反撃をするべくドローを行う。


だが、その敗北は時間の問題だ。


僕の目にもそう分かった。




● ● ● ● 




薄暗い通路で行われていたレイミと警備ロボの戦いは最後の瞬間を迎えていた。


「《ハウリング・ヘルハウンド》の攻撃!!」


『これで、終わりだよっ』


俺とヴァナの言葉と共に、巨大な黒犬の咆哮で警備ロボをそのパートナーごと吹き飛ばす。


最後に残った警備ロボもこれでトドメだった。


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〈警備ロボ①〉Lp600→0

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―――――――― 〈クロス・ユニバース〉「決着」 ――――――――


―――――――― 勝者 「レイミ・ミチナキ」 ――――――――




戦いの決着を告げるメッセージが視界に流れ、出現していたカード達は消える。


吹き飛ばされた警備ロボが、煙を出しながら立ち上がる。


〔ピピッ。条件、【アナタたちを案内しマス】〕


そう発声すると、ロボは少しかがむようにしてその機体の上辺をこちらに向ける。


そこに乗れ、とでも言う様に。


「……まあ、いっか」


俺はその提案に甘え、その機械の体の上に乗ることにした。


この体は体力もなく、先ほども疲れて動けなくなっていたほどだ。


目的地までそう遠くないとはいえ、体力を少しでも温存したいところだった。


ロボはかがんでもそこそこ高さがあり、俺は自分の小さなカラダに苦労しながらも何とかその上に乗る。


そんな俺の様子をカメラで確認すると、ロボはその四つ足の先についたホイールを回転させて目的に向かった。、


俺は振り落とされないよう、ロボの装甲にその全身でしがみつく。


「…………」


――前にも、こんなことがあったな。


そんなありえない光景が、懐かしいという感情と共に不意に脳裏に浮かぶ。


先ほども感じた謎の既視感きしかん


その正体について再び考えようとしてみるが、頭が上手く回らない。


通路での全力疾走、警備ロボとのバトルとそのダメージ。


俺のカラダは疲れ切っていた。


しがみつく警備ロボの機械特有の暖かさも手伝って、マブタがだんだん重くなってくる。


俺の意識は深く深く、睡魔すいまの海に沈んでいく。


その底で俺は、とても懐かしいその声を聞いた。




――――はじめまして、レイミ。私はミチナキ。君たちホムンクルスの生みの親だ







次回「完全なる人類計画ホムンクルス・プラン」に続く

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