命短し愛せよ己
yokamite
否己影太はいつも己を愛せない
慙愧
第1話 自己嫌悪
日付変わって時刻は午前2時──都内の私立大学に通うためとはいえ、親元離れて一人暮らしするには持て余してしまうほどのスペースがある家の寝室で、僕・
インターネットの発展は人間の生活の利便性を格段に向上させたようだが、僕のような寝る前に目を閉じて意識を手放すまでの手持ち
おっと、いけない。どうもここ最近は日中に比べて夜中の方が頭が働いて仕方ない。くだらない思考が頭の中で降って湧いては
「あぁもう! こんな要らないことばかり考えているから、いつまで経っても寝付けないんだよ!」
得も言われぬ焦燥感に駆られて手に持っていたスマホの電源を切って乱暴に枕もとの充電ケーブルに繋ぐ。ケーブルに繋がれたスマホがその瞬間、機械的に画面を再点灯させる。そのことに若干の
時刻は午前2時30分──一人暮らしの小部屋には、ようやくそれにふさわしい
「うわぁああああああ!!」
――また思い出してしまった。小学生の頃、男の子にとって何故か走る速さがモテる要素として扱われていた当時、足の速さにはそこそこ自信があった僕は運動会の花形であるリレーのアンカーに立候補した。全校生徒はもちろん、それぞれの両親や兄弟などの家族が一堂に会して競技を見守る中で、僕は盛大に転倒してしまい遭えなく最下位となってしまったのだ。
悲しいかな、足の速さがステータスである小学生の間で僕は間抜け扱いされ、僕は参観に来ていた両親共々笑いものにされたのだという負い目を背負う羽目になった。傍からみれば、その程度のこと笑い話にでもすればいいとでも一蹴されそうなエピソードだろうが、多感な時期にあった当時の僕の人格形成には大きな影響があったことに間違いはない。
しかも無邪気な小学生にとって僕の
一度こうなるともう止まらない。
立候補者は僕の他にも複数人いたため全校生徒の前でスピーチをすることで選考されることとなったのだが、結果として生活態度や成績評価から生徒の見本となるよう一念発起して代表に名乗りを上げたという自身の思いの丈を誠実に述べた僕よりも、日頃からクラスの中心的人物で明るく気立ての良い好青年が選ばれたのだ。真面目で有能だという自負から肥大化した自分のプライドが打ち砕かれた悔しさと同時に、人気者の求心力には勝らないという劣等感を覚えたという苦い思い出が
制御を失った脳が芋づる式に記憶を辿ろうとする。閉じた
「お、落ち着こう……。昔僕を笑ったり
しかし、躍起になって止めどなく溢れ出る思考を抑え付けようとすればするほど、どす黒く濁り切った黒歴史の濁流は間違った方向に僕の意識を攫っていってしまう。
「向こうだって、僕のことなんかきれいさっぱり忘れてるはずだ。気にする必要なんてどこにもないし、そもそも僕は悪いことなんか1つもしてないじゃないか……。」
一度心を落ち着かせるために枕もとの充電ケーブルに繋がっているスマホを
「もういっそのこと朝は諦めて3限から行こうかな……。」
3限の開始時刻は13時30分なので、1限の出席を諦めさえすれば睡眠時間を大幅に確保できる。もっとも、慢性的な寝不足に起因してこのような手段はとっくに使い倒しており、そろそろ単位の取得に向けて黄信号が点滅しようかというところだ。そうでなくても、生真面目で完璧主義者な彼にとって大学の講義を欠席することは望ましいことではなく、両親から高い学費を援助してもらっていることなどを考えると、激しい罪悪感に苛まれるのである。
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