エピローグ

対談の記録

「あー、あー聞こえているか?スタラ・シルリリアさん……いいや、宵乃空くんと呼ぶべきかな」


「あぁ、バッチリだよ。まさか、開発者さんから直々に通話のお誘いが来るとは」


「名目的には、現在L2FOで開放されているステージを驚異的なスピードで攻略したプレイヤーへの個人的な調査、ということになっている」


「本音は?」


「……謝罪と、説明だ。君は自分の力で手に入れた結末の方を尊ぶとシリカから聞いたので、L2FO攻略の記念という形式にさせてもらった」


「なるほど」


「それで、質問はあるか?」


「正直尽きないんだけど……結局、魔物って何だったんだ?」


「当然の疑問だな。けれどそれを語るには、私とシリカという人間の説明をすることになるが、良いか?」


「ああ。テキストは短めが好みだから短めに」


「善処するが……聞いていたよりも、少し口が悪いんだな君は」


「事情があったとはいえ友達の命懸けさせた人間だ。ちょっとくらい悪態つかせてくれ」


「それも自明、か。そちらのほうが私としても話しやすい」


「助かる」


「それで、私の話だったな。簡潔に言えば、異世界というものが存在し、そこに暮らしていた人間がシリカだ」


「……はぁ。予想はしてたけど、マジだった」


「どこまで考えていたんだ?」


「魔物が出てきた時点で、知らない世界かそれに似たものがあるんじゃないかとは。あの魔物たちは現実を歩いて出てくるんじゃなくて、降って湧いたみたいに唐突に出てきてたから」


「そうだ、まずこれは飲み込んでくれ。そして、その世界に偶然転移してしまったのが、私という人間だった。これがもう十数年前の話になる」


「偶然って、理由はわかってないのか?」


「生憎。目覚めたら突然という感じだったね」


「こええ」


「それで、道中は割愛するが、シリカの協力もあって私は諸悪の根源を討伐し、現実に帰ってきた」


「俺には、今のところ良いことにしか聞こえないが?」


「問題はシリカの魂だった。彼女の心は世界間の移動に耐性がなく、私の帰還に巻き込まれてしまったせいで魂を大きく傷つけてしまったのだ」


「魂?」


「私はそれを因子と呼んだがね。私は現実に帰ってきてから、その修復のためにすべてを捧げた。できることは全てしたし、異世界で手に入れた力や技術も総動員した」


「結果は?」


「お察しの通り、失敗だ。彼女の魂を修復することは、私には不可能だった」


「私には、か」


「そう、私だけでは。悩んだ私が考えついたのが、魂に多種多様な刺激を与えることだった。認知症患者が人前に出るようになって回復の傾向を見せた、といった話があるように、因子の活性と刺激には大きな相関がある可能性があると仮定した」


「それで、この会社を?」


「ああ。最初はシリカと様々な人間を交流させた。それによって彼女の魂は回復の兆しを見せたし、会話ができる程度にはなったのだ。けれど、まだ足りなかった。その経験を踏まえて作られたのが、L2FOだった」


「異世界にできるだけ近づけたゲーム空間、ってわけか」


「察しが良いね」


「現実に出てきた魔物と、ゲームに出てきた魔物がよく似てたからな。あんたが現実の魔物を作ってないっていうなら、元ネタがあっちなんじゃないかと思ってた」


「シリカから少し聞いていたのか。その通り。環境を近づけることで、魂の復元に役立つのではないかと思った」


「シリカの家で日記を読んだから、その後は知ってる」


「それで、彼女の機能の殆どは回復した。けれど、自分の体を動かすには足りない。だから、次はシリカが他人の感情を直で感じることで因子を増幅させようとした。それが──」


「俺、か」


「そう、けれど因子の増幅には、同じ肉体、同じ因子という条件を作る必要があった」


「それが、スタラが女性アバターだった理由と、俺が選ばれた理由」


「あぁ。異世界人の因子と、地球人の因子は強い類似を見せることがある」


「吸血鬼とかエルフは、異世界の吸血鬼やエルフと因子が似てたってことか?」


「その通り。君が強い感情を見せたことで、シリカはほとんど完全な回復に至った。今は研究所でリハビリを続けているよ」


「だから最近たまにいなくなるのか」


「そうだね。ここまで来てようやく、魔物の話ができる。シリカと君、全く同じ因子がこの世界に存在してしまったことで、異世界とこの世界の結合がほんの少しゆるくなってしまった」


「だから、魔物が現れた?」


「そうだ。全く君のせいではないし、シリカのせいでもない。……私の、責任だ。現在シリカを異世界に戻す方法は見つかっておらず、魔物たちがこちらの世界に訪れている方法も不明」


「……自分のせいにして勝手に楽になるのはやめてくれ。シリカが巻き込まれてる以上、誰のせいでもないんだろ?その言葉は、シリカの心を傷つけるだけだ」


「……随分強い言葉だ。けれど、ありがとう。申し訳なかった、私も、勝手に楽になろうとしていたようだ」


「あんたの作ったゲームのお陰で、俺も自分と向き合えた。だから、少しだけ酷くなってもあんたの背中を無理やり押す。それが俺と……シリカの、決断だ」


「はは、なるほど。君の性格上、いくらなんでもここまで乱雑な言葉を使うことはないと思っていたが……シリカが。そうか」


「あんたが思っている以上に、シリカはあんたのことを思ってるよ」


「……私が慰められてどうするよ。けれど、そうだな。救われた」



 ◆



「すまない。少し取り乱した。それで、質問はあるか?」


「いいや、気になることは聞き終わったよ」


「それでは、通話を切らせてもら」

「だから、ここからは俺の言葉です」


「……聞こう」


「貴方がどう思っていようと、このゲームに俺は救われた。友だちもできたし、今までのことと向き合う勇気ももらった。貴方にとってシリカのための旅なんだったとしても、俺は、俺の道を、あなたの世界で進んだ」


「」


「最高のゲームをありがとう。そして、これからも楽しませてもらいます。一人の、ゲーマーとして」


「……これ以上の賛辞はない、か。こちらこそありがとう宵乃空。これからも私のゲームを、楽しんでくれ」

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