第42話 あっくんとあやちゃんー3

「就職してから運動不足で、少しずつ太ってはきてたんだ。

 まぁ、彼女に振られてから更に食に走っちゃって。

 気がついた時には、びっくりの体重だよ。

 やっぱり、22時以降の食事は危険だね!」


 少し、自嘲してしまう。


「ママから、倒れたって聞いたけど」


 調理が済んだのか、キッチンから音がしない。


「あ、うん。

 ちょっと寝不足続いたなーってなんて思ってたらね。

 駅で電車待ってたら、目の前がスーッと暗くなっちゃって、気がついた時には病院のベッドで寝てた。

 ちょっと入院して、ダメだーってなって、会社辞めて帰ってきたの」


 少し喉が渇いてきたので、買い物袋を開けてみる。

 2リッターペットボトルの伊藤園の麦茶があった。

 棚からグラスを取り出して注ぐ。


「そんな感じでさ。

 貯金も結構貯まってたし。

 退職金も出たからねー。

 しばらく実家に帰るのも良いかなって」


 麦茶を飲むと、こうばしい香りが喉を滑り落ちていく。

 この麦茶が一番アサヒの好みだ。


「あとでさ、倒れた時に介護してくれた人に、お礼を言えたんだけど、

『ぴーんと背筋を伸ばしたまま、まるで棒が倒れるみたいに、まっすぐ横に倒れたのでびっくりしました』

 って言われたよ。

 まぁ、最前列じゃなくて良かった。下手したら線路おちてたし。

 あやちゃんは気をつけなよー」


 笑って言う。


 棚から取り出した卓上コンロをセットした。


「あ、コンロ用意したから、お鍋出来たら言ってね。運ぶから。麦茶、飲む?」
















 アサヒを後ろから綾子が抱きしめていた。


「もっと早く帰ってくれば良かったんだ。ばか」


「うん」


「おかえり」


「ただいま」



 ******


 その日、大介は鍋を食べきれなかった。


 大介が帰った後、残った鍋をアサヒと綾子は二人で食べた。

 試食のオバ様が勧めてくれたウィンナーにも味が染みていた。



 とても美味しかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る