第18話 前髪
鳴沢は今後も一緒に登下校する理由として、
「運悪く偶然を引き寄せてるだけで貴方のせいでは無いと思うけれど、もちろん事故は起きない方がいいでしょ?」
との事。
全くその通りだし、俺も毎日食事を作ってもらえて本当に有り難い。
その通学中、俺は最近気付いた事がある。
鳴沢澪は流れ出た噂のため今だに誰も近寄っては来ないが、美人なので視線は集中する。
そして最近は俺が一緒に通学している為、
あの鳴沢澪の隣を歩いている陰キャ野郎は誰だ?
という目で誰もが俺の事を見るのだ。
彼女はそれを知ってか知らずか俺に髪の毛の話題を振って来た。
「それにしても貴方の前髪は長いわよね、それはやっぱり人と関わり合いを持たない様にわざと伸ばしているのかしら?」
「あぁ、そうだ。
鳴沢も俺の事は土手で会った時クラスメイトだと気付いてなかったと思うが、こうしていれば陰キャぼっちに見えて近付こうとは思わないだろ?」
「確かに…まだあの時の事覚えてたのね。
…ごめんなさい、私もどうせクラスメイトと喋れないんだったら、自己紹介なんて聞いても意味が無いと思って顔も見てなかったの。
決して悪気があって見てなかった訳では無いのよ。」
「あぁ、済まない、気にしないでくれ。
別に鳴沢を責める積もりで言ったんじゃ無いよ。
俺の前髪もなかなか良い仕事するだろ?って言いたかっただけさ。」
俺は自分の前髪を人差し指でピン、と弾くと肩を竦ませ、おどけて見せた。
「フフッ、貴方って本当に…。
でも今後は私が一緒にいれば髪の毛くらいは自由に切ってもいいんじゃないかしら、前髪邪魔じゃない?
ちょっと失礼。」
鳴沢は俺の前髪を手で掬い上げると俺の顔を覗き込んだ。
すると暫く表情も身体も固まっていたので、
「…鳴沢…?どうしたんだ急に固まって。
俺の顔はそんなにブサイクだったか?」
そこで彼女はハッと我に返り、急に俺に背を向けた。
「イヤイヤイヤイヤ、そそそそんな事は無いわよ、ちょっとビックリしただけ。
…それより、貴方やっぱり髪型はそのまま変えない方がいいわよ、私も常に一緒に居てあげられる訳では無いしね、うん。」
…そうか、俺の顔はやっぱり隠した方がいいレベルなんだな…
…まぁ仕方無い、元々生涯独身かと思っていたから諦めは付くが…
でも解ってたとはいえ、やっぱりショックだな…
暫く立ち直れないかも…。
落ち込んでいる佐竹から早歩きをして少しだけ離れた鳴沢は、顔どころか耳まで真っ赤にしながら、佐竹に聞こえない様に独り言を口にしていた。
「ちょっと本当に心臓が止まるかと思ったわ、まさかあんな…
これは佐竹君の為にも前髪は絶対に切らせちゃ駄目よ、私と彼だけの秘密にしておかないとバレたら大変な事になるわ…。」
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