第59話 勇者とバイオハザードとー2

 未伝播地流行という言葉がある。


 処女地流行、未開地流行ともいう。

 アルフレッド・クロスビーというアメリカの歴史学者によって造られた言葉だ。


 ある特定のウイルスが発生しておらず免疫を持たない地域に、未知のウィルスが投入されると、免疫が無いため抵抗できない。

 その逆に、未開の地で隠れていたウイルスが、何かの拍子に文明社会に触れると爆発的な流行をすることがある。


 防疫は非常に重要だ。


 ******


「未開地流行くらい知っているさ。

 その土地にあるウィルスに対する免疫が無い状態で、その場所に立ち入ればウィルスに感染するし、逆にその地にないウィルスを持ってきてしまえば、周りに被害を与える。

 俺がくる時、自分のこと以上に、それは重要視した。

 アッちゃんや家族のみんなを俺が殺すわけにはいかないから」


 アサヒが動きを止めて大介を見た。


「ダイちゃん・・・」


「でも、こっちの食いもんはどうしてるんだ?普通に食ってるだろ」


「わかりやすくいえば、アレが結界を張っている。

 クリーンルームといえば良いのかな。

 無機物の類は、そこで殺菌だ。厳密にはちょっと違うけどな。

 あと、こっちから持ってった食い物は、基本的にその中で飲み食いしている。

 アレが、向こうの世界にもある物・菌だから良い、といえば持ち出すよ。

 塩や醤油、味噌も大丈夫だったし、納豆もいけたよ」


「こう言っちゃなんだが、区分がわからないな」


「・・・日本の、いや、地球の情報やDNAを取り入れることには積極的なようだ。

 俺も、たくさんの女性の相手をしたよ」


「なんだ?イケメンの自慢か?」


 マコトが茶化すように言うが、大介は乗ってこない。


「違うんだ。大体エルフが普通にいる世界だぞ。

 横に並ばれたら良いとこキープだ。本来ならな」


「ダイちゃんでも?」


「だが、各地で歓待を受けると決まって『勇者様、お慕いしております』だ。

 俺じゃなくて、『勇者』に焦がれた女性が現れる」


「マジか・・・」


「最初はホイホイついて行ってたが、今じゃ怖いよ。

 どっちかっていうと、食われる側だ。

 酒飲まされてさ、意識なくなって、起きたら横に誰かが寝てるんだ」


「・・・コーラ、飲むか?ペプシもコカコーラもあるぞ」


 アサヒが、再度フィットネスを始めたが、あまりキレがない。


「というか、エルフとヤったんか!ちょっとそれは羨ましいかもだぞ!」


「一時期は、人間も、エルフも、ドワーフも、グラスランナーも、獣人もかな。

 もう、よくわからないよ」


「「勇者だな・・・」」


「正直、遺伝子が適合するのかテストされてるみたいだったよ」


「今は、大丈夫、なのか?」


「ああ・・・」




 ペプシコーラを飲んだ。




「俺、冴羽リョウをこの世で最も尊敬してるから」

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