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哀想蛍
第1話 バイト先で
棚に頼まれていた本を並べる。その気だるそうな後ろ姿には過去の性格など見る影もない。
「
「わかりました。」
「じゃあお願いします」
笹平さんが微笑みながら、高校1年でバイト始めたての僕にそう言いながら、棚に並べる本がたくさん入ったカゴにその本も入れる。笹平さんは60代前後で僕がアルバイトしているこの本屋の女性の店長だ。こんな物腰柔らかそうで笑顔が素敵な女の人なんて、若い頃にはたいそうモテただろう予想がつく。
不意に窓の外を見ると体育着の生徒と部活着の生徒が一緒に歩いていたのが見えた。時計は6時過ぎを表している。おそらく部活体験が終わったのだろう。
「そんな短時間で人と仲良くなれるのかよ。」
羨望が入った愚痴をこぼす。しかし、比べていても仕方がないと自分を騙すように作業に戻る。
このバイトに入って分かったことは本に関わる仕事は意外と僕に向いていたらしい。本のタイトルから内容を想像したり、本を並べるという本に触れるのは一瞬なのにその一瞬で魅力を感じて新しい発見をすることも僕には新鮮で楽しい体験だった。今日も1冊残った魅力を感じた本を自分担当のカゴの隅にキープして帰りに買って帰ろうと少し楽しさをかんじながら作業を続ける。作業中に歩く度にいつもお腹辺りに当たる僕の店員の名札の紐に手が絡まりほどくのに時間がかかっていると
「すいません」
後ろから声をかけられた。
「はい。何がお困りでしょ...うか」
振り返ると綺麗な黒髪に少し赤みがかっているマルーン髪でロングヘアが特徴的などこか上品な印象を持つ美人さんがそこに立っていた。
言葉に詰まりながら変な印象与えないようになるべく自然に絡まった手を解き無表情を保つ。
「探してる本を聞きたいのだけど」
「あ〜...その本だったらこちらにございますよ」
案内してその本を見せると彼女は少し目を細めて本を確かめて「ありがとう」と言った
「ごめんなさい。今眼鏡かけてないから少し目つきが悪くなってたと思うわ。」
「いえ、全然大丈夫です。」
こういう時「いえ目つき悪いなんて思わないですよ」なんか言って少しでも相手のポイントを貰うべきなのだろうか。....いやそれだとまた昔に逆戻りだ。このままでいい。
「あともうひとつ聞きたいのだけれど」
「はい」
......
「あ〜...その本でしたらここにあります。」
彼女が聞いた本は僕が後で買おうとカゴの隅にキープしておいた本だった。彼女が残り1冊しかないそれを受け取り「ありがとう」とお礼を言い顔を上げて...
「ねぇ、どうしてそんなムスッとした顔をしているの?」
どうやら無意識に顔に出ていたようだった。自分が本を取られることに対しての苛立ちか本をこんな美人に取られるならいいと思っている自分の情けなさに対しての苛立ちか分からないが、これ以上伝わらないように急いで無表情を作り
「そんなことないですよ。少し興味があっただけです。」
とぶっきらぼうに返す。すると
「直してるつもりかもしれないけれど、全く変わってないわよ?」
クスッと微笑みながら僕に返し、また目を細めて僕のお腹辺りを見て驚いた様子で彼女はレジに向かった。
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