第11話 第2層へと向かう

 あれから犬型モンスターと積極的に闘ってもらうことで、ゆあには犬型を克服してもらった。

 1週間経った今では群れを倒せるほどの実力がついている。

 そしてステータスが――


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【氏名】 姫野 ゆあ

【レベル】 3

【魔力量】 レベル2

【攻撃力】 レベル2

【防御力】 レベル1

【スキル】 なし

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「だいぶ上がってるな」

「頑張ったから」

「まぁ、ダンジョン第1層の攻略時間としては一般的だと思う。でもレベル1つ分多く見積もってるから、レベル上げとしては早い方かな」

「なるほど……」


 初心者としてはかなりいい感じだ。

 やっぱりゆあはセンスがいい。元々の身体の作りがダンジョンによく合ってるんだろう。


「じゃあ、配信始めるか」

「そうね。早くしないと他の配信に人取られるし……」


 ダンジョンに入り、配信画面を押す。

 まだ2回目だし、緊張するな……


「こんにちは、ゆあです」

「齋宮です」

「今日は第2層に行きたいと思います。犬型が倒せるようになったので……」


 "マジ!?"

 "犬型倒せるようになったの……!"

 "犬型倒すとこみたい"


「うーん、齋宮どうする? まだ第1層だけど」

「ゆあ、いけるか?」

「倒せるに決まってるじゃない。どれだけ練習させられたと思ってんのよ」

「いやだって第2層以降へのこう、恐怖感みたいなのを減らさないとって思って」


 "ゆあちゃん顔引き攣ってる"

 "そんな練習したんか……"

 "トラウマレベルの練習"

 "もしかして齋宮スパルタなんか……?"


「本当に色々やらされたわよ。犬型をわざと私に向かわせて、斬るまで追いかけさせるとか。他の探索者の方に一瞬だけパーティ組むようにお願いして、絶対に倒さないといけない状況作り出すとか」


 "ひぇっ"

 "こわ"

 "ゆあちゃんよく頑張ったな……"

 "齋宮お前大人しそうな顔しといて……!"


「ちなみに第3層になると虫系が増えます。それまでにモンスターへの恐怖感を少しでも、と」 

「えっ、虫!?」

「そうそう。けっこう厄介なんだよなぁ。飛ぶし。毒吐くし」

「虫……」


 ゆあのアホ毛がしぼんできた。

 虫はみんな苦手だよな。幸い俺は幼少期の頃生まれ育ったのが田舎だったからマシだったけど。


 "あれ普通にキモイよな"

 "うっ、トラウマが……"

 "どうしても攻撃当たらなくて一時間闘ってた配信者いたな"


 コメント欄を見て、ゆあのアホ毛がさらにしぼんだ。

 生きている髪の毛って現実にあったんだな。


「まっ、まぁ、それより早く犬型を倒しましょう。行くわよ齊宮」

「あぁ」


 ゆあの全身を映しつつ、後に続く。

 穴を剣で叩くと一気に8体ほど出てきた。

 いつもより数が多いけど、どうにか倒せるはず。


 ゆあは、1週間前とは明らかに違う身のこなしで犬型を相手にする。

 1匹目を隙もなく急所である頭を刺し、飛び掛かってきた2匹をもろとも壁に叩きつける。次に2匹を次々と心臓を刺し、1匹をかかと落としにする。最後に2匹を一気に剣で切り捨てた。


 俺が思っていたよりもずっと素早い。今のゆあの階級は超低ランク冒険者だが、この動きだけをとってみれば、中ランク冒険者――いや、高ランク冒険者に匹敵するだろう。


 コメント欄も盛り上がりまくりだ。明らかに普通の初心者とは違うその動きに、みんな興奮している。


「ゆあ、やったな」

「うん」


 ゆあとハイタッチをすると、もっとコメント欄が加速する。

 ん? てぇてぇ……? 壁になりたい……? ここに式場を建てようってどういう意味?


 コメントにどうやって答えたらいいか迷っていたら、なぜかゆあが顔を赤くした。


「べ、別に齊宮とはそういう関係じゃないんだからね!」

「えっ、どういう話……?」

「齊宮には関係ない!」

「えぇ」


 話の雰囲気からして、絶対俺とゆあに関係する話だと思ったんだけどな。


「さっさと次に行くわよ。今日は第2層が目的だったんだから」


 なぜか怒っているような調子で次の階層へと腕を引っ張られる。

 筋トレのせいかステータスが上昇しているせいか、普通の女子高生とは思えないその力に、コメント欄を見る余裕はなかった。






「ここが第2層だな」

「第1層とそんなに変わらないのね」


 第2層は第1層と同じく岩肌でできている。

 ここのメインのモンスターはゴブリン。というか、ゴブリンしかいない。


 ただ1つ厄介なのは、アイツらは多少知能を持っていること。

 ゆあがどうやって第3層に到達していたのかは知らないが、本当に幸運だったと思う。第1層でモンスターを舐めて、ゴブリンにやられるやつも少なくない。

 主な攻撃が噛んだり、持っている棒で殴ったりなのだが、整備士として応急処置してきた傷はかなり深かった。


「向こうから来てる」

「危なくなったら逃げよう。ダンジョンでは、生きていた方が勝ちだ」


 グギャギャ、と声を上げて、ゴブリンは襲い掛かってくる。緑の皮に、鋭い牙。

 その一匹の腕をゆあが切り落としたことで。戦闘が始まった。

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