第0007撃「芝嶋中学写真部がはーじまーるよー!!」の巻

奇妙な縁があって芝中の写真部へ入部したとき、

小生は12歳でした。

土曜は授業が午前で終わるので、

お昼のパンを買いに多坂と甲村健一と、

校舎の裏門を出てすぐ目の前の商店へ出かけました。


校内の生徒たちが一斉に買いに走るものだから、

二つある商店はどちらも満員御礼な御様子でした。

人混みをかきわけてやっとのことでパンの棚に辿り着き、

ぐるぐると渦巻きの形をしたヤマザキのミニスナックゴールドと、

あとテキトーに美味しそうな菓子パン一つと、

サントリーの500mL紙パックのはちみつレモンにありつけました。

栄養バランス的にはあまりよろしくないのでしょうが、

ハッピーな気分になれる昼ごはん代を、

出してくれてた母には感謝です。


食糧を調達して三人で校舎に入る裏門をくぐり、

テレビ番組の話となり甲村が訊いてきました。

「なあ、小学生のとき、おもいっきり探偵団覇悪怒組観てたか?」

「いや観てへんな」

「俺も観てへんな」


校舎の一階の端にある写真部の部室に入ります。

プリントした写真の一群を吊るした紐に、

ひときわ目立つイラストが三枚ほど掛けてあります。


三年生の女子の下田先輩(仮名)が顔を机に近づけて血まなこになって、

必死の形相で一心不乱に男の●●●の絵ばかりを緻密に描いていました。

「これ、なんの絵なんですか?」

と小生は無邪気にも下田先輩に訊きました。

「アホ! いま下田に話しかけたらアカンって!」

渡瀬部長に止められました。


渡瀬部長に訊かれました。

「夢野、カメラ持ってきたか?」

「これなんですけど」

「ああこれか、

うちでこれから撮影してゆくには、

新しくカメラ買わないかんな」

小生が持っていたカメラは母からのおさがりですが、

フィルムが横に細長い、

昔の黒電話の受話器みたいな形状をしていました。

(ポケットカメラというもので、

「110フィルム」「ワンテンフィルム」

というものを使用するものでした。)


「35mmカラーネガフィルムてゆうのを使うから、

それ用のカメラを買いに行こっか」

「写ルンです、ではダメですか?」

「おい、おまえなぁー、

これから写真部で頑張ってゆくのに、

そんなこと言ってたらアカンぞー、

まあ写ルンですの中のフイルムだけを入れかえる裏技もあるけど、

初めからそんなやり方覚えとったらアカンぞ。

せめてフィルムコンパクトカメラでいいからやな。

明日わたし時間空いてるから、

駅前のカメラ屋に一緒に付いてったるわ」


小生はその日帰ると、

カメラを買うからお金をちょうだい、

とお願いしました。

そして母だったか祖母だったかに、

五千円をもらいました!


翌日は日曜日、

小生は渡瀬部長と共に、

泡嶋駅前のカメラ屋へ向かいました。

渡瀬部長任せで探してもらうと、

コンパクトカメラがちょうど一個だけ残ってたので、

迷わずそれを買いました。

小生のために運命が一つだけ置いといてくれたんでしょうか。

「これをバカチョンカメラてゆうんやでー、

馬鹿でも朝鮮人でも使えるからてゆう意味やで。

禁止用語やけどな!」


小生はその表現を聞くとなんだか悲しい気持ちになりました。

小学生の頃よく遊んだマンションの友人に朝鮮人がいました。

彼は今はどうしてるんかなあ、

と彼の姿を思い浮かべました。


翌日の部活で甲村が暗室にカメラを持ってきました。

父親のカメラをもらったとのことでしたが、

何万円もするような、

見栄えからしていいカメラでした。

甲村のそのカメラが将来、

女子テニス部を盗撮することに暗躍するとは、

小生は露にも思いませんでした。

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