プレゼントは…

九条 楓

〇〇〇

心臓の鼓動が早まる。驚きが隠せない。でも外に出るわけにもいかない。

俺は普通の友達がいて、普通にバイトをして、普通に学生生活を過ごして、単位もたまに落とすようなごくごく普通の大学生。でも俺は今…



風呂場で幼馴染の女の子に詰め寄られています。


話は20分前に遡る––––


「ただいまー…つっても誰もいないけど」

などと言いながらマンションの扉をくぐる。

今日は俺の誕生日。買ってきたケーキでも食べながら、動画サイトでも見よう。

そうだ、ピザも取るか。

そう思い、俺はスマホの出前アプリから肉々しいピザを注文する。

少々値が張るがたまには、というか一年に一度はこんな日があってもいいだろう。

待ち時間70分。なかなかに時間がかかるな。その間は適当に掲示板で書き込みでもしようか。

などと考えていると、メッセージの通知が目に飛び込んでくる。


『誕生日おめでとー!今から家行くー!!』


幼馴染からだった。小学校時代からの付き合いだったが特に恋愛関係に発展したこともない。要するにただの腐れ縁だ。そんなだが、俺たちの間ではお互いに誕生日を祝うのが習慣になっている。

とはいえ、当日に家に突撃してくるのは初めてだ。何かあるのだろうか?


そう思ったが矢先、インターホンのチャイムが鳴った。早すぎるだろ。

それはともかくとして、俺はドアを開ける。


「誕生日おめでとー!ピザ持ってきたよぉ!」

「お~さんきゅ~、まあ上がれ上がれ!」


被った。まあ伏せておこう。


「私の分しか無いけど」

「なめんな」


こういうやつだった。

ともあれ、二人してリビングに上がる。


「ピザうめぇ」

「喧嘩売ってんのか?」


いつの間にか座ってピザまで開けている幼馴染が喧嘩を売ってきた。

まあ俺にもピザは来るんだが...


「欲しい?」

「ピザ注文してある」

「は?この私がお前にくれてやろうと言っておるのだぞ?食べろや」

「あ、いっす」


こんなくだらない会話も俺たちの醍醐味といえば醍醐味だ。ちょっとウザいが。


「ところでさ~プレゼント持ってきたんだけど」

「え?」


何だ今のは。聞き間違いか?こいつがプレゼントなんか持ってくるわけがない。毎年そうだし。


「だから、プレゼントって言ってんの!」


本当だったらしい。マジか。


あまりの衝撃に答えられずに居ると、彼女は勝手に服を脱いだ。

その服のしたにはリボンが巻かれており.....

リボンが巻かれており?

リボン....?

まさかこれは巷によく聞く「プレゼントは私❤」というやつか!?

いやいやいや、こいつに限ってそんなことはない。

だってこいつだぞ?10年以上の腐れ縁で恋愛っぽいムードになったことなんて一度もないしそんな....

などと思考を巡らせている内に脱衣が完了していた。

ビキニにフリルがついたいわゆる浴用水着だろうか?意識したことはなかったが肌の白さやスタイルには惹きつけられるものがあった。その手には謎の茶色い物体が握られていて....

茶色い物体?


「プレゼントはた❤わ❤し❤」


ん?


「じゃ、お風呂行こっか?背中、流すよ?」


たわし?

流石にこの流れはわたしと聞き間違えただけだよな?

風呂...ピザ...まあ間に合うか?


「ほら、早く早く~」


そう言われて強引に風呂場まで押し込められた俺は思考を放棄し、服を脱いで風呂にはいることにした。

幸い、うちの風呂は24時間風呂なので寒くはない。

先程の事を考えながら湯船に使っていたのだが。


「私ちゃんのエントリィィィ!!!」


なんか入ってきた。


「さあさあお立ち会いー!この右手に握っておりますのは~!なななんと!たわしでございま~す!」

「何がしたいんだよお前」

「なんだって~?さっき背中流したげるって言ったでしょ~?」

「右手に物騒なものが」

「あははまさかそんな、ほらとにかく上がって上がって!背中流すよ!」

「はいはい...」


そう言って上がると彼女はたわしを置き、急にしおらしくなって話す。


「私達ってなんだかんだで付き合い長いよねぇ」

「そうだな」

「もしかしたら私達って恋人になってたかもしれないよね」

「それはないと思う」

「酷いなぁ。まあそれが君の個性なんだろうけど」


確かに俺達は付き合いは長い。だがもはやコイツに女性としての魅力を感じるかと言われると怪しい。かわいいしスタイルはいいんだが。


「でさ、昔はたまに一緒にお風呂入ったりもしてたよね」

「まあ...小学校低学年のころな」

「最近になってお風呂はいるなんて思わなかったなぁ」

「君どうせ女の子とお風呂入ったことなんて無いでしょ?」

「まあな」

「ほら、私に体を委ねて...」


そう言って彼女はたわしを取る。

いや、何で?


「はじめは痛いかもしれないけど...慣れたら気持ちいいよ?」

「えっちょっ待てっておい考え直せ」


そして今である。


「ほら、背中向けて?痛くしないからさ?」

「待て待て待て。少なくともその茶色いたわしは人体に向けて使うものではないッッッ」

「君の背中流してあげるのなんて私しか居ないよ?」

「まずはそのたわしをッッッ!」

「なんか、昔みたいだね。こうやって二人ではしゃいでさ」

「感傷に浸らないでいただけませんかッ!?」


ツッコミをしている間にも彼女はにじり寄ってくる。


「ほら、私に全部任せて?ね❤」

「嫌です」

「嫌がってても、ここは正直なんだね❤」


そう言って彼女は俺の腕を指す。

鳥肌が立っていた。全部正直では?


「出ないとっ!」


俺はついに背中を向けて逃げ出した。

が、濡れた風呂場の床で足を滑らせる。


「捕まーえた❤」

「ッッ....!」

「じゃあ...行くね❤」


そう言って彼女は俺の背中に手を伸ばす。


深夜、俺の絶叫が響き渡った。

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プレゼントは… 九条 楓 @kuzyou_kaede

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