第2話 想いと約束

中国の潜水艦を殲滅した日の夜、蒼一郎はいつものように周辺の監視を続けていた。


 「やぁ蒼一郎。体調に変化はないかね。」


蒼一郎が声の聞こえたほうに目を向けると、蒼一郎の後ろにブラウンスーツに黒色のチェスターコートを羽織った白髪オールバックの中年男性が立っていた。


 「高宮さん。特に問題はありません。」


蒼一郎の後ろに立っていた中年男性は現防衛大臣で蒼一郎の直属の上司である高宮豊たかみやゆたか。蒼一郎のことを本当の息子のようにかわいがっており、たまにこうして蒼一郎に会いに来る。


 「そうか、それは何より。それよりやはりここは寒いな。まだ、夏本番だというのに。」


 「まぁ、ここはスカイツリーより高いですしガラスも何のないですからね。」


 「今日も日本を守ってくれたそうだな。ありがとな。」


高宮防衛大臣はそっと蒼一郎の頭に手を置いた。


 「それが俺の仕事ですから。他の国の戦闘機も日に日に進化してますから気も抜けません。」


 「そうだな、情けないかもしれないけどお願いするよこの国のこと。出来る限りサポートはするから。」


 「任せてください。拾ってもらった恩がありますからこうして戦えるのも国のおかげですし。」


蒼一郎のその言葉を聞いて高宮防衛大臣の顔は一気に曇った。蒼一郎が各国の最新鋭の戦闘機と一人で戦えるのは12歳からの3年間、壮絶な戦闘訓練を受けてきたからである。朝から夜遅くまでほとんど休憩なしのオーバーワークが怪我をしようが風邪をひこうが毎日続けられた。蒼一郎はこの訓練のおかげでといって恩を感じているが、高宮防衛大臣を含めた一部の上層部の人間は負い目を感じていた。

ある日、強さに変わりに壊れていく蒼一郎を見た高宮防衛大臣は蒼一郎を戦闘訓練から逃がす目的で防衛省で身柄を預かった。

だが、身柄を預かって間もなく第3次世界大戦が勃発した。多くの国がアメリカら3か国の植民地になっていく中、遂に日本にも多くの戦闘機が押し掛けてきた。3か国との軍事力の差に絶望し植民となる覚悟をしていた時、上層部はある報告を受けた。「襲ってきた3か国の戦闘機が全滅した」と。すぐに現場近くの監視カメラの映像を見るとそこには刀を握り血まみれの状態の蒼一郎であった。

その日から上層部は日本の防衛を蒼一郎に一任した。


 「ありがとな。何かあったら相談してくれよ。」


その時、蒼一郎のご飯を持って美琴が訪れた。


 「蒼くん、ご飯を持ってきたよ。って大臣も来てたんですか。」


 「なんだ?来たら悪いか八坂君。俺だってたまには蒼一郎と親睦を深めたいのだよ。今までさみしい思いをさせた分、たくさんかまってあげないと。」


 「その件なら大丈夫ですよ。私が毎日会って話をしてますから。それにこの間、蒼くんが20歳になったら一緒にお酒を飲もうねって約束もしたんですよ。ねぇ蒼くん。」


 「何!そんな話は聞いてないぞ。」


 「それはそうですよ。私と蒼くんの約束なんですから。」


 「ずるいぞ。俺も蒼一郎と酒を酌み交わしたい。それに八坂君はお酒弱いだろう。ここはお酒が強い私が適任だな。」


 「なぁに言ってるんですか。大臣は酔ったら絡み酒が過ぎるんですから蒼くんがトラウマになったら大変です。ここが大人なの見方ができる私が適任でしょう。」


 「何を。」


 「ふっ。」


2人の言い合いを聞いていた蒼一郎は思わず笑ってしまった。


 「すみません。この先何があるかわからないのに実現できるかどうかわからない未来の話を真剣にしているのが面白くて。後2年もあるのに。」


 「何言ってるんだ?実現させるに決まってるだろ。それに『2年も』じゃなくて『2年しか』な。」


 「え?」


高宮防衛大臣の予想外の回答に蒼一郎は驚きを隠せなかった。


 「俺たち防衛省の目標は和解による終戦だ。総理達も納得してくださってそのように進めている。君の青春を奪った大人と戯言と思うかもしれない情けないと思うかもしれないが、聞いてくれ。後2年だ。必ず、2年以内に和解による終戦をして見せる。だから、それまでは日本を頼む。」


高宮防衛大臣は深く頭を下げた。


 「もちろんです。これ以上無駄な争いは俺もしたくありません。信じてますよ大臣。終戦したらみんなでおいしいお酒飲みましょう。約束です。」


蒼一郎は大臣にそばにより右手の小指を差し出した。


 「あぁ任せてくれ。必ず成し遂げてみせる。」


高宮防衛大臣は蒼一郎と指切りをした後、防衛省へ戻っていった。大臣が戻った後、美琴は蒼一郎の横に座った。


 「ご飯食べましょう。」


2人は並んで夕食を食べ始めた。


 「さっきの話になるんだけど。大臣も言ったように私たちは和解による終戦と植民地になっている国の独立化に向かって動いているわ。楽や道のりではないことは百も承知だけどこれ以上無駄な争いはやりたくないの。後2年、蒼くんあなた1人には多大な負担をかけるかもしれない。ごめんなさい。」


蒼一郎は口に含んでいたご飯を飲み込み、箸をおいた。


 「八坂さん、俺はこの3年間一人で戦ったなんて思ったことはないですよ。俺が安心して戦えるのもサポートしてくれているあなた方防衛省や自衛隊の皆さん、総理などの上層部の方々がいるからです。外交官の方々や外務省の方々は多分俺のことが嫌いでしょうけど。今の日本があるのは何も俺だけの成果ではありません。みんなで守った国です。だから、俺は信じてます八坂さんたちが必ず成し遂げてくれることに。」


 「蒼くん・・。」


 「それにみてください。」


蒼一郎は満天の星空を指さした。


 「今俺がこんなきれいな夜空を見れるのは、あの日空っぽの俺を見つけてくれてたくさんの愛情を注いでくれた皆さんがいるからです。感謝してもしきれないくらいですよ。大臣はいつも気にかけてくれるし、八坂さんは毎日会いに来てくれてお話ししてくれる。ただそれだけだと思うかもしれませんが俺にとっては十分すぎるくらい活力をもらってます。だから、後2年俺も頑張ります。互いにやり遂げましょうね。」


蒼一郎が話し終わるころには美琴の顔は涙でボロボロになっていた。自分たちの愛情がちゃんと彼に届いていることの安心感と彼の言葉のやさしさに美琴は涙を抑えることができなかった。


 「すごい顔になってますよ。これで涙拭いてください、もう少し一緒に星でも見ましょ。」


 「ありがとう、絶対成功させて見せるわ。」


 「楽しみにしてますよ。終わったらおすすめのお酒教えてくださいね。あまり度数が高くない奴で。」


 「任せなさい。」




それから2年後・・・

終わりは突然やってくる。

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