囮の王
渡貫とゐち
part0――クラスルーム『魑魅魍魎』
第1話 探し人 その1
珍しくもなく普通で、普通過ぎてなんの面白みが感じられない学園だった。なのにそんな学園の名前はとてつもなく長くて、加えてとても言いにくいという負の連鎖である。誰が読むかこんな名前。そのため、ぼくは自分が通っている高校であるにもかかわらず、その学園の名前をまったく覚えていなかった。書くとしたら学生証の学校名を、ただ丸写しするだけである。
耳には入れている。ただ記憶が受け付けなかっただけだ。説明会を含め、詳しい手続きなどは全て父親が既にやってくれていた――ぼくがするべきことまでも、過保護のように。
奪われたと言っても過言ではないだろう。
学校名にすら興味がないやつが、だったらこの学園を受けるんじゃないと言われても反論できないだろう、少なくともぼくは「おっしゃる通りで」としか返せない自信がある。そりゃそうだとしか言えない正論なのだから。
だが、こんなぼくでも受かってしまっていた。
他に受かりたい生徒がいるにもかかわらず、その枠を潰して、こんなぼくが。
まあ、ぼくだって受かりたくないわけではなかったし、面接や試験こそないものの、書類審査では問題ないと判断されたのだろう。ほとんど推薦みたいなものだ。
でもやっぱり、これってコネなのだろう……。
その事実は墓まで持っていくことにする。
そして入学から二週間が経ち、やっとのこと、クラスメイトの名前を覚えたばかりだった。
覚えたとは言え、さすがに割愛するが。
ぼくこと、
―― ――
覚えてたの言葉はよく使いたくなる、という魔法の力がある。ぼくもその力には抗うことができなかった。頭の中で覚えたばかりのクラスメイトの名前を繰り返してしまっていた。まあ、だからと言って顔と名前が一致しているとは限らない。
おいおい、それは最低限、一致させておかないとダメだろう、と聞こえてくる。
ぼくがぼくを叱っているだけだ。
さて、ぼくには目的があり、クラスメイトの名前と顔は一致させておかないとならない。
じゃないと作業が進まないからだ。
そう、つまり、人を探している。
ぼくがこの学園に入学したのは、ぼくの探し人がこの学園に通っているからだ。となればぼくは侵入でもなんでもし、まあそれは入学することで落ち着いたが――そしてぼくは今、二週間を使い、クラスメイトをじっくりと吟味しているわけである。
結果、三名に絞れたわけだ。
あ、ただ言っておくと、一年C組にぼくの探し人がいる証拠はない。CでなくAやBの可能性もある。一年でなく、二年、三年の可能性だってあるのだ。
外見的特徴、内面的詳細も聞かされていない。ほぼノーヒントに近い。無茶だ。無茶苦茶なのだ。クラスメイトに絞っているものの、こんなもの、全校生徒から探すようなものだ。
だから自分で区切って確かめていかないと、範囲が広過ぎて手がつけられない。絞ったはいいが、その箱の外側にもたくさんの箱があって辟易する、という悪循環でもある。
ただまあ、ぼくにだって勘はある。信頼できるような、観察眼が。
学年は一年、クラスはC。あくまでも勘だが、いるのだろう――ここに。
いてくれ、頼む、お願いだから。
もしかして自分のクラスだから、楽な方へ無意識に誘導されたのだろうか――あり得る。
そうだとしても、だけどやはり、探しやすさとしてまず手をつけるにはここだろう。
ここを避けて他を探し、結果、探し人はC組にいましたじゃあ、浮かばれない。
なんて無駄な労力を、と後悔するはずだから。
で、だ。
絞った三人。男子が一人で、女子が二人。見た目こそ普通な三人だが、奇抜な人が特殊な人ではない。普通の人こそ見た目で特徴を出そうとする。弱い心を守る鎧のように。それで言うと特殊な人は普通で覆う。普通への憧れかもしれないが。特殊な人が奇抜な格好をする時代は終わったのだ……、普通であればあるほど怪しい。
ま、奇抜な見た目な人こそ少数派なので、探しにくいだけなのだが。
それでも、醸し出す雰囲気が、特殊であると主張しているとも言える。
ぼくの観察眼は、一応これでもそういう人を見抜けるほどの、経験則は持っているのだ。
もしもぼくの探し人でなくとも、特殊ななにかを抱えていることは間違いない。
その三人が、これだ。
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