碧眼と失われた煌槍のノスタルジア

レイノクニ

第1話 "魔を狩りし者達"



一、


ここは王都より北東のとある森。


草木が生い茂る森で黒髪の男が軽やかに木から木へと飛び移っていく。


彼の手には、鞘から刃まで真っ青な剣が握られていた。

彼は一際高い位置にある枝に飛び移ると、その手に握る剣と同じ青い瞳を凝らす。

彼の碧眼に映るそれは、五体の化け物だった。


彼から逃げ惑うその化け物たちは、細い人間のような容姿をしているが、その皮膚の色は深い緑色をしている。


一体が横目でこちらをちらりと見た。

奴らの鼻は高く耳は大きく上に吊り上がっている。

あの化け物は、ゴブリン…そう名称がつけられている。


「一体が左にずれた。」

黒髪の男がつぶやいた。


さっき振り返った一体のゴブリンが他の四体とは違う方向に逃げたのを彼は見逃さなかった。


「追えるか?」

黒髪の男がそう横目で発言すると、彼がいるわずかに後ろから素早く地面を蹴る足音が聞こえる。

「お任せ」

そう聞こえたかと思うと、黒髪の男が立っている大木の横を茶髪の男が通り過ぎていく。


茶髪の男は、緑色のコートを翻し、まるで忍者のような走り方で左に逃げたゴブリンを追う。

一体のゴブリンの前方には、大きな崖が立ちふさがっていた。

茶髪の男は、そのまま高く飛び上がる。

慌てて逃げ場を探そうとするゴブリンを、飛び上がった茶髪の男の足が捕らえる。


そのまま茶髪の男は、ゴブリンの頭に軽やかな足蹴りを食らわせる。

ゴブリンの体はいとも簡単に吹き飛び、その場に倒れこんだ。


茶髪の男が一体のゴブリンを追っている間に、黒髪の男は他のゴブリン達を追う。


逃げるゴブリンを一体倒したところで、とうとう行き止まりへとたどり着いた。

その場にいるゴブリン達は、こちらを振り返り臨戦態勢を男へと向ける。


黒髪の男は、静かに剣を構えると「さて…」と息を整えた。


「鬼ごっこは、お終いだ。」


男がそういうと思い切り地面を蹴り、空中からその青い剣を思いっきり振りかざす。

一瞬の出来事にゴブリンたちは男を見失う。

その瞬間、男は一体のゴブリンを剣で貫き、もう一体のゴブリンの首を狙って刃を振った。

ゴブリン達は驚いた表情のまま、動かなくなった。


黒髪の男は殺したゴブリンたちを一か所に集め、剣を肩に担いだ。


「これで三匹…」


男は静かに息を整え、思考を巡らせる。

「一匹はクレアが追った。となると残りの一匹は…」






「ようやく追いついた…」


一体のゴブリンと対峙している金髪の少女の手には長く立派な槍が握られている。

彼女の瞳には一体のゴブリンだけが映っていた。


彼女は殺気に満ちた瞳と槍をゴブリンに向けて構える。

「もう逃がさない」

その声が響くと同時に刃がまっすぐゴブリンに向かって放たれた。


二、


ここは王都より少し東に位置している平原。

そこは化け物も比較的少ない土地だ。

黒髪の男は毎朝の習慣としている散歩に出かけていた。

やわらかい日の光に照らされ、いつもなら邪魔だと感じる雑草すら生き生きと生命の緑を輝かせている。


ふと平原に立つ木の影を通り過ぎた。

いつもならそこで少し休憩するのだが、今日に限っては違った。

そこには少女がうつ伏せで倒れていた。


手には立派な槍が握られているが、衣服は少し汚れている。

体には大きな傷もないし、大方衰弱して倒れたんだろう。

金髪の髪がわずかに揺れる。

まだ息はあるようだ。


「…」


黒髪の男は無言でその場を立ち去ろうとした。


この少女とは、関わらない方がいい。


ガシッ


少女の横を通り過ぎようとした時だった。

少女の手が男の足首をがっしりと握っている。


「足、離して」


黒髪の男は静かに足元の少女に声をかける。

少女はうつ伏せのまま、男の足首から手を離さない。

「……見捨てるの?」


「いや、いつもなら助けるところなんですけどね。

なんというか、今回のは関わらない方がいい気がしましてですね。」


男は瞬時に早口で答えた。


「こういう時の勘って当たるんですよ。」


男がそういうと、少女は先ほどまで倒れていたのが嘘のように立ち上がった。


「ちょっとそれどういう意味よ。

動けなくなってる人間をほっとくなんてあんた正気?」


「いや、めっちゃ動けてますやん。」


男がそう突っ込むと、少女は顔をムッとしかめて、つかつかと歩み寄ってくる。


「困ってる人間を助けるのは常識でしょ!それをしないなんて人として終わってるわ!この人でなし!」


少女は声を荒げ、男に対して暴言を吐く。


「そこまで言うか」


男は、大きくため息をついた。

スルーしようとしていたのは事実だが、少女も倒れるくらい危機的な状況だ。

ここは腹を括ろう。


「わかった。困りごとがあるなら手を貸す。」


男がそういうと少女の瞳は一瞬で輝く。


「ほんと!?」


少女はうれしそうな声を上げた後、「あ、じゃなくて」とハッとしたように首を振った。


「最初からそうすればいいのよ。

まったく、もう少し良識を持ちなさい。」


彼女は腕を組んで、フンッと偉そうにそっぽを向く。


折角助けてやるというのにこの態度だ。

男は、「前言撤回」というと少女から反対の方向を向いた。


「その良識ある人間が来るまで寝てろ。」


「あ!!ええ!?」

少女はその言葉に男の方を見るとすでに男はそのまま歩いて行っている。


「ごめんなさい!!調子に乗ったことは謝るから!!

ここ全然人が通らないから、つい舞い上がっちゃっただけなの!

お願い置いてかないで!一人にしないでよぉ!」


彼女の必死の声に男は振り向きもせずに歩く。

少し歩いたところで後ろから大きな音がした。

思わず男が振り返ると、少女がその場でまた倒れてしまっている。


男は、また少女の元に戻り、「今度はどうした」と、聞くと少女は最後の力をふり絞ったような声を漏らす。


「お…」


「お?」


「お腹…すいた…昨日から…何も食べてない…」


彼女はその言葉と大きなお腹の音とともに意識を手放した。



三、


「えーと…」


門の前で茶髪の男が困った顔をした。

彼の前には黒髪の男が、見るからに弱った少女を背負ってやってきたからだ。

茶髪の男はおもむろに電話を取り出す。


「もしもしポリスメーン!誘拐ですぅ!!」


「違う。あとポリスメンってなんだ。」


黒髪の男はやや食い気味に茶髪の男に突っ込んだ。



太陽が頂上近くになった、午前11時。

少女は日陰になっている庭で、目の前に出された食べ物に貪りついている。

そんな彼女の前には茶髪の男が座り、少女は食べながら黒髪の男が助けてくれた話をする。


「うんうん、なるほどねー。そんなことがあったのか。」


茶髪の男はその話を一通り聞くと、彼女の食べっぷりを見ながら、頷く。


「それにしても、余程お腹がすいていたんだね。

すごい勢いで食べてる。まあ、食欲があるのはいいことだけど。」

茶髪の男はニコニコとしながら少女のことを眺めている。


「ところで、この料理ってあいつが作ったの?」


「ん?あいつって君を連れてきた?」


少女が頷くと、「そうだよ。」と茶髪の男は答える。


彼女に出されたチキンやサラダが乗ったプレートはまるでレストランのような盛り付けで、どれもおいしい。


「あ、想像以上に美味しかった?」

茶髪の男がニコニコとした笑顔で聞く。


「…別に?普通だけど」

少女は、口に料理を運びながら、「普通過ぎてつまらないくらいよ。」と、つづけた。


その言葉とは裏腹にどんどん皿の上の食べ物は無くなっていく。


「素直じゃないねー」


そう茶髪の男が笑ったところで、勝手口から黒髪の男が大きなアップルパイを皿にのせて運んできた。

辺りには一瞬でアップルパイの香ばしい香りが広がっている。


「貰い物のリンゴが有り余ってたからアップルパイを焼いたんだが、食べるか?」


黒髪の男がそういうと少女は振り返り、「パイ!?」と目を輝かせながら答える。


茶髪の男も子供みたいに「食べる食べるー!」と、両手をブンブン振り回しながら答えた。


その様子を見て、黒髪の男はニヤリと笑い、「言っておくが、無理に食べる必要はないぞ?」と、少女の方を見た。


少女は予想もしなかったその回答に「ふえ!?」と、目を丸くする。


「素人が作った『普通』のパイだ。味は『普通』、見た目も『普通』。

さぞかし舌が肥えているであろう君じゃあ食べるのも苦痛だろう。」


笑顔で話してはいるが、黒髪の男の声にはやや怒りが混じっているようにも感じる。

その声を聞くや否や、「え、ちょっ、さっきの聞いて…!」と、少女はとっさに立ち上がった。


「じゃなくて、あ、あれは…」


「食べたいか?」


「食べたいです!」


「で、俺の料理は?」


「美味しい!美味しいです!」


と、黒髪の男にあーだこーだ言われ、必死に弁解する少女はまるでお説教されている子供のようだ。


男に言われはじめて美味しいという少女を茶髪の男は(素直じゃないなぁ…)と、呆れた顔で眺めていた。


アップルパイを食べ終わった後に、茶髪の男がコホンと咳払いをした。


「改めて、自己紹介を。僕はクレア。」

茶髪の男は胸に手を当て、笑顔で答える。


「そこでなぜか不機嫌そうにしてるのがシドウ。」

そういいながら、クレアは黒髪の男に目線を送る。


「それで君は?」

クレアが少女にそう聞くと少女は、「…ルミナよ。」と、少し間をおいて答えた。


「じゃあルミナ、君はどうしてこんなところに?」


「えーっと、何ていうか…」

少女は少し口ごもる。


「昨日野草を採りに行ってたんだけど、そこで運よく、取引額が高いハルナナカマドを見つけたの。

結構沢山あって、これでしばらくお金に困らないかなって思ってたら、

その場所、どうやらキングボアの縄張りだったみたいで…」


キングボアは、でかい牙を持ったイノシシ型の巨大モンスターだ。

確かに少女一人で討伐するのはかなり大変だろう。


シドウとクレアは、何も言わず彼女の話を聞く。


「その後も、半日かけて何とか逃げ切ったと思ったら、全然知らない場所に出ちゃうし…

そこからさらに半日かけて道を聞こうと集落を探したけど、村どころか人っ子一人もいないし…」


ルミナはそこまで話すと軽くため息をついた。


「最後には疲労と空腹で力尽きたってわけ。」

ルミナは諦めたような顔でまた大きくため息をついた。


「まあ、そういうわけで助かったから感謝してるわ。なにかお礼をしたいところなんだけど…」


そう続けたが、彼女にはもちろん所持金なんてものはあまりない。

少し申し訳なさそうなルミナを見て、クレアは、


「いやいや、そんなの気にしなくていいよ。」と、笑顔で返した。


「困ってる人間を助けるのは常識、でしょ?」


「うーん…そう…なんだけど」

ルミナはどこか困ったような顔をして机に突っ伏した。


「流石に借りを作りっぱなしっていうのも…」


そういってルミナは思考を巡らした。


数秒間たった後に「ねえ、ずっと気になってたんだけど…あなた達って、何者?」と、クレアとシドウに問いかけた。


「さっき言った通り、ここって人里からかなり離れているわよね。

この家だって、普通の庶民が住めるような所じゃない。

それこそ貴族の別荘並みだわ。」


ルミナは家の屋根を見上げた。

三階建ての立派なお屋敷で、正面には石レンガで出来た門と今ルミナたちのいる庭までついている。

いくら自立しているとは言え、男性二人が住むにしてはかなり広くて豪華だ。


「まさかとは思うけど、あなた達ってお尋ね者で、

私を助けたのも、下心があったからってわけじゃないわよね?」


ルミナはシドウとクレアに対して、少し警戒するような視線を向ける。


その発言にクレアは戸惑っている様子だったが、「自意識過剰だ。」シドウはルミナのその言葉を一刀両断した。


「心配せずとも、お前みたいなガキに興味はない。」


シドウがそう答えるとルミナは、顔をカッと赤くして、

「私は子供じゃないし!もう17だし!あと初対面なのにお前って何よ!それにさっきから妙に言葉がとげとげしいし!」

と声を荒げた。


「二人とも落ち着いて…」

それを聞いていたクレアが仲裁に入る。


クレアはふーっと息を吐き、

「えーっと、僕らはここで便利屋みたいなことをしているんだよ。」

と、答えた。


「便利屋?それってどんなことをするの?」

便利屋という職業にあまり馴染みがなかったのか、ルミナはクレアに聞き返す。


「基本的に制限はないよ。道端の草むしりから荒事まで、依頼されればなんでも引き受ける。

さすがに悪事目的の依頼は断るけど…

まあこの僻地に住んでるのは、単純に都会の喧騒から離れたいってだけ。」

そうクレアが説明すると、ルミナは手をグッと握りしめた。


「…ねえ、今何でも引き受けるって言ったわよね。」


「うん」


「それってつまり…魔物に関する依頼も…?」


ルミナは声を落ち着けてクレアに聞く。


クレアはそれに対して笑顔で「受けるよ。」と答えた。


「実際、今日もこの後ゴブリン狩りに…」


「クレア」


話そうとしたクレアの言葉をシドウが遮った。


「流石に喋りすぎだ。依頼内容まで漏らすのはまずい。」


「ごめんごめん、つい楽しくなっちゃって。」

クレアがそう返すと、ルミナは「…決めた」と、つぶやいた。


クレアとシドウがルミナの方を向く。

ルミナは覚悟を決めたような顔をし、二人の方をじっと見つめた。


「その依頼、私も手伝う。」


そう真剣な眼差しでルミナは言うがクレアは軽く首を振った。


「いやー、さすがにそれはちょっと…」


クレアから見れば、ルミナはまだ幼くて非力な女の子だ。

そんな子をわざわざ危ない討伐に連れていく訳には行かない。

それでもルミナは、納得がいかない様子だ。


「ゴブリンって群れで行動する、すばしっこい連中でしょ?人手が多い方が効率もいいわ。」


「それはそうだけど…」


「ダメだ。」


説得しようとするルミナにクレアが断ろうとした所で、シドウが一蹴した。


「お前は先程お礼をしたいと言ったな。だが、素人がが介入してすることは手伝いではなく邪魔。

現場を混乱させるだけだ。」


シドウはいつにも増して低い声でそう告げた。

ルミナは、その言葉を聞いて1度頷くと口を開く。


「確かに、素人が行っても足を引っ張るだけ。

でも、私は違う。」


神妙な面持ちでルミナは槍を持ち、立ち上がった。

そのままシドウの方へスタスタと歩いていく。


「備えはしてきた。」


ルミナは手に持つ槍をシドウに見せつけるように持つ。


「この槍は飾りじゃない。足手まといにはならないわ。私だって戦える。」


シドウは、ルミナの目をじっと見つめた。

その目をルミナもまた見つめ返す。

シドウは口を開く。


「どうしてこの依頼に…いや、正確には違うか。」


彼は目を閉じ数秒考え、パッと目を開いた。


「魔物に固執する?」

ルミナは、ハッとした表情をしてシドウから目をそらす。


「別にこだわってなんか…私はただ、困ってる人を助けたいだけよ……」


ルミナは、眉間に皺を寄せてシドウの目を再び見つめ返した。


「そこまで言うなら…いいだろう。ただし、一つ条件がある。」


ルミナはキョトンとした顔をして槍を下ろした。


「条件?それは何?」


「腕試しだ。討伐対象は5匹。内一匹でも仕留めれば俺の負け。潔く頭を下げてパシリでもなんでもしてやる。」


「だが、1匹でも仕留められなければ、身の程をわきまえて大人しく元の生活に戻れ。無論、二度と魔物なんかと関わろうと思うな。

お前が思っているほど、奴らは甘くない。」



四、


ルミナは息を切らしながら、金髪の髪を揺らす。


先程まで走っていたからか汗が頬を撫でたが、槍はまだ真っ直ぐにゴブリンを指していた。


「あんなこと言われて、負けられるわけがない。

でもこれで1匹…」


彼女の目に宿っているのは明らかに殺意そのものだった。

濁りのないその目には光が宿っているような錯覚を起こすほどだ。


ルミナはシドウから言われた言葉を思い出していた。


(「お前が思っているほど、奴らは甘くない。」)


そんなことは痛いほど自分がわかっている。


あの時にこいつらから奪われたものは、他人じゃ計り知れない。


ルミナは、これから先も奴らを倒し続けなくてはならないような使命感に駆られている。


「これで1匹。この勝負、私の勝…」


そう言って槍を振り上げた瞬間だった。


後ろから何かが真っ直ぐにゴブリンへと飛んでいる。


星のように見えたそれは、きらりと光る青色の剣だった。


気づくとその剣は真っ直ぐにゴブリンのおでこへと突き刺さっている。


為す術もなく、ゴブリンは驚いた顔のまま、ゆっくりとその場に倒れた。


一瞬の出来事にルミナは「ふえ?」という間抜けな声を出し、目を丸くした。


「クレアが1、俺が4、そしてお前は0…お前の負けだ。」


突然の声にルミナは肩を震わせた。

後ろから声をかけたのは、シドウだった。


「え、ちょっ、待って!追い詰めたの私だし!」


そう言って両手をバタバタと振る。


「後は、槍を突き立てるだけだったし!そもそも今のって明らかに横取りでしょ!」


彼女は必死に声を荒らげた。

横からゴブリンに向かって放たれた刃は明らかにシドウのものだ。


「ノーカンよノーカン!異議あり!今の判定に異議あり!」


ルミナがじたばたと地団駄を踏む横をシドウは静かに通り過ぎ、ゴブリンから剣を抜き取った。


「横取りしてはならないなんて規定を設けた覚えは無い。

第一、この結果はお前の視野が狭いと言う何よりの証拠だ。」


シドウは、ゴブリンの腕を掴み担ぐ。


「いいか?戦闘において、より良い結果を出すためには過程も重要。

結果だけを見るやつは二流だ。

先程のお前は眼前の敵にしか注意が向いておらず、他方からの介入など全くと言っていいほど警戒していなかった。

だがもし、後ろにいたのが俺ではなかったら、飛んできた刃が向かう先は、お前だ。」


シドウは、じっとルミナを見る。


「敵を倒しても自分まで手傷を負ってしまっては……」


「そんなことをいっても……」


ルミナは口を開いた。


「横取りしていい理由にはなってないわよ!」


ルミナは、目をキッと釣り上げてシドウに向かって怒りを放った。


その声が聞こえないと言うかのようにシドウは、耳を塞ぐ。


「チッ、いちいち細かいことを気にするな。結果だけ見ろ。世の中結果が全て。過程はどうあれお前の負けだ。」


「さっきと言ってること違う!!!」


シドウとルミナがギャーギャーと喧嘩をしていると、後ろからクレアが声をかけた。


「おーい、しどー」


「言われた通り、他の4体持ってきたよー」


と、クレアの後ろには4体ものゴブリンの死体が倒れていた。

シドウは、「おう、助かる。これも今そっちへ。」といってもう一体の死体を持ってルミナの横を通り過ぎ、クレアの元へ向かう。


「あ、ちょっと!まだ話は終わってないんだけど!」


ルミナは槍をブンブンと振り回しながら、シドウの後を追いかけた。


「準備はいいか?」


「おけおけ」


「ねぇ、無視は酷くない?」


「よし、始めるか。」


「もしもぉ〜し!!」


ルミナがそう2人に向かって後ろから声をかけた瞬間に、シドウは思いっきり手に持っている青色の剣をゴブリンに突き立てた。


あまりにも不快な生肉を潰す音にルミナは目を丸くする。


「え……ちょっと…」


ゴブリンの腹部に刺さる刃は容赦なくその死肉を切り裂き、中の臓器が丸見えになる。


シドウとクレアは血まみれになりながらもゴブリンの皮膚という皮膚を、臓器という臓器を切り開いては中身をまじまじと見ている。


「何やって……」

困惑しているルミナに向かってシドウは「解体だが…」と、ボソリと呟いた。


「見てわからんか?」


「いや……さすがにそれは分かるけど…なんでわざわざ解体?希少なら分かるけど、ゴブリンなんて素材にもならないでしょ?」


「……」


「あーもう!また無視!」


ルミナが話しかけていても黙々とゴブリンの解体をする2人にルミナはまた声を荒らげた。


「何か言ってよ!」


「……あいうえお」


「ちがーう!」


シドウが面倒くさそうにルミナの対応をする横でクレアはただ黙々と作業をしていた。


それから数分後、


「これは……」


クレアが息を飲み込んだ。


「予想的中だな。」


2人はゴブリンの臓器をまじまじと見た。


「今回の件に関して、こいつらは白だ。」


「むむむ……」


「一先ず、ゴブリンの案件はこれで完了。先方への報告は頼む。」


「了解〜」


「それと…」


2人は立ち上がり後ろを振り返る。

ルミナが膝を抱えて俯き、近くに落ちていた木の枝で地面にひたすら穴を掘っている。


「そこで拗ねている迷子に、帰り道を教えてやってくれ。」



「リョウカーイ。」



そしてゴブリン退治と迷子の腕試しは終わったのだった。

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