第17話
沙織は崩れるように泣いていた。幼い頃の父の思い出はかすかに残っていた。
優しいぬくもりで抱きしめてくれた感触も覚えていた。しかしその後は、暗い部屋に閉じ込められいくら泣いても出して貰えない恐怖の時間や、母を殴る父の恐ろしい形相に思い出は変わった。今度こそ本当に世界中で一人になってしまったと言う喪失感に涙をこらえることは出来なかった。父と母を失って哀しみのどん底にいた自分を優しい微笑で迎えてくれた神音やフキに、300万円もの大金を請求されたことも胸が痛んだ。沙織は学校進学の費用も出して貰っている。個人で持っているお金などない。
「私、進学しないで働きます。これ以上は皆さんに迷惑をかけたくないんです」
沙織は決心して言った。
「沙織、お金の事は心配しなくていいのよ。」
麗歌が言った。
「私も少しは自由になるお金もあるし、お兄ちゃまだって一流のフル―テイストよ。ギャラも一回で沢山入るし、税金と維持費がかかるのはこの屋敷ぐらいで、贅沢だってしていないもの。沙織は今まで通りにしていればいいのよ」
「お父様は、僕らの両親と同じ茨が原で安らかに眠っていただきましょう。沙織は僕たちの家族なんだから、遠慮しないで今まで通りにしてほしい。」
「でも、実際は他人です。赤の他人です!これ以上甘えることはできません。急には返せないけど、働いて少しづつ返します!」
「そんなこと、言っちゃいけません!!」
叱ったのはフキだった。
「お互いを大切に思いあっていたらそれはもう家族です!フキも及ばずながら家族だと思っています!シャミ様だって家族だと思っていました!」
それでも、沙織は泣きじゃくっていた。
「じゃあ、こうしない?沙織が免許取ったら、セイレーンの嘱託社員にして貰って、お兄ちゃまの送迎役とかスケジュール管理とかするの。東京の工藤君と連携してね。
前からお兄ちゃまが軽井沢で運転するのは嫌だったのよ。もし指に何かあったら、取り返しがつかないわ。沙織だったらお兄ちゃまの得意曲もすべて知っているし、運動神経は抜群だし私も心配しないで済むわ。その中から、少しづつ返せばいいんじゃない?ただし、学校は続けること!」
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