ある文献より

<ゲーム関連のサイト、その文章より引用>

 皆様はL2FOというゲームを知っているでしょうか。最近はこのサイトの中でも取り上げられることが多く、もう攻略関係の話は聞き飽きたかとも思われます。

 ですから、今回は異なる方面からL2FO、Luna Light Finale Onlineについて執筆させていただくこととします。


 ゲーム界隈を超え、最早一般にも普及しているこのゲーム。その存在を、疑問にもったことはありませんか?

 最近立ち上げられたばかりの会社が作った、インディーのゲームです。発売される前は誰の目にも止まらず、知っている人間の方が少なかったのは言うまでもないでしょう。

 それがここまで有名になった。素晴らしい事ですが、あまりにも異常です。


 L2FOの異常な点は、いくつかあります。

 その筆頭として挙げられるのは、完成度の異常さでしょう。インディー、という枠組みですらなく、VRゲームというジャンル全体で見ても時代が三つ、四つ違うと思わせるようなグラフィックとバグの少なさを持ったゲームがなんの経験値もない会社から生まれるなんて事、あるのでしょうか。

 他にも、スタッフの情報が何もない事も大きな異常でしょう。公式サイトを見ても、ゲームの中を探しても、スタッフの名前や功績は一つも残っていません。

 L2FOの開発メンバーを名乗るアカウントはSNSに多く見受けられますが、そのどれもが信憑性に欠けるものであり、虚偽であると考えられます。


 などなど、あげればキリがありません。

 L2FOというゲームは、皆様が思っているよりおかしなものである、というのはわかっていただけたかと思います。


 まだ謎があるだけで解明はされていませんが、今後も私はL2FOについて調べていこうと思います。


関連記事は以下のリンクか…-


「ま、悪くはない」


 記事を読み切った誰かはそう言った。

 誰も信じない、フィクションとして楽しむだけの記事である。それが真実かなんて、どうでもいいのだろう。



 ◆



<とある都市伝説特集より>

 私は最近、おかしなことが起きてると思うことがありました。それは夜中、出かけることが多くなったことと関係があるのかなと思います。

 散歩を趣味としていた私ですが、日中忙しいということもあって、夜中に出かけることがありました。その日もいつもの通り、特に理由も無く散歩に出たんです。確か、深夜二時くらいの事だったでしょうか。


 綺麗な満月が昇る日でした。

 夜と言っても一応都会に住んでいるので、外灯やビルから落ちる光が道を照らしていて、怖いと思うことはそこまでなかったんです。人通りは流石に少なかったですけれど。

 ぼーっと歩いていると、一人、通行人が前から来ているのがわかりました。

 すらっと、しかし筋肉があることがパーカーの上からでもわかる男の人で、モデルの人かな?と私は思いました。真っ赤な髪の毛が見えていましたが、都会ではそこまで珍しい事ではありませんので、気にもしていませんでした。


 すれ違う時、あることに気づいて、思わず声が出ました。

 その人の目は、血のように赤黒かったんです。カラコンとかそういうものじゃないな、って本能でそう思ったんです。きっと、この人の目は元からこんな色なんだろうって、いつの間にかそう考えてました。


「大丈夫ですか?」


 その人が話しかけたときに、また私は驚愕しました。

 八重歯と言いますか、犬歯と言いますか。何にせよ、左右対称な位置に、つららのように伸びた歯が見えたんです。それは人の体の一部とは思えないぐらい尖っていて、野生動物のものみたいでした。

 こんなサイトに入りびたっているからでしょうか。

 その時、確信したんです。


 ああ、この人。吸血鬼なんだって。


「すいません!」


 口は勝手に謝罪の言葉を紡いでいて、そこからは無我夢中に走りました。

 その人は追ってくる様子を見せていませんでしたが、家に着くまで、ずっと走っていました。止まったらいけない気がしていたんだと思います。


 その日からでしょうか。

 犬を飼ったら犬を散歩している人が眼に入りやすくなるみたいに、妊娠した人が身近にいるとマタニティマークに眼が吸い寄せられるみたいに、普通の人じゃないであろう人を良く見るようになったんです。

 耳が長かったり、尻尾のようなふくらみがあったり、とか。


 私はおかしくなってしまったんでしょうか。

 それともホントに、この世界には私達人間以外の何かが人間のふりをして生きているのでしょうか。私には、もうわからないのです。皆さんの意見を聞いてみたく、この場所に書き込みました。

 心当たりのある人は、ここのコメント欄に……


「地味な話だ」


 誰かがそう言って、モニターを消した。

 特に命の危機が降りかかるわけでもなく、読者をぞっとさせる何かが在るわけでもない。陳腐で、粗雑な都市伝説の類だと思った。それが真実なんていう可能性は、一ミリたりとも考慮していないのは誰の目から見ても明らかだった。




 ◆



「どうして、でしょうね」


 宵乃空は眠っている。その横で、夜空の破片から音が漏れ出ていた。


「どうして誰も信じないのでしょう。この危機を、知ろうとしないのでしょう」


 嘆くように、謳うように女は語る。


「日常は、最早瓦解を始めているのに」


 宵乃空の、スタラ・シルリリアのは、ここからさらに加速する。

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