16.攻防の果てに
---------------------《4ターン目》---------------------
〈レイミ〉 〈トゥエルブ〉●
ヴァナ Lv0 スカウト Lv2
Lp 500 Lp 900
魔力 2 魔力1→4
手札 3 手札2→3
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---------------------《フィールド》-------------------
〈レイミ〉
ヴァナ Lv0/50/0
《セキュリティ・ガード》Lv3/300/200
〈トゥエルブ〉
スカウト・ドッグ Lv2/200/100
《スカウト・ドッグ》Lv2/200/100
《獣の咆哮》Lv0 永続アイテム
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割れた窓から冷たい夜風が入り、俺たちの間を通り抜ける。
だが、その程度の冷気では俺の中に充満する戦いの熱気を冷ますことはできなかった。
「……なぜ、笑っているの?」
そんな俺の楽しそうな様子に気が付いたのか、トゥエルブは不可解そうに聞いてくる。
対面するその少女は、そんな熱くたぎる俺とは対照的だった。
その声色には熱を感じず常に平坦で、フードの
思い返せば、1ターン目の《パトロール・ボール》の電撃でも声すら上げていなかった。
そして、その後の攻防でも淡々とした口調は崩れなかった。
そんな冷めた彼女の視線を真っすぐに返しながら、俺は自分の正直な気持ちを口にする。
「そりゃ、面白いからさ」
だから、俺は笑っている。
それは至ってシンプルな理由だった。
「…………」
俺の返答に納得したのか、しないのか。
その間からは判断がつかない。
俺の言葉に対する彼女からのコメントは特になく、少しの間をおいて淡々と次の行動を宣言しはじめた。
「ワタシはレベル2《スカウト・ドッグ》をリターンします」
やはり、そうきたか!!
リターン。
それはフィールドのユニットを捨て札にすることで、そのレベル分の魔力を得る行為だ。
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〈トゥエルブ〉魔力 4→6
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ターン始めの魔力補充と違い、この方法なら6を超える魔力を得ることが可能。
つまり、次に行うのは―――
「続けて、……レベル6《ハウリング・ヘルハウンド》を召喚」
不吉な色をした巨大な黒犬が召喚される。
現われると同時に放たれたその咆哮は、室内をビリビリと震わせる。
「……レベル6、これだと《セキュリティ・ガード》の能力は……」
そう、この能力で止めれるのはレベル2以下までだ。
ジュンの言う通り、これで俺の防御は崩される。
「……さらに、手札1枚を捨てて《獣の咆哮》 を発動」
永続カードである《獣の咆哮》はフィールドに残り続け、何度でもその効力を発揮する。
その効果により、これでこのターンもユニットが破壊される度に俺はダメージを受けることになる。
「……そして、今捨てた《天の落としもの》を発動」
《天の落としもの》は他の効果で捨て札から捨てられた際に効力を発揮できるスペルカードだ。
その効力で、お互いがカード1枚をドローできる。
《咆哮》による手札消費を補うカードも入れていたようだ。
しかし俺もドローできるので、ありがたく手札を補充させてもらおう。
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〈レイミ〉 手札3→4
〈トゥエルブ〉手札1→2
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「……ふっ」
トゥエルブが、…………笑った?
そして彼女はたった今ドローしたカードを表にする。
「……レベル0スペル《デブリ・エリア》 を詠唱」
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《デブリ・エリア》
Lv0 通常スペル
タイプ:重力
●:Lpを200払って詠唱する。
相手フィールドに『デブリトークン』(Lv0/攻0/防0)を4体まで召喚する。
それらはターン終了時に自壊する。
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〈トゥエルブ〉Lp900→700
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宣言と同時に、俺のフィールドに4つの金属のカタマリが召喚される。
《デブリ・エリア》。その能力は対戦相手のフィールドに意味のない
「……そんなことして何の意味があるの?」
マリーの疑問も当然で、それ単体では相手に壁を与えるだけのほとんど意味のないカードだ。
だが、この状況では話が違う。
「……《ヘルハウンド》の攻撃」
巨大な黒犬はその口を大きく開き、空気を震わせる咆哮をあげる。
その咆哮は衝撃波となって《セキュリティ・ガード》の体を破壊する。
だが、その攻撃はそこで終わらなかった。
「……続いて《ヘルハウンド》の能力が発動。【
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《ハウリング・ヘルハウンド》
Lv6/攻撃600/防御400
タイプ:風,闇,獣
●:ユニットを戦闘破壊した場合に発動する。
それよりLvの低いユニット全てを破壊する。
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咆哮の衝撃波は周囲にも広がり、そこに浮かぶレベル0である4体のデブリトークンをも襲う。
「自分で出したトークンを自分で破壊して、いったい何の意味が?」
「……まてよ、これはマズイぞ!!」
戸惑うジュンの隣で、アガレスがいち早くその意味に気づく。
そう、これはかなりマズイ事態だった。
なぜならこのターン、""《獣の咆哮》が発動している""のだから。
《獣の咆哮》は、相手ユニットによって俺のユニットが破壊される度にダメージを発生させる。
それは攻撃だけじゃない、その効果によってもだ。
そしてそれが相手によって無理やり出された偽りのユニットだったとしても……。
「……《咆哮》によって1体につき100ダメージ。戦闘破壊も含めて500のダメージがアナタを襲います」
俺の今のライフは、ちょうど500。
このダメージをそのまま受けたら俺のライフは―――、
『……そんな、マスター!?』
デブリを引き裂くその衝撃波は、その凶悪な威力をそのままに俺とヴァナも吹き飛ばす。
俺たちの体は紙屑のように宙を舞い、工房の棚に背中からぶつかる。
「……くぁっ」
棚を歪めるほどの衝撃が俺の背中を襲い、喉からは音にならない音が漏れる。
落下した先の地面に4つの手足で何とか着地するが、全身に走る痛みに俺は顔を歪めた。
「……ではワタシの勝ちということで条件通り、……ッ!?」
そこまで言いかけてトゥエルブは気が付く。
また、勝負の終わりを告げるメッセージが流れていないことに。
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〈レイミ〉Lp500→100
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「……な、なぜアナタのライフが残っているのです!?」
予想外の状況にトゥエルブは目に見えて動揺する。
感情を出さない彼女のそんな様子を引き出したことに満足しつつ、俺は立ちあがりながら種明かしをする。
「攻撃の瞬間、俺は2枚のスペルを使ったんだ……。うち1枚がこれ《0:1交換》さ」
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《
Lv0 通常スペル
タイプ:
●:自分フィールドのLv0カード1枚を破壊し、1枚ドローする。
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『これでマスターはレベル0のデブリトークン1体を破壊した』
「そうさ、お前の""《ヘルハウンド》の能力で破壊される前に""な」
そう、《獣の咆哮》はユニットの攻撃か効果で相手を破壊した場合にダメージを与えるカード。
他のカードで破壊してしまえば、そのダメージは発生しない。
そして、このダメージを狙った破壊コンボが逆にヤツを追い詰めることになる。
「ちなみに、お前の予想外はライフだけじゃないぜ」
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〈レイミ〉魔力 2→11
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「……な、なぜ魔力が!?」
「さっき言ったぜ、俺は攻撃の瞬間に""2枚のスペル""を使ったってな」
《0:1交換》と同時に使ったもう1枚のカードそれは、
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《ヴァルハラの祝福》
Lv0 通常スペル
タイプ:光
●:このターン、ユニットが破壊される度にその合計Lv+2の魔力を持ち主に与える。
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アガレスとの戦いで入手した新たな切り札。
相手が使った《天の落としもの》によってドローできたこれは、大量のユニットが破壊されることでその効力を最大限に発揮する。
そして、次の1枚がその仕上げだ。
「さあ、ここで俺はさらに《地獄からの帰還》を詠唱するぜ」
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《地獄からの帰還》
Lv0 通常スペル
タイプ:闇
●:自分のユニットが破壊された場合に詠唱できる。
Lv6以上のタイプ「闇」ユニット1体を捨て山から召喚する。
その攻撃力・防御力は200アップする。
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「……しかし、アナタの捨て山にレベル6以上のユニットなんて」
確かにこの試合中、俺はレベル6のユニットを見せてはいない。
だがそれはフィールドに出していないだけのこと。
「……そうか、まさか1ターン目の時点で!!」
真っ先に気がついたアガレスに、俺は正解の笑みを向ける。
そう、最初のターンに俺は《パトロール・ボール》の効果コストで手札から1枚のカードを捨て札にしていた。
そのカードは―――、
「さあ、出番だ。来い、《ダークネス・オーガ》!!」
地面を割り、巨大な鬼がフィールドに姿を現した。
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《ダークネス・オーガ》
Lv7/攻撃850/防御500
タイプ:闇,悪鬼
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〈レイミ〉魔力 11→4
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さらに、そのステータスは《地獄からの帰還》で200ずつ強化される。
《オーガ》の巨体はさらに膨れ、その頭が天井にぶつかり傷をつける。
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《ダークネス・オーガ》
攻撃力850→1050
防御力500→700
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《オーガ》の巨体に圧倒されながら、震える声でトゥエルブのエンド宣言をする。
さあ、次の5ターン目でフィニッシュだ。
「さあ、《オーガ》の攻撃!!【
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《ダークネス・オーガ》
攻撃力1050
VS
《ハウリング・ヘルハウンド》
防御力400
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そのステータスの差は圧倒的だ。
大鬼の巨大な腕のひとふりで、大きな黒犬は吹き飛ばされて消滅する。
そして、これでトゥエルブとパートナーを守るものは無くなった。
「これで最後だ!!レベル0スペル《バトルリレー》」
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《バトルリレー》
Lv0 通常スペル
タイプ:
●:攻撃した自分のユニット1体を捨て札にする。
このターン、その元々の攻撃力分だけLv1以下のユニット1体の攻撃力をアップする。
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その効果により《オーガ》の攻撃力を《ヴァナ》に受け継がせる。
これにより、その元々の攻撃力分850がヴァナの攻撃力に加わる。
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《虚構天使ヴァナ》
攻撃力50→900
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大鬼が光となって消滅し、その後に残ったオーラがヴァナの体に宿る。
「……そ、そんな」
一連の攻撃をただ
彼女の手札には、もう対抗手段はないようだった。
『さあ、私の攻撃!!【トランス・ウェーブ】』
ヴァナ放った念動波が機械犬とトゥエルブの体を吹き飛ばし、その体を壁にたたきつけた。
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〈トゥエルブ〉
Lp 700→0
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―――――――――― 〈クロス・ユニバース〉「決着」 ――――――――――
―――――――――― 勝者 「レイミ・ミチナキ」 ――――――――――
戦いの決着を告げるメッセージが視界に流れ、出現していたカード達は消える。
壁に叩きつけられたトゥエルブはバタリと地面に倒れ込む。
吹き飛ばされた衝撃でその黒衣ははだけ、外れたフードの下の素顔が電灯で照らされる。
「………えっ?」
それは誰が漏らした驚きか。
トゥエルブの素顔を見て、ようやく俺は戦い前に彼女に感じた
長くキレイな銀髪と赤い目。
透き通るように白い肌。
その顔は、俺の体の少女レイミにあまりにもよく似ていた。
次回「同じ顔の少女たち」へ続く
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