楽園

BlackMercury

第1話

無機質な灰色の空間で、ただ足を組み座っていた。

 俺の他にも、この待合室には何人もの患者がおのおのの体勢で座っていた。

 うつむいたままじっとしている女。うつろら目で空を見上げる者。奇声を発している者もいた。ここは俺の人生の終着駅だった。同級生が遊びや恋愛で青春を謳歌している間に必死に勉強し、やっと入った三流大学を精神病で中退。それからの転落は早かった。

 大好きだった本も、もう読めなくなった。医者の診断によると、読字障害とからしい。

 昔ならば、こんな退屈な時間は読書して時間を潰していたのだが、それももうできない。俺の人生から、幸せが一つ一つ、音もなく消えていく。

 やがて、受付の女が、感情のない声で俺の名を呼んだ。「山下さん、お入りください」

 俺はゆっくりと立ち上がると、うつむきながらとぼとぼと診察室へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る