心霊系DoTuber【ホラー】
「みなさん、こんばんは。オバケミルコです。今日は心霊スポットとして有名な廃病院に来ています。今日こそは幽霊の映像とれるでしょうか! ご期待ください」
私は売れない芸人。本当はコンビで漫才をしていたいのだけれど、なかなかチャンスに恵まれず、今は心霊系DoTuberオバケミルコとして活動している。
心霊系DoTubeはなかなか人気がある。特に私は女ひとりで自撮りしながら心霊スポットを巡るから、その度胸もかわれてチャンネル登録者数が最近うなぎのぼりだ。でも、本当に心霊現象なんて起こることはないから、実際は漫才の相方のジョンと一緒に来ていて、ジョンに物音を立ててもらったりする演出(ヤラセじゃないわよ)をするから、ちょっとずるいんだけどね。
今日は心霊ファンの間でも有名な廃病院に来た。いつも通りスマホで自撮り。ジョンは廃病院の中でスタンバイしてもらって、どこで物音を立ててもらうか打ち合わせ済み。そこで私が大袈裟に驚いて、半泣きで走って病院を出る。そこまでがシナリオ。
「では、病院に入ってみたいと思います。わー、なんか空気がひんやりしますね」
私は暗い廊下をゆっくり進む。中でジョンが待っているとわかっていても、けっこう怖い。
「雰囲気ありますね。なんか今日こそ出そうな予感めっちゃします」
ひとりでしゃべりながら進む。
ドン!
「え、今なんか聞こえました」
ドン! ドン!
「きゃ! なに! 今の音!」
打ち合わせ通りジョンが壁を叩く。
ドン! ドン! ドン!
「きゃー!!」
私は大きな悲鳴をあげて走って逃げる。このときにスマホがぶれるから、ジョンが映り込まないように気をつけなければならない。
「あー、怖かった。すごい音がしましたね。幽霊のしわざでしょうか。あー怖い。姿は撮れてなかったとしても、音は確実に録れましたよね。みなさんも聞こえたでしょう?」
私は自撮りしながら画面に話しかける。
「これ以上はやばそうなので、今日はここまでにします! みなさんも心霊スポットには気をつけて! じゃ、オバケミルコでした」
スマホの録画をオフにして、ジョンに連絡をする。
「終わったよ。ありがとう」
「おお。今行くわ」
ジョンと合流して、ジョンの運転で自宅まで送ってもらう。
「ありがとう。再生回数伸びるといいんだけど」
「だな。編集大変だけど、頑張ってな」
「うん、ありがとう」
ジョンと別れて、私はさっそく撮影してきた動画をパソコンにとりこんで、編集作業をする。ジョンの映り込みはなさそうだ。もう少し画面は暗いほうがいいかもしれないな。サムネは私の泣き顔で……よし、完成。伸びろよー! と思いながら動画を投稿。帰り途中のコンビニで買ったおにぎりで夕飯をすませ、ソファに横になった。
ピコン、ピコン。
スマホの通知音で目が覚める。ソファで横になったまま寝てしまったらしい。夜中の2時。動画へのコメントの通知がすごい勢いで来ている。
「うわ、何これ。動画めっちゃバズってる」
私はコメント欄を開ける。
オバケミルコってピンじゃなかったんだ。これ相方?
ひとりで行ってたの嘘だったのかよ。
全部ひとりでやってると思ってたのに、嘘つき。
なんで今回だけふたりで映ってるの?
え! まさかの炎上? あんなに確認したのに、ジョンが映りこんでいたのか。これでは今までやってきた「女ひとりの心霊系DoTuber」としてのキャリアが台無しだ。急いで動画を確認する。
「みなさん、こんばんは。オバケミルコです。今日は心霊スポットとして有名な廃病院に来ています。今日こそは幽霊の映像とれるでしょうか! ご期待ください」
え……ちょっと待って。
これ、誰?
私の後ろに、見たことのない男が映っている。編集のときはいなかったのに。最初の挨拶のところから私のすぐ後ろにいて、私の顔の脇からちらとらと顔をのぞかせている。ぞっと鳥肌が立った。こんな男あの場所にはいなかった。こんな人、知らない。ジョンじゃない。ってか、このときもうジョンは病院に隠れていた。あの場所には私しかいなかった。最後私が走っているところまで、一緒に走って真後ろにぴったりついてきている。
ピンポーン!
「きゃ!」
チャイムが鳴って飛び跳ねる。おそるおそるドアスコープをのぞくと、ジョンが立っている。
「ミルコ、なんで電話でないんだよ」
「ジョン! 動画がやばいことになってる!」
私は玄関を開けるなり、ジョンに声をかける。
「俺もどういうことか聞こうと思っ……」
途中まで話しはじめたジョンが、私の背後、室内を見て笑った。
「なんだ、やっぱり知り合いか。彼氏か? 野暮な時間に来て悪かったな。俺の知らない男だったから誰かと思ったんだ。ミルコの知り合いだったなら仕方ない」
え……ちょっと待って、それ、どういう……意味?
「じゃ、邪魔者は消えます。おやすみ~」
ジョンは私の背後に向かって言葉を投げると、ドアを閉めて出ていった。ガサっと物音がする。部屋に、誰か……いるの? 背中に冷たい視線を感じ、私は恐怖のあまり、思わず床に座り込んだ。すぐ後ろで何かが動く気配がした。
【おわり】
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