新しい出会い/三人部屋

「司教様、傷がいえたのでここへ。何かありましたか?」


 現れたのは、路地裏で暴行を受けていた少女だった。


「待っていましたよ。聖女レイナ、あなたの付き人に彼女を付けます。若いながらも知識、実力ともに優れた聖職者だと保証します。必ずあなたの助けになるでしょう」


 司祭の紹介に、少女は一礼する。麗奈は少女に歩み寄る。


「よろしくね」

「……よろしくお願いします」

「名前聞いてもいい?あたしは麗……レイナ」

「……リズ……といいます」


 ぎこちない様子を見せる少女に、麗奈は笑顔で語り掛ける。会話が詰まったところで司祭が助け舟を出す。


「司教、レイナたちに部屋をあてがってください。ここでは広すぎて落ち着かないようです」

「そういえばそうですね。では聖女レイナとネミル。あなたたち二人には、リズの部屋で生活してもらいましょう。いいですね」


 リズがうなずいて動き出す。麗奈は頭に浮かんだ疑問を素早く言葉に出力しようとする。


「えっ!狭くならないですか?それに、なんかお邪魔しちゃう感じ……」

「基本三、四人で使う部屋です。一人で使わせていましたから、ちょうどいいでしょう。リズは部屋に向かいましたよ。聖女レイナ」

「あっ!はい!ネミル、いこ!」


 おいていかれないよう足早にリズを追いかける二人。閉じた扉に視線を向ける司祭たちの間には、重い空気が流れる。


「……ずいぶん甘いようですね」

「彼女たちの甘さのことですか?司教」

「違います。あなたの彼女たちに対する態度です。会議でも再三言いましたが、聖女をぬくぬくと引きこもらせるなど、どうかしている。我々のもとでは通用しない。早々に音を上げるでしょうね」

「……『彼女』はきっと耐えるでしょう。そしてそれに触発されて『あの子』も。出会って日は浅いが、互いにいい影響を与え合う二人だと思います」

「それは会議で聞いたことです。早く帰りなさい。ここからは私が彼女たちをまとめます。この世界の聖女としてふさわしい存在か否か見せてもらいますよ」


 麗奈たちは案内された部屋で話し合っていた。


「わ~!ベッドふかふか!ねえねえ!あたしここでいい!?」

「……聖女様、あなたそんな感じの人だったの?」


 心底がっかりしたような声音のリズに、麗奈は『やっちゃった』というような表情でネミルを見る。ネミルは苦笑いを浮かべる。


「聖女様。ネミル。ここは生易しい環境じゃないわ。覚悟しておかないと、日々の生活だけで体を壊すわよ」

「……そういえば、リズさんはどうして暴行を受けていたんですか?」


 口に出した瞬間、ネミルは目を左右に動かす。デリケートな話題だっただけに、いきなり聞くのは避けるべきだった。


「大した理由じゃない。慣れてるし、気にしないで。というか、助けてくれなくてよかったのに」


 淡々と語るリズに対し、二人は言葉を失う。


「リズはさ、何か好きなものある?食べ物でも、なんでも」

「……」


 沈黙したリズは、立ち上がって部屋を後にする。二人はその様子を茫然と眺めていた。


「……どうしよ。この相部屋、大丈夫なのかな?」

「……私には何とも……」


 一抹の不安を抱きながら顔を見合わせる二人。気難しさを感じさせる少女、リズとの生活は一筋縄ではいかないだろう。


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