邪龍の鉤爪 / 三話.


「そりゃあ失礼なことのひとつも考えるでしょう」

 口をついて出て来たのはそんな言葉だった。

 幾ら雲の上の人とはいえ、自分の家に勝手に上がり込んでいたら文句の一つも言いたくなるというものだ。

「だって貴方、逃げ出そうとしていたでしょう?」

「何の説明もなしに閉じ込められたと知ったら、逃げたいと思うのは当然のことだと思いますが。

 それでどうやって俺より先に?

 家の扉はしっかりと戸締まりしていた筈ですが。

 まあ転移魔法以外の手段なんて思いつかないんで、外出中に忍び込んでマーカーでも設置したんですかね。

 そもそもここが俺の家だってことを貴女が知ってたらの仮定ですが」

「……ふふ。言いますね」

「さっきのBランクって話も本当かどうか、極めて怪しいですしね」

「……」

 聖女サマは能面の様な無表情を貼り付けたままじっとたたずんでいた。

 その視線は家の中の何を見るでもなくただくう彷徨さまよう。

 しかしそれも束の間。

「……さあ、戻りましょうか」


 おい、聞く耳なしかよ……

 って、また何で泣いてるんだ!?


「せ、聖女サマ?」

 聖龍様といい、何でこう急に……

 しかし聖女サマはその問いかけを無視して転移魔法をぶっ放してきた。

 そして雑に俺の首根っこを掴んでグイと引っ張る。

《 帰るときはまず裏手からホームに入り、正面玄関から出るのじゃ。

 そして正門には向かわず外から裏手に回って裏門から出よ…… 》

「えっ!?」

皆が・・待っておるぞ 》

 俺はそのまま石ころの如くポイとぶん投げられ、驚くいとますらなくギルドへととんぼ返りさせられた。



 逃げ出してから強制送還されるまで、わずか数分。

 あっという間の出来事だ。

 しかるに戻った先で待ち受ける面々も先程と変わらずだった。

 俺は無様な態勢のまま片手でポイと放り出され、ずでーんという効果音が聞こえてきそうな勢いで地べたにいつくばった。

 それにしても凄え腕力……ってあれ? 戻ったのは俺だけかよ。

 聖女サマは他人の家で何やってんだ?


「随分と早いお帰りだな」

 アンデッド狩りが呆れた顔で言う。その隣には重騎士。

 二人共さっきの場所から一歩も動いていなかった。

 まああっという間の出来事だったし当然と言えば当然だ。

「ははは、……が……、あれ? ……?」

 な、何か言いたいことが言えないぞ!

 あの一瞬で更に何かされたってのか!?

「フム、大方“聖女様が待ち伏せしていた“、辺りか」

 おっと、察しが良くて助かるな。

 俺はコクコクとうなづいた。

「ほほう、なるほど。

 しかし今のが致死性の呪詛じゅその類でなくて良かったな」

「おいおい、脅かすなよ」

「決して脅しなどではないぞ。

 口封じとしてはむしろ常套手段と言っても良い。

 何なら今度教えてやろうか。

 あんたならすぐに習得出来るだろう」

「いや、そういうのは遠慮しとくわ」

「フム……、そうか。

 それにしても転移魔法は確か一度行ったことがある場所でないと行けない筈だが、さて」


 その間に聖女サマがいつもの柔和にゅうわな笑顔で悠然と姿を現し、騎士達と二言三言言葉を交わしていた。

 何があったのですか、などと呑気のんきしゃべっている。

 俺と一緒じゃなくてさっき出て行った方からのご登場だ。

 あっちって何があったっけ……ああ、トイレか。

 そしてどうやら涙の跡を見た騎士連中が騒ぎ始めたらしい。

 それを見た重騎士も今日一番の速さで聖女サマの元に駆けて行った。

 聖女サマはそれを笑顔で迎え、何かを話しかけた。

 こちらを一瞥いちべつすらせず、騎士達と何かを打ち合わせている様だ。


 それを見ていたアンデッド狩りがふと感想を漏らす。

「……聖女様は何故なにゆえ涙を流しておられたのか。

 しかもあの表情と態度……フム、この隙に……」

 何がフム、なんだか……

 待ち伏せしてたってことに何か含みでもあるのか。

「あんたは聖女サマのところには行かないのか?

 大神殿は上客なんだろう」

「……すまん、この後大神殿の様子を探りに行ってはもらえないだろうか。

 但し隠密行動でな。報酬ははずむ」

「俺のことも疑ってるんじゃなかったのか?

 さっき俺の処遇がどうとか言っていただろう」

「すまん、あんた自身を疑ってる訳ではないのだ。

 だがどうやらあんたは例の依頼を達成した時点で、既に重要な関係者になっているらしい。

 あんた自身の意思とは無関係にな。

 どうだ? 自分でそれをどうにかしたいと考えるのなら悪い申し出ではないと思うが」

「そうか……そうだな、分かった。確かにあんたの言う通りだ。

 しかしこの後か。こんな時分に何を探れと?」

「聖龍様が亡くなられたことに関して、大神殿は何かを隠している。

 それを探って欲しいのだ。

 事情は追って話すがもう一点、気にかけておいて欲しいことがある」

「まだあるのか」

「近頃噂ばかりで勇者様の姿もさっぱり見かけないだろう。

 一連の事態から察するに、何か裏があると考えるのが妥当だ。

 だから勇者様絡みの情報についても耳にしたら報告して欲しい。

 どんな些細なことでも良い」

 取り敢えず受けるとは答えたが、何だってこれ程熱心なのか……こっちはこっちで何か事情があると考えて良さそうだな。

 しかしやはりこの時分にってのが気になる。

 魔王軍絡みの話なのか?

「魔王軍の話はどうなるんだ?」

「そっちは対策済みだ。冒険者ギルドに関してはギルマスの方も対策・・はしてある」

 ああ、そのためのSランクという訳か。

「まあ、今の話からして優先しなければならない事案だってのは分かる。 

 しかしこの変な結界は?」

「こいつは俺がある協力者の力を借りて張ったものだ。

 だが思わぬ穴があってな、取り敢えず今は用を成しておらん。

 あんたを送り出した後でまた修復するがな」

「聖女サマ絡みなのか?」

「ああ、最近どういう訳か聖女様の周囲から死の気配が色濃く感じられる様になったのだ。

 ……今もな。

 もっとも、大神殿のボンクラ共はまるで気付いておらん様だが」


 気付いてない、か。

 じゃあ聖龍様はどうだったんだ?

 当然、気付かない筈はないだろう。


「……つまり?」

「まあ、そう結論を急ぐな。そのための調査だ」

「ところで報告はどうする? どこかで落ち合うか?」

「いや、俺は俺で動かねばならんからな。通信用の護符を使うか」

「空間系の術を使うと悟られる可能性があるぞ。

 置き手紙とか、足の付かないやり方にしないか?」

「フム。そうだな、了解した。では——」


「あら、また内緒話ですか?」

 そこへ聖女サマがやって来た。

 騎士連中が良い足止めになってくれたな。

 なるほど、猫を被ってる間は大丈夫ってのはこういうことか。


「聖女サマ、やたらと長かったですね。便秘ですか?」

 真面目に付き合ってやる道理もない。

 俺は渾身のボケをかましてやった 。

 

「おい、貴様ァ……!」

「さては貴様が……この下衆ゲスめ……!」

 おっと、俺氏、アナタからキサマにクラスアップしました!

 重騎士サマ、何でか知らんけどマジおこです!

 ちなみにゲスゲスわめいてるのは騎士団の連中だ。

 こいつらは聖女サマの部下であって重騎士の身分は騎士じゃなくて神官長サマなんだよな。

「聖女様、もう我慢がなりませぬ。

 貴様! 先程の逃亡といい、到底許されることではないぞ!」


 これ……絶対聖女サマが何か吹き込んでるだろ。

 そう考えるとこの人ら、もう可哀想しか感想がないわ。


「そうですね、それではこうされてはどうでしょう」

 割って入ったのはアンデッド狩りだ。

「ム……貴方、まだ居たのですか。

 貴方の考えなどどうでも良いのです。ロビーに戻りなさい」

もとを正せば我らがこの者を取り逃がしたのが原因なのです。

 聖女様は我らに任せる、確かにそうおっしゃられましたね」

「ええ。そうですわね、確かにこの場の処遇は貴方がたにお願いしました。

 そして貴方はそのせめを負うと」

「はい。

 わたしはこのギルドのAランク冒険者です。

 ですのでわたしが代わりに斥候役を務めます。

 そこの男は見張りを付けて希望通り自宅にでも押し込めておけば良いでしょう」

「聖女様。その者は先ほど貴女様に妄言を吐きました。

 いわばそこの男と同類です。

 その様な者の言葉に耳を傾ける必要などありません」

 何かまた好き勝手なことを言い始めたぞ。俺は知らんけど。

「そうですね……では、貴方はこの場をどの様に処すればよろしいと考えますか。

 わたくしは貴方にも後のことをお願いしたつもりだったのですが」

「たかが近隣の斥候に冒険者の協力など不要でしょう。

 我々だけで対処致しますのでこの者らはギルドに戻せばよろしいかと」


「それはまた随分とめられたもんだな」

 そこへSランクが戻って来た。

 また間のよろしいことで……これ絶対何かの茶番だよな?

 じゃなかったら面倒しかねえが流石に聖女サマとSランクが揃ってそれはないだろう。

 この二人、かなり昔からの腐れ縁らしいしな。

 重騎士の方はよく分からんが仲間外れだな、多分。可哀想に。

「ギルマスとの話は?」

「ああ、話はつけて来たぜ。

 俺に出て欲しいなら金貨200枚だ。

 俺が行くなら別に一人で良いだろ」

 金貨一枚ってのは概念的には小判一枚と大体同じ位の価値だ。

 反応したのは想定部外者の重騎士だ。

「斥候に家一軒建つ金をポンと出せと言うのですか」

はなっからそうすりゃ良かったんだよ、なあ」

 と言って俺の方を振り向く。

 いや、急に振られても困るんだがなあ。

「急に水を向けんなよって顔してんな」

「おエライ方に命じられたら俺の様な雑魚に抗う術などないんで、出来れば勘弁して欲しいところなんですがねえ」

 と、敢えて聖女サマの方を振り向いて訴える。

「フン、粗方あらかたそいつに“水を向けて”欲しかったってとこなんだろうがな」

「貴方、繰り返しますがSランクだからといってそう好き勝手に——」

 重騎士との間でまた言い合いになりかけるが、聖女サマが制する。

「良いのです。問題はありませんよ」

「は、はあ……」

 そう言われては重騎士も尻すぼみになるしかない。

 この人、本当に損な役回りだよな。

 今度飲みにでも誘ってみるか……

 で、俺が水を向けるってのは何の話だ?

 聖女サマもはて、と首をかしげている。

「それよりも今は魔王軍をどうするかについて考えねばならないでしょう。

 ギルドマスター様とわたくしとで予め取り決めた通りにことを進めれば何も問題はないのですが」

 あ、これは今なら俺にも嘘だって分かるぞ。

 ……聖女サマがやおら俺の方を振り向き小さく首を左右に振る。

 お前は黙ってろってか。

 おい、それじゃあまるで俺が関係者の様じゃないか。

 ポーカーフェイスを装うのも良い加減疲れてきたんだが。


「さて、わたくしは少し用を足しに行って来ます。

 場合によっては多少長くなるかもしれません。

 ですからこの場は貴方がたにお任せしますよ。

 良いですね?」


 そう言うと聖女サマはまたどこかに行ってしまった。


 ギルドの裏では誰が斥候の任にあたるべきか、皆が勝手に思い思いのことを口にし始めて収拾がつかなくなってきた。

 もう聖女サマの首に鈴でも付けといた方が良いんじゃないか?



「おい、ちょっと良いか?」

「ああ、何だ。今度こそこっそりトンズラしようとしてたとこなんだがな」

「フン、どうだか」

 話しかけて来たのはさっき戻って来たSランクの男。それにアンデッド退治も一緒だ。

「で、何だ? あっちは大丈夫なのか?」

「おいおい、皆お前のことでヒートアップしてんだぞ。

 ちったあ当事者意識を持てよ」

「知るか。勝手に騒いでるだけだろう。

 俺自身志願なんぞした覚えはないしな。

 ましてや依頼書を貰ってる訳でもねえ……ああそうだ、何かいきなりBランクに昇格だから強制参加だとか言われたがありゃ本当なのか?

 ギルマスから何か聞いてないか?」

「何だと? そんな話は知らんぞ。聖女サマに言われたのか?」

「ああ、そうだ。それにしてもやっぱり出任せだったか」

「フン、下らねえことを。後でお仕置きだな。

 ……ああ、それでなんだが」

「おっと、本題か。すまん」

「いやな、何で誰も指摘しねえのか分からねえんだが、お前をここに連れ戻したのは聖女サマなんだろう?」

「ああ、それで間違いない。あんたの言った通り抵抗する間もなかったよ」


 転移した先の自宅で首根っこをふんづかまれたとき、どういう訳か涙を流す聖女サマと視線が交差する瞬間があった。

 しかし底冷えするその無表情さ、その無言の・・・圧力に俺は思わず息を呑み、抵抗することも忘れて親にくわえられた子猫の様になっていたのだ。

 有り体に言って、俺はそのとき素でビビっていた。


「今さっきこのアンデッド狩りに聞いたんだが転移先で待ち伏せされてたんだろ?

 どこでとっ捕まったんだ?」

「ああ、家だ。俺ん

 良かった、例の内容でなければ差し支え無い様だ。

「あ? お前の家だぁ? ふざけてんのか?」

「俺は至って真面目なんだが」

「何で聖女サマがお前の家に先回りして転移なんてするんだよ」

「俺も聞きたいが、聞きづらいから確認しといてもらって良いか? 報酬の半分を返しても良いぞ」

 最悪聞いたら死ぬかもしれないしな、とは言わないでおく。

「報酬? お前こいつに何か頼んだのか?」

 ここで話を振られたのはアンデッド狩りだ。

「例の件だ。さっきこいつに依頼した。

 確認が後先になっちまったが良いな?」

「おおう、渡りに船だぜ。よく頼めたな」

「どう話すか色々と考えていたんだが、話の流れでどうにかな」

「Cランクの雑魚にSランクとAランクが揃って何を言ってるんだ」

「お前は既に関係者なんだ、フツーに逃げんのは良い加減諦めろ。

 ついでに言うとこの件が丸く収まったら“Cランク止め”生活ももう終わりになるだろうからな、覚悟しとけ」

「はぁ……分かったよ」

「フム、しかしお前の家か……」

「何が“フム”なんだよ。アンデッド狩りといいあんたといい」

「お前を信用して言うが、ギルドの建屋に結界を張り巡らせたのは俺だ」

「何だって!?……いや、それが今何か関係あるのか?」

「結界は聖女サマだけを通さない様にしてあったんだがな、お前が出口でまごついてるのを見て不具合でもあったかと思ってちょいと直したんだよ」

「直した?」

 これに答えたのはアンデッド狩りだ。

「あんたの魔力を検知したら通れる様にした」

 さらっと言ってるけど凄え技術だぞ、それ。流石だわ。

「じゃあ今は……」

「ああ、出られる。出られるんだが思わぬ副作用があってな。

 何故か聖女様も自由に出入り出来る様になってしまったのだ」

「なるほど、やはりこの結界は聖女サマを抑えておくためのものだったってことか」

「そういうこった」

「しかしなんでまた?」

「分からん。今となっちゃ隠すこともねえ、後で調べさせろ」

「はあぁ……分かったよ。まあ俺も知りたいしな、色々と。

 ちなみに聖女サマはこのことを?」

「そりゃとっくに気付いてんだろ。

 まああのゴリラ女は並の結界なんざワンパンでブチ壊せるからな、出入りを察知するってぇ意味じゃ今のまんまでも良いんだが」

「ははは……なるほどな」

 さっきの出来事を思い出して思わず乾いた笑いがこぼれた。

 ってそうだ、肝心なことを決めてないぞ。

「ところで連絡手段なんだが……」

「王城に行って右の門番にコイツを見せろ。

 タイミングは問わねえが五日以内だと助かる。

 案内された先で通信筒を手渡して詰所の勝手口から外に出ろ。

 繋ぎ役はコロコロ変わるが申し送りはしておく。

 わかってると思うがツラは隠しとけよ」

 Sランクはそう言って俺に半分に割られた古い銀貨を手渡した。

「良いのか?」

「今更だろ」

 今のはアンデッド狩りにも意外だった様だ。

「了解した。まあ詳しい話は機会があったら聞くとするわ」

「おう、頼むわ」



「お話はまとまりましたか?」


 そこへ聖女サマが戻って来た。

 Sランクといい、この人達タイミング良すぎないか?

 それはそうとこの人どこに何しに行ってたんだ?

 トイレにしちゃあ長かったな、さては……


「貴方、また何か失礼なことを考えていましたね?」

「き、貴様ァ!」


 しかしそこで、話は終わったとばかりにSランクは騎士団連中の方を振り向き大声であおる様に言う。


「さて、そこのお坊っちゃんがたの代表者は決まったか?

 話はついたんだよなぁ?」


 さっきのことに加えてお坊っちゃんと揶揄やゆされてまたキレ出す騎士連中。

 こいつら、聖女サマに関してちょっと盲目的過ぎないか?

 幾ら配下とはいえ大神殿の筆頭騎士団なんだぞ。

 それが分かってのことなのか否か、彼らをなだめつつ重騎士が答える。

勿論もちろんです。今しがた班の編成も終わりましたから貴方がたの出る幕はありませんよ」

「では、わたくしも彼らに同行するとしましょう」

「ええっ!? しかしそれは……」

「ギルドマスター様との取り決めです。

 先導役として彼を入れる、という点もそれに含まれます」

 と言ってこっちを見てニヤリと微笑ほほえむ。

「ですから貴方に関しては出番があると思って下さいね」

「ほぇっ!? そうなの?」

 マジか!? 何でだよ!

 びっくりして変な声が出てしまったじゃないか!

「聖女様、しかし——」

「取り決めは取り決めです」

「ナルホド、そいつは何よりだ。

 だが斥候なら心配いらねえぞ。

 とっくの昔に俺んとこクランのレンジャー共が向かったからな。

 それに近場は昨日俺が全部見て回って来たぜ。

 当然、ギルマスにも報告済みだ」

「何だって!?」

「それでは先程までのお話は……」

「悪いな、無しで頼むわ。話はついてるんだ」

「ではこの茶番も……?」

「ああ、時間稼ぎなんだわ。重ねてすまんな」

 えぇ!? 俺もビックリなんですけどォ!

 勿論もちろん茶番だって話も含めて!

 ちなみに聖女サマもこれには本気でびっくりしてる様だ。

「聖女様、申し訳ありません。

 実を言いますとわたし一枚噛んでおりまして」

「そこのCランク君も茶番に付き合わせちまって済まんな」

「き、貴様らぁ……」

 あ、俺ら三人全員キサマ呼びに変わったぞ。

 しかしアンデッド狩りもSランクも至って冷静に答える。

「そういう訳です。大神殿の皆様方には街の防衛に戦力を全て割り振っていただけると思いますので」

「これで丸く収まるんだからめでたしめでたしだろ」

 そんな訳ないよな。

 Sランクだかギルマスだか知らんけど、聖女サマはじめ大神殿を泳がせてたってことになるんだ。

 俺はもうずらかるから知らんけど。

 しかしSランクは更に畳みかける。

「それにな、わざわざギルドに乗り込んでまで我を通そう・・・・・ってんだろ?

 それなのに冒険者共に仁義を通そうって勇気もねえときた。             

 そんなアンタが文句を言う権利なんて微塵みじんもねぇんだぜ。

 そうだろ? 聖女サマよォ」

「き、貴様ぁ……」

 こいつらもうさっきからこれしか言ってないんじゃないか?

 だがそこでようやく聖女サマがなだめに入る……

「おめなさい、全てこの方の言う通りなのですから」

 そこまでは良かったが、どうも様子がおかしい。

 何か小声でブツブツと呟いている。

「そうです、全部わたくしが悪いのです。

 幾らチートで誤魔化してもボンクラはボンクラ……そう、今になって後悔してももう遅いのです……ブツブツ……」

「あー、まあ言っちまうとな……おっと、Cランク君はもう良いぜ。

 家に帰るんだろ? 後は俺らだけで話すわ。

 用もねえだろうしもうそのまんま帰っちまって良いぜ」

 そう言いながらSランクが俺の方を向き背後の裏門を親指でクイッと指す。

 そうか、ギルマスにも話を聞きたいところだが中に入ったら多分後で出れなくなっちまうから——

 ……ああ、そういえば……しかし、どうする?

 Sランクの言葉に甘えて俺は黙ってその場を後にした。

 騎士団連中からはさっさと出て行け、二度と関わるな、などという罵声を浴びたが、負け惜しみだと思うと全く気にはならなかった。


「じゃあな、頼んだぜ」

「“あの子”を笑顔にして下さった貴方を信じています。

 ですからどうかわたくしを信じて下さい……」

「けっ、腹黒女がよく言うぜ……っておい、出口はそっちじゃねえだろ!?」

「ふふ、あなたの思い通りにはならなかった様ですね……ふふふ。

 わたくしが大人しく見送るのですからな貴方も大人しくしていないと駄目ですよ?」

「ちっ、わーったよ」

「お願いしますよ。どうか」

「しくじんじゃねえぞー」

     『あ、聖女サマは     最期に説教な』  ボソッ

 ギルドの裏手に二人の声が折り重なる様に響いた。

 ……実は仲は良かったりするのか?



  ◆ ◆ ◆



 俺は裏手から出ずに中に戻った。

 そのままロビーへと向かう。

 そしてぎょっとする。


 静かだ。


 ロビーはもぬけの殻だった。

 俺はスタスタと歩き、奥へと向かった。


 誰もいない。

 受付も、他の職員も、そしてギルマスもだ。


 正面玄関から外に出る。

 正門には向かわず、裏手に回り訓練場を目指す。


 さっきまでいた訓練場に着いたが、そこには誰もいなかった。


 聖女サマが微笑みSランクが悔しそうにしていことから察するに、これが何らかの仕込みだったのは間違いない。


 咄嗟とっさに取った行動だったが——戻るか?

 いや、戻れる訳がない。

 ここまで来たらもう出るしかない。

 衝動的にこの選択をしてしまったこと自体、何かの呪詛じゅそによるものでなければ良いんだがな……



 そうして俺は一人、裏門を通ってギルドの外に出た。

 半日も経っていないというのに出るのは随分と久し振りの様に感じられる。


 ……しかし平和だな。

 外の風景は日常そのものだ。


 本当に十日後に戦端が開かれるのなら市民の避難とか武器食糧の徴収だとか、もっと臨戦態勢然とした物々しさがあって然るべきなんじゃないのか?

 アンデッド狩りが対策済みだ、と言っていたのはどういうことなのだろうか。

 Sランクから信用していると言われて鵜呑みにしてしまったが、こいつはもしかして早まったか?


 だが聖女サマの謎の多過ぎる行動、それに盲目的に付き従う重騎士と騎士団連中の存在も極めて怪しい。

 あそこまで冒険者ギルド……いや、俺にこだわる必要が一体どこにあるのか……

 Sランクにあおられて不利な立場になっても黙って引き下がることを選ぶ、あの聖女サマをしてその選択をさせる程のことなのだ。

 そこにどれだけ重大な秘密があるのだろうか。

 だが聖女サマは言っていた。

 “最期にあの子を笑顔にしてくれた”俺を無下に扱う様なことはしない、と。

 そんな聖女サマの話に耳を傾けなくて本当に良かったのか……?


 いや、分からないことなんぞ考えるだけ無駄というものだ。

 それに最後は聖女サマの意向を汲んでSランクの思惑を裏切るなどという行動を取ってしまったのだ。

 もう思う通りに動くしかない。

 俺はかぶりを振って頬を軽く叩き、気持ちを切り替えようとした。


 さて、どうする?

 言われた通りバカ正直に家に帰るか?

 いや、家の場所は割れている。

 のこのこと向かってしまえばまた強制的にどこかに連れて行かれるだけだろう。

 ことが収まるまでは家には近付かない様にするのが得策だ。


 しかし——

 しかしなぜか、あのコソ泥の餓鬼ガキが去り際に残したひと言が頭から離れない。

 いや、きっと関係ない。関係ないんだ。

 俺は再び頭をぶんぶんと左右に振る。

 あれは何の関係もないコソ泥が悔し紛れに残した捨て台詞なんだ。

 家には何もない。無関係に決まっている……


 渦中に置かれていることを認識していながら身も心もすくみきった俺は、何も行動を起こすことができなかった。

 幾ら忘れようとしても、どういう訳か頭の中で繰り返され続けるあのひと言——



  ◆ ◆ ◆



 本能で自宅に帰るのは無しだと察した俺は、まずは慎重に寝床を探そうと決めた。

 元より外での活動に備えて魔法袋に数週間分の蓄えは詰め込んでいるのだ。

 さて、情報屋を当たって幾つかあるアジトで世話になるか、街の外で野営するか……

 そうだ、家の監視も他の奴に頼んだ方が良いだろうな。

 怪しい侵入者やら聖女サマやらに目を付けられたんだ、悔しいが自宅は安全な場所じゃない。

 


 そう思い歩き出した俺だったが、程なくして周囲の異変に気付いた。

 考え事をしていなければギルドを出た瞬間に気付いただろう、それ程の違和感だ。

 戸惑う俺の目に映るのは王都とは似て非なる景色。

 道行く人の格好もよく見れば違和感がある。

 ここは王都……なのか?

 よく見れば確かに王都らしいのだが、見慣れない建物も随分とある。

 それに、そこにあるはずの建物がなかったり、建物があるはずの場所が空き地になっていたり……

 いや、遠くにそびえる王城の威容はいつもと変わらない。

 確かにここは王都なのだ。



『たすけて……』


 不審者よろしくキョロキョロとしながら歩いていると、不意にそんな声が聞こえた。


 気のせいか? いや——


 念のために辺りを探ると近場から怪しい気配がする。

 その気配の元を手繰たぐっていくと、とある狭い路地裏の袋小路に辿たどり着いた。


 ……人さらいか。

 見れば相手は三人。

 チンピラ風の一人が子供サイズの麻袋を抱えている。

 あとの二人はボロい装備をした剣闘士といった風体だ。


「おい」

「あ? 何だテメェは?」

「念のために確認なんだがその麻袋の中身はお前らがさらって来た子供だな?」

「チッ……やっちまえ、生かして帰すなァ!」

「うらァ!」

「死に晒せェ!」

 どうやら麻袋を抱えたチンピラがリーダー格だった様だ。

 そいつの合図と共に剣闘士っぽい二人が短剣グラディウスを抜いて切りかかって来た。

 しかしその動きはまるで素人、型も何もなっていない。

 あらかた、食い詰め者が明日の飯にすら困って遂に人身売買に手を出したってとこか。

 一人目が放った突きを半身でヒョイとかわし、短剣を持っている方の腕をガシっとホールドする。

「いでででで! いでぇぇ!」

「刺された訳でもないのに大げさに騒ぐな、やかましい」

 身動きの取れなくなった一人目の手から短剣をむしり取り、ホールドした方の肩をグイと引き寄せて二人目めがけて思い切りぶん投げた。

 当たり前のことだが、投げたのは短剣じゃなくて一人目の体だ。

 ドスッ!

「ぐぇっ」

「ぐえぇ」

 二人まとめて壁に叩きつけると揃って変な声を出しながら地面に倒れ、そのまま気絶した。

 本当に弱っちいな。ちゃんと飯食ってるのかね。

 二人があっという間にされる様を目の当たりにしたリーダー格が、慌てて逃げの体勢に入る。

 だがもう遅い。

 敵に背を向けて駆け出すとか本当に素人丸出しだ。

 俺は足元を狙って短剣を投擲とうてきして良い感じにすっ転ばせる。

 同時にダッシュして落下する麻袋を確保しつつ、二人目が取り落とした短剣に手を伸ばそうとするリーダー格を蹴り飛ばして壁に叩きつけた。

「ぐげっ」

 リーダー格も同じ様なうめき声を漏らしながら倒れた。


 まあ、いくら俺が雑魚だと言っても後れを取る様な相手ではないな。

 魔王軍の件もあっていつでも出かけられる様な万全の装備だったが、愛用の鋼の長剣を抜くこともなくあっさりとその場を制圧した。

 落ちていた短剣、それにリーダー格が持っていたダガーも取り上げ、持っていた登坂用の縄で三人まとめて縛っておく。


 さて……

 麻袋の紐を解いて子供を……

 子供?


「ピィ」


 中から出て来たのは子供は子供でも真っ白なドラゴンの子供だった。

 ありゃ、しかも真龍種ときたよ。

 えーと……これ親が出て来たら国家滅亡ものの事案だよな……


『あ、あの……おじさんが助けてくれたの?』

 ……ッ! 念話か!?

「ああ、怪我はないか」

 おじさん……という言葉に若干のダメージを受けながらも何とか応える。

『うん、大丈夫だよ、ありがとう』

「あのさ、君はどこかで誘拐されて来たんだろう?」

『え、えっとね、お友達と遊んでたらはぐれちゃったの。

 その子のお家まで行けたら大丈夫だと思うんだけど』

「まあひとり歩きしてたら目立つよな」

 子犬サイズならまだしも、幼稚園児位はあるからなぁ。

『それで悪い人に捕まっちゃったんだけど……』

 転移のスクロールは使っちまったし、どうしようかね。

 人間なら保護者……そうだ。

「そのお友達はどこに住んでるのかな?

 おじ……コホン、おじさんが君を抱っこして歩けば悪い人も手を出せないだろう」

 そう言って俺はちびっ子ドラゴンを抱える。

 今時のドラゴンはおじさんと若者の区別が付くのか、実はこの子の方が年上なんじゃないか、などど下らないことを考える余裕も出て来た。

『じゃあ案内するね。こっちだよ』

「良し……ってこの三人はどうするかね。

 ちょっと待ってな」

 縄を解いてやるか……まあ小物だし大丈夫だよな?

 まあ良いか、自警団に連れて行って逆に怪しまれたら面倒だし。

「おい」

 下っ端一人をゴスっと蹴飛ばして目覚めさせる。

「うげぇ……うーん……ん? ああっ!?」

 一人目がビビって大きく動いたせいで残りの二人も目を覚ました。

 いきなり縛られた状態だったためか混乱している様だ。

「お前ら、これに懲りたら二度と悪さなんぞするなよ。

 それと飯はちゃんと食え」

 三人の前にパンを一個ずつ置いてやる。

 勿論もちろん武器は返さんがな。


「良し、行くか」

 未だ戸惑う三人を尻目に俺はまた歩き出した。

 今度はドラゴンの子供のおまけ付きだ。


『あ、ちょっと待って』

「ん? 何だ?」

『あの袋の中に隠れてても良い?』

「うん? ああ、目立つからか……」


 確かに町中でドラゴンの子供とか悪目立ちするよな。

 という訳で当人の要望だしちょっとばかり我慢してもらった。


『こっちだよ』

 抱えた麻袋の中からちびドラゴンが俺の右腕をトントンと叩く。

 右折の合図だ。

 そんな感じで俺は案内に沿って街を進んで行く。

 ちなみに袋の中から道が分かったのは小さな穴を開けてそこから外の様子が見える様にしたからだ。

 真龍種だからといって凄い透視魔法が使えるとかそういうのは特に無かった。


 うん、分かっちゃいたがこれもこれで中々に目立つな。

 これ、俺が誘拐したと間違われなきゃ良いがなぁ。

 そうして三十分程でその“お友達”の家に無事到着した。


『ここだよ。おじさん、送ってくれてありがとう』

「ははは……」

 結構遠出してた……じゃなくて遠くまで連れて行かれてたのか。

 その場所はボロの家々が建ち並び、そして同じ様にボロをまとった人々が暮らす貧民街だった。

 ……はてな?

 王都に貧民街なんてあったか……

 詳しいことは知らないが、確か何代か前の王様が何か立派なひどいことをやって無くしたとか何とか……そう聞いているのだが。

 いや待てよ。

 この家、この場所、もしかして……

 いや、まさか……


「あら、お客様かしら」


 鼻が曲がりそうなゴミの臭いを我慢しつつ少しの間考えごとをしていると、中から一人の女性が姿を現した。

 そうだよな、場所と外観で俺の家か!? なんて一瞬戸惑ったが住人もいるし多分勘違いだろう。

 それにしてもこの人、いかにもさち薄そう……というか顔色がちょっと悪い。

 ちゃんと飯食えてんのかなぁ。

 この区画だけじゃなく、全般的に人々の生活の豊かさがちょっと低めに感じる。

 本当に王都なのか? ここは。

 そしてこの人、どこかで見た様な気が……?


 俺が少しの間考え事をしていると、ちびドラゴンが袋からにょきっと顔を出して答えた。

『えっと、あのね、迷子になっちゃって、このおじさんに送ってもらったの』

 良し良し、ちゃんと言えたか。

 何か親目線になってしまうな。

「あら、そうなのね。わたしの友人がお世話になったみたいで、ありがとうございます。

 お陰様で皆も助かりました」

 おお、何か思ってたのと違うな!?

「あの、“皆”というのは?」

「ああ、いえね……」

 などと疑問に思ったところで7、8歳くらいの元気そうな女の子が反対方向からトタトタと駆けて来た。

 ああ、友達ってこの子——

 見るなり、俺はぎょっとした。

 この子、病気か何かなのか!?

 いかん、ついジロジロと見てしまった。

 しかし女の子はそれを気にする素振そぶりも見せず、元気な声で話す。

「あ、探してたんだよ。どこ行ってたの?」

『ごめんね、でもこのおじさんが……』

「誘拐犯なのね!」

「い、いや違う、誤解だ!」

「こちらの方はこの子を送ってくださったのよ」

「えっ、そうなの? おじさん、ごめんね。

 あたしの早とちりだったよ。

 おじさんは良いおじさんだったんだね!

 ホントにごめんね、おじさん! 許してね、おじさん!」

 誤解が解けたのは嬉しいが、そうおじさんおじさんと連呼しなくても良いだろ……

「おじさん、どうしたの? おじさん?」

「あ、いや何でもない。

 誤解だってことが分かってもらえて何よりだよ」


 おじさんかぁ、ははは……


 一瞬ややこしいことになったかと思ったが、事の経緯いきさつを話すと意外と物分かり良くすんなりと信じてくれた。

 そして話の流れで俺はこの家にお邪魔させてもらうことになった。


 外観にたがわずいかにも貧乏、という感のある室内。

 そんな境遇でも突然の来客である俺を精一杯もてなそうとしてくれていることがひしひしと伝わって来る。

 その気持ちに対する嬉しさと、同時に感じる申し訳なさが態度に滲み出てしまっていたのだろう。

「あの、危ないところを助けて頂いたのですから、もてなす位はさせて頂けませんか」

 そんなことを言わせてしまった。

『服はボロでも心は錦なんだよぉー』

「こら、からかわないの!」

『えへへー』

「あはは……じゃあお言葉に甘えさせてもらうとするよ」

「ああ、良かったです。ご覧の通り何も無い狭い家ですがどうぞくつろいで行って下さいね」


 とはいえ、負担になってしまっては悪い気もするので、しばらく歓談したところでその場を辞することにした。


『ばいばい、また来てねー』

「今度来たときにまたボウケンシャのお話いっぱい聞かせてね。

 約束だよ!」

「ああ、またな」

「お急ぎのところをお引き止めしてしまい、申し訳ありませんでした」

「いや、久々に楽しい時を過ごせたよ」


 俺のその言葉に決して偽りはなかった。

 家族団欒かぞくだんらんなんて俺の記憶に残る日本でもそう無かったことだ。


 だがこの“家族”には何か秘密がありそうだ。

 それは話しているうちに何となく分かった。


 ちびっ子ドラゴンを含め、全員が見た目通りの歳ではなさそうだということ。

 そのドラゴンの“お友達”というのが“母親的な役割”の人だったということ。

 はっきりとは言わないが、どうやらその“お母さん”が三人の中で一番年下らしいということ。

 まあ実年齢が必ずしも見た目と一致しないというのはこの世界では割とよくあることだ。

 そして最後に現れた元気な女の子。

 天真爛漫てんしんらんまんで屈託のない笑顔は見た目相応のものに思えた。

 しかしその女の子には左腕が無く、着ていた服の袖は肩の付け根からぶらぶらとぶら下がっていた。

 それだけではない。

 その左眼は黒い眼帯アイパッチで隠されており、さらに右手には手首まで隠れる真っ黒な手袋。

 それらを話している間じゅうずっと付けたままにしていた。

 彼女らも初見からチラチラと見ていたこちらの視線には気付いていたのだろうが、見てみぬふりをしようとしているのを察してか特段の説明は無かった。


「またいらして下さいね」

「ええ、是非」

『約束だよ』

「またお話聞かせてね」

「ああ、またな」


 結局、そのことにはいちども触れることなく、無難な社交辞令だよなあと思いつつも再会の約束を交わしてその家を後にした。


 それにしても彼女たちは一体どういった関係性であの家に集ったのだろうか。

 赤の他人である筈の三人がひとつ屋根の下で寄り添って家族の様に暮らす——

 その理由を聞いてみようかと思ったが、野暮な真似は止めておくべきだろうと思い止まった。

 三人三様ではあったが皆、そっとしておいてほしい……そんなことを訴える様な目をしていたからだ。


 そしてもう一つ、彼女たちと話す中で信じられないことがあった。

 何と三人とも冒険者ギルド、そして冒険者という職業の存在を知らなかったのだ。

 おかげでCランク冒険者という職業を説明出来なくて無駄に四苦八苦してしまった。

 しかしそれも最初だけの話。

 三人共冒険者という職業に興味津々で、冒険者ギルドの制度やランクのシステムに関する説明を目を輝かせながら聞いてくれた。

 “お母さん”もその話に食いついて来たのはちょっと意外だったが。

 “お母さん”は話を聞いて何か思うところがあったのか、考え込む様な仕草をしていた。


 また会えるかどうかは分からないが、次に行くときは何かご馳走ちそうしてやるか。

 そうだ、聖龍様に振る舞った酸辣湯麺サンラータンメンが熱々のまま魔法袋にしまってあったな。

 うん、それが良い。そうしよう。

 あとはもっと冒険者の話か……そうだ、新人いびりがざまぁされる話なんかも良いかもな。



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