第0011撃「メタ氏、番長を自称する!!」の巻

1989年の7月。

芝嶋中学の各教室内を、

冷房が本格的に稼動していました。

南側の淀川に面した窓から射す直射日光から、

閉め切った純白のカーテンがある程度防いでいましたが、

眩しく照らされたカーテンは熱波を放射していました。


何かを発表するためか説明するために、

小生は一人教壇に立たされていました。

クラスの誰かが突然、

「夢野って小学校のときアダ名なんやってん?」と訊いてきました。

小生は皆と違って地元の小学校の出身ではなかったため、

クラスじゅうの関心の的のようです。


アダ名があったことなどありません。

これまで名字以外で呼ばれたことはありませんでした。

小生は小学6年の頃に肥満していたことから、

同級生から二、三度、

「番長」と言われたことのあるのを思い出しました。

そこで「番長と呼ばれてたで」と答えたところ、

皆が一斉に吹き出しました。

小生ほど哀れな男はいないに違いない。

あろうことか、

聴衆からの嘲笑を浴びているのにも関わらず、

"ウケた! 俺は人気がある!"と、

勘違いしていることにも気がつかず酔っていたのでした。


「ホンマか!?」

「ああ、番を張ってたんや」

小生は「実績」もないのに矢継ぎ早に口にしてしまいました。

「じゃあ番長! 輪板(仮名)とケンカしても勝てるんか?」

輪板というのは体格も大きく学年最強と名高く、

以前同級生を徹底的に叩きのめしていたのを見かけたことがありました。

しまった! と小生は思いました。

「まぁ、それはわからんけどな」

引くに引けなくなった小生が渾身の思いで答えました。

またもや皆が一斉に吹き出しました。

教室の後ろの席の輪板が笑っていました。


ある日の下校時、

正門を出たのが輪板と同時でした。

「一緒に帰ろうや」と輪板のほうから話しかけてきました。

「おう」苦々しくも小生は肯定しました。

「今から夢野んち行ってもいい?」と突然問いかけてくる輪板。

「ええよ」

小生は将来有利になるための選択を反射的にしていたのでした。

というのは、

その後の中学生活で不良生徒から暴行をうける小生を、

輪板がたまたま見かけたときは、

輪板は不良生徒たちをただちに撃退してくれたのでした。

そうなることを小生はまだ気づいていませんでした。

自宅に戻ると輪板と共に、

ファミコンの「クルクルランド」や「魔界村」などをプレイする、

輪板と下校してファミコンをすることが多くなりました。


その頃、泡嶋駅前の赤レンガのマンションの一階に中古ゲーム屋ができ、

ショーウィンドー一面をファミコンの各種ソフトが覆っていました。

横の道を通るたびになんとなく目に入るのでしたが、

中古のカセットなんて以前の何人もの持ち主がベタベタ触れて汚れていて、

たとえ価格が安くても欲しくはないな、

などと思ったものでした。


世間で大流行していた「ドラゴンクエスト」を

小生は未だプレイしたことがありませんでした。

しかし、その中古ゲーム屋では想定より安い価格で売られていたため、

小生はつい「ドラクエ3」を買ってしまったのでした。


自宅に寄った輪板にそれを見せると輪板は喜び、

輪板がコントローラーを握り、

小生は隣に座ってぼんやりと、

「ドラクエ3」の映るブラウン管を観るのでした。

まるで誰のための「ドラクエ3なのか」、

誰のための「ファミコンなのか」

誰のための「自宅なのか」

小生にはもはや、わからなくなっていました。


プリンセス・プリンセスの「世界でいちばん熱い夏」

Spotifyで聴くhttps://open.spotify.com/track/5xxRVuYaQxXlTDnn7ir618?si=cUQTHyg3ReainpDK4QlUuQ

YouTubeで聴く https://youtu.be/vYajlTD7IzA

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る