第37話 vs雨衣円座 その1

 学園へ到着する。

 当然、生徒たちが授業中の隙に、ぼくと楽外は、敷地を囲う塀を越え侵入した。

 乗り越えられない高さではなかったが、実際は、楽外がぼくを抱え、跳躍し、塀を飛び越えたのだった――さすが、魑飛沫である。

「侵入は成功ね、棺、周りに敵はいない?」

「……誰もいないと思うけど。校舎裏だし――というかさ、もしかして今のこの状況を楽しんでる?」

 ぎくぅ!? と体を上下させた楽外。

「ち、違うわよ、そんなことないもんっ!」と彼女が誤魔化した。

 決定だ、こいつ、楽しんでやがる。

「はあ。まあ、いいか。……雨衣を探そうと思うけど、でもどうするの? 今は授業中だし、教室へいって、雨衣を引きずり出すことはできないよ? 昼休みまで待たないと――」

 分かっていたことではあったが、楽外が自信満々だったので、なにか策でもあるのだろう、と思ってついてきたのだが、しかし、なにも考えてないようだ――。

 ぼくに指摘され、楽外は「どうしよ……」と言いたげな表情で固まっていた。

 勢いだけだったようだ。本当に、なにも考えていなかったのか……。

 ま、それでも昼休みまで待てば、動くことができるのだ、難しい話でもない。

 残り二時間ほど――。

 そこそこ長いが、まあ楽外と喋っていれば、すぐに過ぎる時間ではあるか。

 そんなわけで、ぼくは近くの木の根元に座る――とんとん、と横の地面を指先で叩き、楽外を招いた。彼女も、素直に従い、座ろうとしたところで、

 ぴたり、動きを止めた。

 そしてぼくの胸倉を掴み、真横に飛ぶ。

 すると、ぼくが寄りかかっていた木の、その表面が弾け飛ぶ――木片がまるで刃のように、ぼくたちへ迫るが、それも飛んできたなにかによって、撃ち落とされた。

 なんだ、マッチポンプじゃないか――。なにがしたいんだ?

 ともかく、飛んできたそれは、銃弾だ。

 音もなく、その銃弾はぼくと楽外を狙っていた。

 楽外が、ぼくを庇いながら柄、刀身を取り出し、組み立てて日本刀を完成させる。

 向かってくる銃弾、その全てを一つも余らせることなく、斬り落とした。

 銃弾がぱらぱら、と地面へ落ちていく。

 大量の銃弾が視界の中に――。

 そして、ぼくは見た。

 視界の中には誰もいないけど、しかし敵意はしっかりと感じ取れる。

 どこだ、どこにいる?

 銃弾、拳銃、雨衣円座――

 彼女は、どこにいる?


「じゃじゃーん、後ろから忍び寄るのはわたし、雨衣円座、本人ですよー、どどん」


 まったく高くないテンションで、じゃじゃーん、と言われても。

 驚けないな……、でも、後頭部に銃口を押し付けられているこの状況は、笑えない。

 動けない、なにもできない――足掻くこともできない。

 抵抗が、できなさ過ぎる。

 楽外も動けていなかった。これは、ぼくを人質に取ったということか?

 だとしたらこっちが圧倒的に不利だ。やられた、一歩目で、躓いた――。

「昼休みまで待たなくてもいーよー、だって、こうしてここにいるし、わたしが。ぐーぐーすやすや、って、保健室で寝ていたら良い匂いがして、きてみれば、きみたちがいたの。ラッキー、だよねっ。ねえ、剣士ちゃん、と、……男の子。わたしの遊び相手になってくれるんだよね? ばんばん、ばばばんっ、て、撃って、撃って、撃って、撃って――撃ってもいいんだよね? 楽しませてくれる? ううん、楽しませてあげるね、このわたしがっ!!」

 がちゃり、という音と共に、雨衣の体から、大量の拳銃が飛び出してくる。

 ――百丁拳銃。

 その名の通りの数の拳銃が、銃口が、ぼくと楽外を狙い、撃つ。

「っ、棺っ、とりあえず走ってっ!」

「了解っ」

 言われた通りに走り、楽外の股の下に滑り込む。指示通りだ――、彼女の後ろへ脱出したぼくへ、銃弾が届くことはない。

 なぜなら壁になっている楽外が、全てを刀で、斬り、弾き飛ばしてくれているからだ。

 百丁、それ以上の銃弾から、ぼくを、守ってくれている――。

「ぼくは、どうすれば――」

「いいから、じっとしてて――いや、できればサポートしてくれると助かるわ。自分で考えて、甘えないで。私の力になれるだろうってことをしてて」

 具体的な指示がないってのも、難しいんだぞ!?

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