23 飛べ!ぼくらの校長先生!③

 三鉄百貨店。

 三重駅直近にある三山鉄道グループが経営する大型百貨店。

 地上7階建てで最上階には小さな遊園地も有する……まぁ、普通の百貨店だ。

 それでも昔は一姫かずひめ山を貫く長いトンネルを抜ければすぐに隣の市という好立地を活かし、近隣から客を呼び込んでかなりの賑わいを見せていたらしい。

 最盛期にはいくつも競合店が立ち並んでいたのだが、時代と共に一つまた一つと減っていき、今では三鉄百貨店が辛うじて残るのみとなった。

 そのため、この辺りでは三鉄百貨店が一番高い建物であるといえるだろう。

 そんな百貨店の中に、俺は今いるのだった。

 



2020年6月2日21時18分 三鉄百貨店入口



 あのあと俺たちは三つのグループに分かれた。

 まずは、街中の三葉虫を排除しつつトンネルへ向かう崇たちのグループ。

 つぎに、ウニの対策を考えるイインチョたちのグループ。

 さいごに、百貨店を攻略する俺たちのグループだ。


 「大丈夫かな?ナマコほどじゃないにしても、三葉虫はかなり硬かったろ?」

 「細い一本道でなければ、いくらでもやりようはあろう」

 「まぁ、それもそうか」

 「……しっかし、本当にいるのかぁ?」

 「深読みのしすぎやブラフである可能性もあるが、試さぬわけにもいかんだろう?」

 「それもそうだな。ぼやぼやしてると爆破されかねないし行くか」

 

 俺たちが百貨店に来たのは理由がある。

 三鉄デパートのマスコットキャラクターであるミッツェルを探しに来たのだ。


 ウニは何故か三鉄百貨店のCMを流している。

 そして、ミッツェルに会いに来てね、のフレーズでナマコを投下するのだ。

 いや、確証はない。

 ないのだが……何かしらの意味があるのではないかと思ってしまう。

 

 そんなことを考えながら、百貨店の入り口を切り裂き、蹴破って侵入する。


 ジャリジャリとガラスを踏み砕きながら、エントランスを見渡す。


 エントランスにはそれなりの人数の木人がおり、意外にも賑わっていることに少し驚く。


 年齢層の幅も広く、でっぷりとしたマダムと荷物持ちの男性。

 頭を下げる店員を見下す意地の悪そうな爺さんと、慌てふためく婆さん。

 高校生らしきカップルに、大学生らしき若い男女の集団。

 4人組の親子連れは、子供の一人が父親に肩車され、もう一人は手を繋いでもらいながら、もう片方の手で猫の着ぐるみから風船をもらっている。

 

 ……猫の着ぐるみ?

 猫の着ぐるみはこちらに気づいたのか、ぐるりと首を回転させる。


 「いた!!」

 そう叫びながら駆け寄る。


 だが、猫の着ぐるみは持っていた風船を頭上へ掲げると、ふわりと身体を浮き上がらせた。

 そして、そのまま吹き抜けを抜けて、上の階へと消えてしまう。


 「追うぞ!!」

 「おぅ!!」


 中央にかかったエスカレーターを、木人たちを避けながら駆け上がる。

 そして、2階を飛び越え、3階へ行こうとするが目の前の壁にぶつかる。

 

 「何止まってんだよ!!」

 サスケの背中にぶつかったのだ。


 「いや……あれ」

 その太く短い人差し指が示す先を見れば、高そうな服を着たマネキンたちがファッションショーをしていた。

 

 いや、比喩ではない。

 文字通り鏡の前で胸元に服を宛がい、ファッションショーをしていたのだ。


 そして、ピタリと動きが止まると、ぐるりと首を回転させる。


 「……あぁ、なるほど。そういう感じね」

 腕を振り乱しながら駆け寄ってくるマネキンに向け、卒業証書の筒を引き抜くのだった。




2020年6月2日21時54分 三鉄百貨店 4F紳士服売り場



 「やっと捕まえた!!」

 股の下で暴れる着ぐるみを組み敷く。

 着ぐるみは物凄い力で反抗するが、こちらも全身を使って押さえつける。


 「サスケ!今のうちに!」

 「おぅ!」

 サスケが着ぐるみの頭を蹴り飛ばせば、穴から顔を覗かせたのはつぶらな瞳のザリガニ……いや、ヤドカリだった。

 そのまま、サスケは両手でゴルフクラブを真下に振り抜く。

 床まで切り裂いた渾身の一撃は、ヤドカリを真っ二つにし、生暖かい青い血を周囲に飛び散らせた。


 それを確認してからゆっくりと立ち上がる。

 「はぁはぁ……これで最後だよな?」

 「あぁ、そのはず」


 「爆撃とまったよ!!」

 エスカレーターを駆け下りてきたイインチョがそう伝えてくる。


 「ふむ、これで一件は落着だな」

 「そのまま一件落着したいところだな」


 「市街地の三葉虫も全部倒した。とりあえずは追加もないはずだ」

 ちょうどいいタイミングでエスカレーターを上がってきた崇たち。

 「おぉ!ということは、トンネルも無事終わったのか」

 

 「それが……少し困ったことになってな」

 どうにも歯切れ悪そうに告げる崇。

 「困ったこと?」

 「いや、爆撃が山に当たってな。土砂崩れで入口が埋まっちまったんだよ」

 「……はぁ!?」

 「あれ?じゃあ三葉虫は」

 「中にまだいるはずだ」


 「ふむ……たしかにそれなら追加はないな」

 「でも、これどうすんだよ!!」

 「すまねぇ!」

 「ごめん、崇を責めてるわけじゃないんだ。こっちこそもうちょっと早くヤドカリを倒せていれば……」

 「何、手がないわけではない。長いトンネルには緊急脱出用の道が用意されている」

 「なるほど、そこから入ればいいのか」

 「あぁ。だが、出てこないのであれば、ウニの対処が先決だろう」

 そう言うと、そのままエスカレーターを上っていくケイト。

 それもそうかと思い、俺たちもそれに続くのだった。


 そして、屋上へ出た時に俺たちが目ににしたのは……。


 「愚図が!死ね!」

 「いっつもいっつも臭ぇんだよ!てか、近づいてくんな!」

 「……えっと、目つきが気持ち悪いです」

 誰かを囲み、罵詈雑言を浴びせる女子たちの姿だった。

 そして、罵倒を受けていたのは……糸出さんだった。


 ……え?ナニコレ?




2020年6月2日22時1分 三鉄百貨店 屋上



 上空には相変わらず浮遊を続けるウニ。

 だが、その動きは止まり、音楽やCMも止んでいた。

 ヤドカリを倒したら立ち去ることを若干期待していたのだが、やはり何かしらの方法で討伐する必要があるようだ。


 そして、三鉄デパートの屋上では、どういうわけか糸出さんが女子たちに囲まれ、罵詈雑言を浴びせられていた。


 「えっ、ちょっと何やってんの!?」

 慌てて駆け寄れば、糸出さんは悲しみの表情を浮かべる……ことなく、難し気な表情をしていた。

 

 「……全然駄目。もっと激しく罵って」

 そして告げられたのは、まさかの駄目出し!

 

 えっ……?コレ合意の上なの?

 つまり、糸出さんってもしかして……。

 そもそも、敵を前にして何してんの!?


 そんなことを訝しながらじっと見つめていると、ふいに糸出さんと目があった気がした。

 数秒固まった後に、徐々に顔を真っ赤に染める糸出さん。


 「あっ……あの……ちが……これは……」

 そして、どもり始め、両手の親指と人差し指をこね合わせる。

 

 「糸出嬢!何をする!」

 後ろを振り向けば、ケイトがやってくるところだった……クマの人形に抱えられて。

 そして、俺の前にボトリと落とされるケイト。


 不機嫌そうに落ちた眼鏡をかけ直すケイトを、糸出さんがじっと睨む。

 「ふむ……説明しろと?よかろう、オレが百々たちに頼んだのだ」

 「……えっ?何で?」

 「分からぬか?あれを見よ」

 そう言ってケイトが指さす方を見れば、上空に浮かぶ豆粒のような何か。


 「あれは……校長の銅像?」

 目を凝らして見れば、浮かんでいるのは校長の銅像だった。


 「そうだ。だが、校長の銅像をもってしてもウニへは届かぬ。だから、悪口を叩きこんで飛距離を伸ばしてもらっていたのだ」

 あ……そういうことか。

 糸出さんじゃなくて校長への悪口か。

 何事かと思ったよ。


 そして……そういう話であるのなら。


 「俺もやりたい!」

 「いや……遊びではないのだが?それに、貴様には無理だと思うぞ」

 「いやいや、俺ほどアレを嫌っている奴は中々いないぜ?何せ3年間辛酸を嘗めさせられまくったしね。まぁ、見てみなよ……」


 「期待はせず待っておこう」

 「ばーか、デーブ……ナルシスト」

 「……」

 「……」


 「貴様は引っ込んでいろ」

 「うん」

 言われた通り、大人しく引き下がる。

 いや、いざ悪口言おうと思っても難しいね。


 そこから再開される大悪口大会。

 「デブ!ハゲ!タヌキ」

 「話長い上につまらない!」

 「七光りの無能!」

 「その……いつもいつもねっとりと嘗め回すようにお尻を見てくるの止めてください!」

 まるで立て板に水のように、皆の口からすらすらと出てくる悪口の数々。

 どれだけ嫌われていたのかがよく分かるね。

 だが、一向に飛距離が伸びる気配はない。

 新鮮味がないのだろうか?


 「ロリコン!パパ活とかしてそう」

 「なんか家に虎の敷物とかしてそう!」

 「絶対母親のことママって呼んでる」

 悪口は段々と言いがかりや、根も葉もないものへと変わっていく。


 「校長は男色家で、生意気な男子学生が悔しい思いをしながら唇を噛み、でも権力に屈して頭を下げるのを眺めるのが趣味。書かせた反省文と顔写真を一緒にファイリングして、年ごとに並べてある」

 早口で捲くし立てる樋本君。


 「おぉっ!」

 校長が若干外側へ動いたことによって、歓声があがる。

 樋本君は誇らしげだ。

 「そうか!ただの悪口じゃ駄目なんだ!エピソード!エピソードだ!」

 誰かが叫ぶ。

 自然と悪口大会は、大喜利のような様相へと移り変わっていく。

 だが、奇をてらいすぎなのか、嘘なのが分かりきっているからか、銅像は進まない。


 「脇崎君、ちょっと協力してもらってもいい?」

 そんな中、イインチョが俺の元へやってくる。

 「協力?俺に出来ることなら勿論」

 「わかった、ありがと」

 そう言うと、すぅっと息を吸い込む。


 「皆聞いて?一年の冬に脇崎君が校長先生に呼び出されたんだけどね、こじつけみたいな酷い理由で罰を与えられたの」

 「そんなこともあったね」

 たしかにあれはこじつけもいいとこの酷い理由だった。

 まぁ、あそこで俺が従わなかったら、アキラや生徒会に迷惑がかかってただろうし、断腸の思いで要請を引き受けたのだ。でも、よく知ってるなイインチョ。


 「それで言い渡された3週間の間、嫌々ながらもその……奉仕……したんだよね?」

 「うん、まぁ」

 そう、3週間の間、便所掃除とか草抜きとかの奉仕活動をさせられた。

 

 「辛かったよね?」

 「まぁ」

 冬だから寒かったのを覚えている。

 でも、イインチョには悪いが、今更こんな悪事ごときで、動くかなぁ?


 「おぉっ!」

 響き渡る歓声。どうやら銅像が動いたようだ。

 俺のために憤慨ふんがいしてくれたのか。糸出さんいい人だな。

 いや、実際にあったことだからイメージが湧きやすいだけか?


 「放課後校長室に呼び出されて、日が暮れても帰してもらえなかったり」

 反省文を書くのに抵抗したからね。


 「体育倉庫へ連れ込まれて、足腰立たなくなるまで酷使させられたり」

 なんか購入物品を運ばされたね。


 「人気のない校舎裏に連れていかれて、校長先生が満足するまでぬいたり」

 草抜きもかなりやらされたな。

 しかも、後ろでずっとニタニタしながら眺めているのだ。暇なのだろうか?


 てか、イインチョ詳しすぎない?

 何でそんなに知ってるの?どこかで見てた?

 そんで、イインチョ……なんか興奮してない?

 どうして俺が嫌がらせを受ける話を、そんな嬉しそうに語ってるの?

 今まで見たことないくらい、流暢に話すじゃん。

 おめめキラキラじゃん。


 あれ?もしかして、俺……嫌われてる?


 いや、あれか。

 順調に校長の銅像が飛距離を伸ばしてるもんね。

 どんどんウニに近づいてるもんね。

 上手くいってるのが楽しんだよね?きっと。


 その後も続く、イインチョの独白。

 ネタが豊富なのか、失速する気配はない。

 むしろ、なぜそれを知っているのかという恐怖がこみ上げてくる。


 だが、そのおかげもあり、ウニへと迫る校長の銅像。

 「「「いっけー!」」」

 俺を除いた皆の声が一つになる。


 いや、まぁ俺も乗るべきか。

 こんなことを言うのも癪だが、今だけは言おう。


 飛べ!ぼくらの校長先生!


 そして、ついに校長の銅像がウニへと接近したその時……。


 ウニは逃げるように移動を開始した。



 「おい!行っちまったぞ!」

 「大丈夫、まだ二年の夏だから」

 「脇崎、校長と絡み過ぎだろ」

 「いや、あっちが絡んでくんだよ!誰が好き好んであんなヤツと関わるかって」

 「……おっと、危ない危ない」

 「でも実際問題、再度近づいたところで、また逃げられてしまうのではないでしょうか?」

 「だけど、ほかに手なんて……」

 「いや、考えはある」

 ケイトの一言に視線が集中する。


 「何かいい手があるのか?」

 「あぁ、ヤツがああいった挙動をするのであればな。それにうまくいけば三葉虫も一網打尽に出来るかもしれん」

 「おぉ!そんないい手が?」

 「うまくいけばだがな。なに……敵が雲の高さにいるのであれば、雲まで届く刀を用意すればいいだけの話だ」

 「いやいや、そんな巨大な刀なんてないだろ?」

 「ふっ……都合よくあるではないか。では、糸出嬢、今から言う通りに銅像を移動させてもらえるだろうか?その後は他のメンバーと共に避難。そして、今から言う人員は一緒に来てくれ」

 そう言うとケイトは俺を含めた何人かのメンバーの名を呼ぶのだった。




2020年6月2日22時25分 一姫トンネル前



 「まさに人間重機だな」

 満足そうに頷くケイト。

 トンネルの前にはスロープのような斜面が出来上がっており、天辺では涼介がショベルカーのバケットを振りかざして土砂を掘削し、どんどんと下へ落としている。

 下では崇が落ちてきた土砂がきれいな斜面になるように均していた。


 やがて奥から排気音が聞こえ始める。

 「うん……もうあと5cm右上……そこ!」

 そして、メンバーの一人の指示で、サスケが鉄パイプを突き刺す。

 それを涼介が力任せに奥へと差し込めば、気持ちの良い音と共に根本近くまで埋まった。


 「手ごたえからして貫通したっぽかったぜ」

 「ふむ……重畳ちょうじょう。では、ジンスケ。これを」 

 渡されたのはコルク栓だった。

 スロープを上ってそれを鉄パイプの穴に宛がえば、ピタリと嵌る。


 一呼吸し、トンネルの直線状の上空へと移動させられたウニを睨む。



 何をしているのかって?

 鞘を作ったのだ。

 そう、これこそがケイトが言っていた、雲まで届く刀……一姫トンネルだ。

 トンネルの長さなど詳しくは知らないが、3.33倍すれば余裕で雲まで届くことだろう。

  

 しかし、相変わらずとんでもないことを考える。

 だが、果たしてうまくいくのだろうか?

 入口は土砂で塞がれているが出口は塞がれていないため密閉されてないし、土砂のスロープのせいで円筒形じゃなくなっている。

 果たしてそれで発動するのだろうか?


 いや、駄目だったらほかの手を考えればよいだろう。


 「準備はいいか?」

 だいぶ離れた位置からケイトが叫ぶ。

 「あぁ」

 腰を落とし、ふっと目を瞑る。


 「瞬きする間に終わるこの喜劇はブリンキングやがて名作として眼裏に投影されるシアター

 「イマジナリーイアイ

 お互いにそう叫べば、拡張能力を発動する。


 斜面に映し出されたのは満点の夜空。

 そして、細心の注意を払いながらも勢いよくコルク栓を縦に振り抜く。


 訪れたのは、一瞬の静寂。


 「どうだ!?」

 目を開け、上空を見る。


 果たして結果は……


 変わらず宙に浮かぶウニ。

 やはり駄目か……。


 そう思った瞬間……


“ピシリ”

 何かが割れる音と共に、ウニが真っ二つにズレ始めた。


 「おぉ!まさかこれは!」

 「ボヤボヤするな!崩壊するぞ!」

 ケイトの警告でハッとなり、コルクを捨てて転がるようにスロープを駆け下りる。


 直後、凄まじい音と共に世界が揺れた。


 立ち上る土煙。


 恐る恐る後ろを振り返れば、トンネルが……いや、山が無残にも崩壊していた。


 そう、これは俺の能力のせいだ。

 ⅲは発動後33フレームで刃が消失し、その後3秒以内に鞘に蓋をしなければ、蓋と鞘が消滅する。

 それによって、はじけ飛んだコルクとトンネル。

 崩れる一姫山。

 哀れ、三葉虫たちは生き埋めになったというわけだ。

 能力のデメリットを攻撃に転用するとは……毎度コイツの発想力には驚かされる。

 

 「作戦成功のようだな」

 そう言いながらケイトが近づいてくる。

 スマホを覗き込んでいるが、その表情は明るい。

 この反応なら三葉虫も全滅したのだろう。


 「あぁ、今回も無事に生き残れた」

 「おや……ふむ」

 「どうした?」

 「いや、今百々からマップが送られてきたのだがな……良い知らせと悪い知らせどちらから聞きたい?」


 「……悪い知らせで」


 「良い知らせはバリアが解除されたようだ」


 「……オイ。で、悪い知らせは?」


 「ウニの死体をマーカーしてもらったのだが、落ちた場所がな……」

 なんとも言えぬ顔をしたケイトの脇からスマホを覗き込めば……。


 そこにはVERGAの文字。


 「ベルガ……何だっけ?どこかで聞いたような……あっ、思い出した」

 「あぁ、やってしまったな。江口が言っていた店だ」

 「おい!これじゃ探すの大変だぞ」

 そう言いながら店の方を見れば、燃え盛る街と立ち上る黒煙。


 「あ~……これはもしかしなくても」

 「まぁ、ナマコを格納していたからな。当然の帰結だろう」

 「こりゃまたの機会だな」

 「あぁ。今回は予鈴まで時間もないし、バイクでも拾って帰るぞ」

 「了解」


 

 「しっかし、こんなことなら先に回収しておけばよかったな」

 「あの爆撃の中、それをする勇気がある者はいなかろう?」

 「それもそっか」

 「だが、江口の要求に応える別プランを用意した」

 「へぇ……!いつの間に」

 「来たぞ、あれが別プランだ」

 ケイトが指さした先を見て固まる。


 なぜならそこにいたのは……ミッツェルだった。

 反射的に筒を抜きそうになるが、直前で思いとどまる。


 「もしかして……糸出さん?」


 ミッツェルはこくりと頷く。

 止めていた息を吐き出し、筒から手を離す。


 「使役したんだ。うん、よく見ると可愛いね」

 そう言いながらミッツェルを撫でれば、頭を擦り付けてくる。


 「気に入ってくれたようで何よりだ」

 「……?そういや、なんでこれが別プランなんだ?」

 何気なくケイトの顔を見た瞬間、全身を悪寒が襲う。

 コイツがこういう顔をしているときは、大抵ロクでもないことを考えている時なのだ。


 「え……ちょっ、お前何考えて」

 「糸出嬢との契約でな。貴様が気にすることはない」

 「いやいや、気になるって」

 「なに、少しばかり手を貸してくれればよいのだ。指示通りに動くだけで、貴様は何も考える必要はない。それに貴様にも益のある話だ」

 「いやいや、余計怪しいんだけど?」

 「糸出嬢が言うには、とある条件を満たせば、二宮金次郎像の件もミミちゃん人形の件も、この着ぐるみでチャ」

 ミッツェルの体当たりを食らい吹っ飛ぶケイト。

 ミッツェルはケイトを担いだまま、元の道へと帰っていく。


 とんでもなく嫌な予感がする。

 そして、その予感はすぐに的中するのだった。

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