第19話

「それにしても驚いたね。あんなに簡単に金を出すなんて」

新橋の酒場で佐藤が言った。

「金持ちってものは、あんなもんなんだね。流石というか、お坊ちゃんっていうか、あの楡屋敷のプリンス」

「あなたの作戦のお陰ですよ。長い間療養していてようやく施設を出られることになっても仕事も無いし、施設の使用料もかなり残っていて。本当に恩に来ます」

共に飲んでいた男が言った。

「まさか、あんたが意識も回復して退院できたなんたなんてこと自体が奇跡ですよ。

でもお嬢さんはちょっとかわいそうだな」

「沙織は・・私の子じゃないと思うんですよ。詩織は他のヤツと浮気してたんです。そういうやつなんですよ」

「いずれにしても、楡屋敷のプリンス様は他人に500万も払ったってことか。理由を付ければもっと取れるかもしれんなあ」

「それは、もうやめましょう。私はこのまま静岡に行ってやり直すつもりです。もう身内も誰も居ませんし。」

「人目のある所にいるより、田舎の方が良いだろうね。それじゃあ半分頂きますよ。」

「有難うございます。たぶん逢うのはこれが最後になると思います。」

そういうと男は札の半分の束の入った袋を持って立ち去った。

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