リストラされたベテランダンジョン整備士、美少女駆け出し配信者のディレクターになる。知識チートで支えていたら、バズってしまった件
時雨
第1話 ベテランダンジョン整備士、リストラにあう
18歳から約15年間。俺は、一生懸命に働いていた。
この職業が天職だと思っていたし、なんだかんだ定年まで働くことになるだろう、そう思っていた。
「でもその結果がこれだもんなぁ」
いわゆるリストラ。
俺は職を失ってしまった。33歳にして。
「これからどうしよう。俺は大学にもいってないし、ほんと"ダンジョン整備士"一本でやってきたからなぁ」
15年前にできたダンジョンの前。最近ちゃんと整備されたばかりの広場のベンチに座り、ため息をつく。公園の役割も兼ねているからか、子供たちの笑い声がやたら耳についた。人間、余裕をなくすと他人に優しく生きられない。
「もう探索者になるしか生きる道はないか。はぁ……」
思い返せば、どんなに一生懸命に働いてきても、ずっと馬鹿にされてきた。だから、どこかで分かっていたことだった。このリストラは。
どんなに研究しても、どんなに調査しても、結果を出しても。
「でもあまりにも理不尽すぎるってぇ」
呟いた声は、青い空にじんわりと消えた。
今から約15年前。
突如として世界中に、ダンジョンが出現した。巨大な穴が突然世界各地に空いたのだ。大きさはさまざまで、民家1つくらいのものから、巨大な都市くらいのものまで。ゲーム世界よろしくダンジョンの中にはモンスターがうじゃうじゃ。
最初は世界の終わりだ、と絶望の嵐だったが、調査を続けたところ、ある一定の人間がモンスターと闘うことができることが判明する。その人間こそが、"魔力"と呼ばれる特殊な物質を持っていた人間だった。
それが分かると政府はダンジョンの中に眠る資源を集めるため、モンスターを倒しダンジョン内を探索する"探索者"を募集した。基準は、魔力を持っているかどうかだ。
俺、
それからは色々あって探索者ではなく、ダンジョン内の整備をする"ダンジョン整備士"になったのだが、それはさておいて。
結果として、その整備士もクビになってしまったわけだ。
ダンジョンができてすぐの頃を思い出しつつ、もう一度ため息をつく。
その瞬間だった。
「貴方たち、さっき私の方みて笑ったでしょ!」
広場に響き渡る大声に、思わずそっちを見る。とはいえ俺の心はブルー。喧嘩くらいには興味持てな……ってあれ
その喧騒の中心にいたのは、高校生くらいの少女だった。珍しい。
しかも制服とかではなくて探索者の恰好をしているところを見ると、今から潜りに行くのだろう。
高校生ではまだ実力が足りないからと、探索者になるのはたいてい20近くなってからなのに。
「い、いや、笑ってないです。それは君の思い込みで」
「そんなことないわよ。絶対こっちを見て笑ってた。指さして、お仲間と2人で。私が女の子で、高校生だからってバカにしてるんでしょ」
「そんなことないですよ。な、なぁ」
「そうですよ。他の話題です」
少女に睨みつけられている男たちは、苦笑いしている。
「ふん。今に見てなさいよ。私は魔力量が人に比べてかなり高いの。貴方たちのランクなんかすぐに追い越して、私が探索者として世界1になるんだから」
「は、はぁ」
少女の突然の宣言に、男たちは困ったような表情を浮かべた。ただその表情の中に、侮蔑の色が浮かんでいる。
こんな女の子が、探索者としてやっていけるわけないって感じだろうな。事実ではあるだろうが、少し気分の悪いものを見てしまった。
その後少女はダンジョンに向かい、男たちは馬鹿にするように首をすくめていた。この感じだと、本当に少女の方を見て笑ってたんだろうな。
「……探索者として、手続きしなおすか」
俺もこんなのを見てる場合ではない。
明日から俺は無職になるのだ。今日は休もうと思っていたけど、何歳までダンジョンに潜れるかも分からないし、一日でも多く稼がないと。ベンチから立ち上がるとギルドへ向かった。ギルドは、探索者や整備士としての仕事を管理する機関だ。俺が望んだら、すぐに肩書きを、整備士から探索者に変えてくれるだろう。
「……えっ、駄目なんですか!?」
「その、昔と今とでは規定が違っていて、探索者になるのと整備士になるのでは必要な魔力量が違うんですよ。だから探索者になることはもうできませんね」
「それじゃ、どうしたら……整備士はもう辞めるしかないんですよね?」
「それは……1つ抜け道があって」
「抜け道?」
「フリーの整備士というものが最近流行ってまして。探索者は国の機関に属さないといけないんですけど、整備士はその必要がないんです。モンスターと闘わなくていいですから。ちなみに仕事内容も国営企業とそんなに変わりません。同じように、道路や壁などの整備や、探索者の装備の簡易的な修復、応急手当などです。最近は、割がいいとそっちの方が人気なんですよ。ただ、試験はありますがね。長年整備士として活躍されていた貴方なら大丈夫でしょう」
「なるほど……」
フリーの整備士、確かに聞いたことがあった気がしたが、すっかり頭から抜け落ちていた。探索者になれずとも、それなら……整備士の仕事は、ほんとに天職かと思うくらいに好きだったし。
「ぜひ、お願いします。ちなみに試験はどこで受けられるんですか?」
「ここでも受けることができますよ~」
「今日は予定がないので、今から受けることも可能だったり?」
「そうですね。では、ご案内いたします」
綺麗な受付のお姉さんに連れられ、俺は小さな部屋に通された。どうやらここで試験を受けられるらしい。
「試験はペーパーになっております。制限時間になりましたら、受付に提出していただけたらと思います」
「分かりました。ありがとうございます」
筆記具を渡され、問題を見つめた。確かに、整備士として当たり前のことばかりだ。
これなら……
制限時間が経ち、受付に用紙を提出する。
結果は当然のごとく、合格だった。
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