第29話 脱出
「参りましたね。
これでも少しは出来る方だと思っていたのですが」
最初に意識が戻ったアサヒが、倒れているマコトとジンを揺り起こすと、すぐに目を覚ました。
部屋は元通りで、何一つ変わっていないように見えた。
立ち上がるとベロベロに酔ったような状態で、満足に歩けなかった。
お互いに支え合いながら、3人はマンションを出た。
普段であれば5分で着くコンビニまで20分かかった。
ひと気が恋しかったが1台の車も通らず、自動ドアの向こうに疲れた表情の茶髪の店員がいたのが、酷くありがたかった。
コンビニの前でしゃがみ込んだジンは、ジョージアのエメラルドマウンテンに口をつけた。
甘いコーヒーが、冷え切った身体に熱を与えてくれた。
「アサヒさん。
理由はわかりませんが、アレはあなたを気に入っています。
マコトさん。
あなたもです。
これを見てください」
ダブルジャケットのポケットには、沢山の灰が詰まっていた。
「一番強力な符と守札が入っていました。
私はこれを持っていて、何とか生きています。
情けないことに気を抜くと今でも震えて来ます。
あなた方に渡す前に遭遇しましたが、お二人は意識を失ったものの身体的な影響が全くありません。
もし敵意や害意を持たれていたら、ここにいることはなかったでしょう。
神の善悪を言うのもおかしいですが、アレは全くの善意です。
本当にアサヒさんの疑問に答えてくれたのです」
そのまま、ジャケットをコンビニの前のゴミ箱に突っ込んだ。
「アレが言っていましたが、我々の世界の神様に動いてもらうことは難しいでしょう。
もし動いていただいた場合、それだけで、あちらの世界が壊れるかもしれません。
それをきっかけに何が起こっても不思議ではありません。
今は待つしかないのでしょう」
マコトは黙ったまま、震える手でタバコに火をつけると大きく吸い込み、東の空に向かって大きく白い煙を吐き出した。
その横で、アサヒが言った。
「不思議なんですが、僕、さっきのアレ、全然怖くなかったんです。
だから、多分、大丈夫だと思います」
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