第16話
「今度私のミニコンサートがあるの。私がカルメンをやるのよ。沙織も見に来ない?」
「私、期末テストがあるの。東京までは行けません。」
ニニの誘いをにべもなく断った沙織はそのまま奥の部屋に入ってしまった。
「沙織ちゃんは、神音さんを取られるような気がしているんですよ。」
フキは言った。
「シャミさんが居なくなった後、沙織ちゃんや身寄りも亡くなってこの家に来て、神音様がたった一人の身内がわりでした。勿論この私も婆がわりですが。・・・たった一人のお父様を、ニニさんに取られるみたいな気持ちになっているのかもしれません」
「シャミさんって神音さんの恋人だったんですか?」
「何もおっしゃらない方ですから分かりませんが、でも大切に思っていた方のような気がします。でなければ、沙織ちゃんを引き取ったりしないでしょう」
軽井沢の家のインターホンが鳴った。
「佐藤と申します。沙織さんの事で神音さんとお話が」
いぶかしげに中に入れると、佐藤は話し出した。
「雑誌記者をしている佐藤と言います。実は今野さんと縁があって懇意にしていました」
神音は驚いて顔を上げた。
「実は7年前にあの事件があってから、今野さんの容体は気にしていたのですが、
残念ながら、今月の6日心不全で亡くなられたそうです。ほとんど廃人のような状態で施設に入っていたのですが、身内も居なかったので私が連絡を受けましてね。お嬢さんがいらっしゃるのは聞いていましたが、DV事件で面会が禁止になっていたものですから」
佐藤は手に持っていた荷物を机の上に置いて言った。
「施設に入るときお家や貯金を崩して費用にしたそうですが、この何年かは溜まっていて葬式費用もなく、これはお骨と遺品なんですが、唯一の家族であるお嬢さんに引き取っていただきたいです。それから、私が立て替えておきましたので・・」
500万円の請求書を差し出して言った。
「お嬢さんにはとても払えないでしょうから、身元引受人のあなたに出していただければ助かります。」
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