ある兵士の手記

2176年5月64日 晴れ並びに雹


JPN-6-a126-3エリア

かつて日本の宮城県と呼ばれた地域と山形県と呼ばれた地域、その境付近。


5年4ヶ月に亘り昼夜問わず隙間なく両軍兵士が投入され続け終わりなき殲滅作戦が実行された。


私はCW21354n


1ヶ月前は大学生。

4年で卒業し新卒兵として入隊した。

理由は給料と除隊後の待遇、二親等以内の親族への福利厚生。

親は戦争に行くのかと泣いて心配したが都心の別荘と入隊祝金1億5000万円の贈呈に心底の喜びを隠し切れず、この1ヶ月上機嫌でいた。先日は戦地に発つ俺を見送るその脚で俺とは逆方角の南アメリカ一周旅行へ旅立っていった。私より3時間早い出発の便だった。


午前3時、俺たちを輸送するスカイホエールから初めて戦地が目視された。


昼夜問わず戦闘が継続されているとは事実らしく、見渡す限りの暗闇に半径15kmだけが赤く浮かび上がっている。


人間の耳で聞き取れる事が疑わしい程の大きな衝撃音が響き、更に大きくホエールが振動する。

若い兵が多く乗る我が機はパニックに陥った。


一応大尉だか中尉だかも乗り合わせてはいたが顔を見る限りさほど歳は変わらず、戦場は不慣れか初めてのようだった。


騒がしい虫をを無理矢理押さえつけるように、鯨はその大きな腹を地面に強く擦り付けて不時着した。


そこは今まさにプラズマ銃弾が風を切り火の雨が降る戦場の只中だった。


乗員は散り散りになる。


味方のいる北側へ走る者、ホエールを出た瞬間にプラズマ銃弾に貫かれる者、敵に突っ込む者、ホエールの中から動けない者(ホエールは敵戦車の集中砲撃を浴びて不時着後5分持たず爆発)…


私は飛び出す仲間たちに巻き込まれ、思わずプラズマ銃弾の風の中に飛び出してしまった。

とにかく銃弾を避けれる場所へと走った。


飛び交う銃弾の間、敵陣と自陣の丁度中間あたりの小さな丘のやうなものを目指した。

丘の北側になら見方兵が何人かいるかも知れない。


実際にはそこには誰もいなかった。

いや、大勢いたのか。


一旦そこに腰を落ち着け息を整える。

火の海の中にあってこの場所だけはやけに暗く感じた。


呼吸を意識すると左脇腹あたりが酷く痛む。

そんなに必死に走ったのか。

左脇腹がなくなっている。

へそから左脇腹まで肉も骨も無くなり内臓が崩れ出している。


家に帰りたい。

せめて家の匂いだけ、音だけでいいから繋がりたい。

母と話したい。

戦場から外部に直接連絡する手段はない。


戦場の只中で孤独、誰ともわからぬ糞尿と汗と血と肉、そしてその焼ける匂い、瞬きすれば自分も肉塊に変わるかも知れない恐怖…血の混じった何かを、吐いた。


ブレインフォルダの手帳を開く。

頭部が無事ならその脳が私だとわかるように…せめて今できる最良の方法で生きた証を残そう。


腰が抜けて足が動かない。

力を入れても。

掴まれているように。掴まれている?

私の両足を手が掴んでいる。


2本手が生えている


折れ曲がった下半身に座っている


右に誰かの顔

こっちをみている

違う顔が半分ずつくっつく


まる焦げの肉

指耳耳耳耳爪爪爪


眼眼眼眼眼眼目眼目眼眼目眼目眼眼目目めめめめめめめめめめめめめ


内臓から

穴から


うめき

死ニタヒ死ニタヒ殺シテ苦シ痛嫌ダ生キタヒカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセ……




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2180年7月37日

JPN-6-a126-3エリア

「不死兵の丘」にて発見

「マスタースマイルの頭部よりそのブレインフォルダ」よりその一部

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