第17話 友達
約2週間後、実験は一旦終了とした。
結果は、鳴沢澪から10メートルの範囲内に居れば不幸は起こらない。
どうして鳴沢と居ると不幸が起きないのか、原理は全く判らないのだが…
彼女が物凄く幸運な人なのか、それとも俺と一緒で何か超能力の才能でもあるのか…
まぁ判らない事を考えても仕方ない。
兎に角これで鳴沢は唯一俺と一緒に居ても大丈夫な人間で、俺の近くに彼女が居れば何処に行こうとも他人に不幸体質で迷惑を掛ける事は無いという事になる…まだ街中の人混みに行く実験はしていないが。
これでいつも避けていた、人が沢山居る場所等にも行ける様になったハズだ、鳴沢が居るならば。
繰り返す、鳴沢澪が居るならば、だ。
これまで意図的に避けていた、例えば人混みが発生する大きな街中や、修学旅行とか野外イベント等にも行ける事になる。
だがそういう場所に行くには、彼女が俺と一緒に居なければならないという問題が発生する。
まぁどうせぼっちだし、今までそんな所に行かなくても生きてこれたのだから、無理に行かなくてもいいのだが…
もし俺が行きたいと鳴沢に言ったら、彼女は付いて来てくれるだろうか…
鳴沢は俺と一緒に何処かへ行く事を嫌がらないだろうか…
そしてそれ以前に、彼女は俺と友達になってくれるのだろうか…。
実験が終了した翌日の朝、俺は自宅ダイニングにある椅子に座りテーブルに乗っている色鮮やかな朝食を眺めていた。
焼き鮭、だし巻き卵、ほうれん草のお浸し、豆腐とネギの味噌汁…
実は実験を始めてから1週間が経った頃、俺が毎朝米しか炊かないのを
「…佐竹君、私いつも朝ご飯は自分で作って独りで食べてから此処に来てるの。
もし良かったら貴方のご飯も一緒に作りましょうか?」
と言い出した。
「いつも家政婦さんが作ってくれるんじゃ無いのか?」
「家政婦さんは通いだから朝早くからは来ないのよ。
それに私の両親も殆ど家に居ないから、自分で料理を作れる様に家政婦さんから色々と教わっているの。
大体のものは作れるわよ。」
「イヤ悪いよ、俺の事は気にしないでくれ。」
「でも料理出来ないんでしょ?
これからも独り暮らしを続けるなら、もう少し栄養バランスを考えた方がいいわ。
それに1食分作るのも2食分作るのも大して変わり無いし。」
と、彼女はこうして俺の分の朝食も作ってくれる様になっていたのだ。
しかし実験は昨日で一旦終了したので、終了と同時にこの美味い料理も食べ納めかと思っていたのだが、実験終了後も登下校は一緒にしてくれるそうなので、今後も鳴沢の手料理にありつける事となった。
そして彼女は俺の分の朝食を自分の分と一緒に作るのだから、当然朝食を俺の家で一緒に食べている。
「いただきます…。」
「はい、いただきます。」
俺は向かいに座って食べ始めた鳴沢に勇気を出して話し掛けた。
「あの…鳴沢…
この2週間、俺の不幸体質のために色々付き合ってくれて、本当にありがとう。
それで、もし良かったら、おっ、俺と…」
鳴沢は俺の様子を見て何かを察したのか、箸を止めるとあたふたした後、俺をジッと上目遣いで見つめる。
「…俺と?」
「友達になってくれないか?」
鳴沢は顔が急に赤くなった。
「とっ、友達ね!
…私はもう友達だと思っていたのだけれど…。」
「そっ、そうだったのか、済まない…
俺はこの体質になってから、ずっと友達どころか周りに人が居なかった。
居なかったというか、寄せ付けなかったんだが…
だから、人付き合いが下手なんだと思う。
時々おかしな事を言ったりするかもしれないが、これからよろしくお願いします。」
俺が頭を下げると彼女は微笑みを返して来た。
「こちらこそ、よろしくね。
私もこれからは出来るだけ貴方の近くに居る事にするわ。」
「そんな、無理して近くに居なくていい。
今まで何とかなってたんだから、これからも普通に接してくれ。」
「佐竹君、私が元イジメられっ子だって事、忘れたの?
私には同じクラスに貴方しか友達は居ないのよ?
友達に近寄って何が悪いの?」
「そうか…そうだな、これからはいつでも話し掛けてくれ。」
「それは私のセリフよ。」
俺達は2人して笑い合った。
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