青春の残響
〖第△△回夏の高校野球××県大会の予選がいよいよ始まります! 今日は二十四節気の一つである小暑ですが、もう大暑と言っても良いぐらいの天気ですね!〗
土曜日の昼下がり、バイトも講義も休みで暇を持て余していた僕はテレビを付けるとアナウンサーが喋り始めていた。その声にイラつきを覚え、直ぐにテレビを消した。
「また野球か……」
アナウンサーが悪い訳では無い。僕自身の問題なのだ。どうにも野球は嫌いだった。頑張っている選手には申し訳ないが好きになれない。それは僕の過去の経験に由来していた。
※※※
小学校一年の頃、近くの野球のスポーツ少年団に加入させられた。コーチと僕の祖父が友人関係で無理やり形での加入だった。
最初はとにかくいやでいやでしょうがなかった。小学校が終わってすぐに活動だったので、夕方から放送されていたアニメも見れないし、泥だらけになり、怪我も多いというのが嫌だった。
でも次第に上達したり、友達が出来てくると少しづつでも野球が好きになっていた。友達との練習や練習試合に出してもらえるなどして、野球の楽しさを感じていた。そんな中訪れた六年生最後の大会はベンチに入れず終わった。六年生最後だから出場させる、なんてことは無く、代打で試合に出ることなく終わった。フェンス陰の応援席で友人達が活躍する試合を見て、悔しさが沸々と湧き上がっていくのを感じていた。
六年生を送る会ではコーチからMVPみたいな感じで手書きの賞状を貰ったけれど、家に帰ってすぐにゴミ箱にぶち込んだ。それを手にしても悔しさが解消されることなく、惨めさだけが残っていたのだ。
中学生になると、活躍してやるという気持ちで、野球部に入った。朝練、夕練はもちろんやったし、自主錬も欠かしたことは無かった。打撃力が弱いと言われればバットを振り、送球が弱いと言われればシャドウピッチングを繰り返した。弱いところを指摘されなければ、筋トレをして筋力を増やした。両親は共働きで、夜勤もある仕事だったので、祖父母に手伝ってもらってとにかく自主錬をした。
それでも、僕が活躍することは出来なかった。3年間通して2軍の控えだった。最後の試合はお情けで出してもらったけれど、空振り三振で終わった。試合後は悔しさと虚しさが胸に残り、どうしようもなかった。
高校では野球部に入るつもりはなかった。高校はより才能がある人間が集まる。そんな中で、才能がない僕が活躍できる隙は何にもないのだ。
教室で日直の仕事をしていたときに、中学の先輩に引っ張られて無理やり野球部に加入させられた。先輩が来た時点で嫌な予感はしたのだ。先輩のいうことは絶対、と教育を受けてきた僕にとっては、先輩が来た時点で選択肢などなかったのだ。
僕の入った高校の野球部は特殊で、ベンチに入れない子にアイビーグリーンをベースにしたオリジナルのTシャツをくれる。左胸は校章で、背中には学校名と応援の文字がでかでかと踊った。
練習も気持ちもどん底だったけれど、最初の頃はそれが少し嬉しかった。来年は貰わないように頑張ろうと気合いも入った。だけれど、それが三枚溜まった頃、僕は退部届けを出した。小学校と同じで一枚増える度に惨めさが徐々に膨れていったのだ。
そこで僕は完全に野球が嫌いになった。努力をし続けての結果がこれで、もうどうしようもなかったのだ。
※※※
気がつくと、僕はテレビをつけて選手を応援していた。
「そこだ! いまだ! はしれ!」
無我夢中でーーーー。
夜まで試合中継は続いた。二試合目が始まり、三試合目が終わるまで僕はずっと応援し続けた。
試合が終わる頃には汗だくになり、声もガラガラだった。疲労困憊だった。その疲労困憊に僕は気づいてしまった。
野球は嫌いだ。それでも、僕はやはりどうしようもなく好きだ、ということにーーーー。
END
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます